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最終話 私、幸せです
しおりを挟む「な、何かの間違いです! 陛下、私はそのようなことは――!」
「はぁ、いい加減気付いた方が良い。君がソウカを連れ戻しに来たのは、クレオパス子爵家のお金が上手く回らなくなったからだろう? ソウカは、君に渡された少ないお金では足りないからと、薬を作ってお金を工面していたんだ」
「なんだと!?」
まさか気付いていなかったんですか……?
ジェイド様に渡されるお金では、お義母様の薬代は勿論、クレオパス子爵家の家にかかる様々なお金も足りなかった。だから、私はクレオパス子爵邸付近で採れる薬草や、渡されたお金を元手に仕入れた薬草で、薬を作り、モーリスさんに売っていた。
良い薬草は手に入らなかったから、威力の弱い薬しか作れなかったけど、それでも評判が良いと、モーリスさんは多めの金額で買い取ってくれた。
そのお金で、私はお義母様の薬代や、ご飯、クレオパス子爵家の家の管理をしてきた。
「モーリスやクレオパス領の領民が証言してくれたよ。お葬式も知らない間に終わって、ソウカは用済みだと離婚され、家を追い出されたとね」
「そ、それは……」
ジェイド様は自分に都合の良いように、周りに嘘をついていたんですね。
最後までお義母様の面倒を見ていたなんて、嘘ばっかり。お義母様の葬式にすら、まとも出席しなかったクセに!
「クレオパス子爵、ミレイ嬢、最後にもう一度警告します。今後、ソウカに手を出すことは許さない。手を出せばその時は、僕達セントラル侯爵家を敵に回すことをお忘れなく」
フォルク様、アンシア様、コリー様は、三人揃ってジェイド様、ミレイ様を睨み付けた。
まるで蛇に睨まれた蛙のようになった二人は、反論することも無く、ただ小さく、はい。と頷いた。
*****
――――ユミエル様の婚約を祝う宴から数週間。私は何も変わらない、平和な日常を送っていた。
皇室から正式に薬師と認められ、セントラル侯爵家の庇護下にある薬師として、誰に危害を加えられることもなく、薬師に没頭出来る日々。
あれからクレオパス子爵家は、私が家にいる時と同様に散財を繰り返し、更には、全ての信用を失い、経済が回らなくなり、破産したらしく、今や爵位を剥奪され平民落ちした二人は、まともな生活も送れず、ミレイ様は自身の体を売り、ジェイド様は役に立たない無能と罵られながら、何とか生活しているらしい。
私がこうして、平和に暮らせるのは、両親やお義母様のおかげだ。皆を治したい。そう思ったから、私は薬師の夢を見付けて、努力した。
「お義母様、お義母様の為に作った薬で、多くの人達を救えるようになりましたよ」
写真の中のお義母様に向かって、声をかける。
まだ魔力病の完治する薬は作れていないが、これからも諦めるつもりはない。私は絶対、魔力病を治す薬を作ってみせる。
「ソウカ」
「フォルク様」
フォルク様は私に、写真立てに入った写真を渡した。
「これ……」
「グローリア男爵と夫人――ソウカの父親と母親の写真だよ。見つけたんだ」
ジェイド様に全て取り上げられてしまったお父様とお母様の形見。写真も、一枚も手元に残らなかった。
写真の中に並んで映るお父様とお母様は、久しぶりに見る顔で……ああ、こんな優しい顔をしていたなって、思い出すことが出来た。
「ありがとうございます……フォルク様」
私を救い出してくれたフォルク様には、感謝してもしきれない。
「どういたしまして」
フォルク様の顔を見ると、安心する。傍にいると、ドキドキする。
この感情がなんなのか、今はまだ気付かないフリをします。
「フォルク様、私、今、とっても幸せです」
きっと天国にいる両親、お義母様も、私の幸せと喜んでくれていると思うから――
完
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