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34話 セントラル侯爵家の薬師
しおりを挟むセントラル侯爵家にお世話になっている間、私は思う存分、薬師として働くことが出来た。
フォルク様に薬の知識を教わりながらも、さまざまな薬を調合した。そしてそれは、セントラル侯爵家によって、さまざまな薬を必要とする場所に届けられた。
その薬は、普段の薬の倍以上の効力があると話題になり、調合者、つまり私の名前は、セントラル侯爵であるフォルク様のお力添えもあって、皇宮にまで届く届くことになった。
「――クレオパス子爵、その妹のミレイ嬢。セントラル侯爵家の薬師であるソウカ、そして、妹のアンシアに対して行った無礼、許せるものではありません」
テラスから中に戻ると、コリー様がジェイド様、ミレイ様に対して、大勢の観客の前で詰め寄っている最中だった。
「な、何のことやら」
「とぼけても無駄ですよ。ミレイ嬢の無礼な振る舞いは映像石にて記録しています。ソウカさんに対して何かしら仕掛けてくると思って用意していましたが、まさか、魔法まで使って乱暴しようとするとは思いませんでしたよ」
映像石って……いつの間にそんなものを? まさか車椅子に?
コリー様は映像を再生させ、わざと、大勢の人達の前でその映像を晒した。
「こ、これは! その、ソウカが自分の立場も考えずこのような分不相応な場所に来たから、妹は注意しようと思って」
「注意しようと思って? それで、妹も巻き込んで魔法で危害を加えようと? 兄さんが止めに入らなければ、二人は大怪我を負っていたでしょうね」
静かながら、コリー様からは激しい怒りが感じられた。
「お姉様は、私の薬師です! お姉様に害をなすということは、セントラル侯爵家を敵に回すも同意です!」
アンシア様も、コリー様に加担し、強く、二人を非難した。
「……くっ」
例えどれだけ言い訳を並べようと、ミレイ様の数々の暴言、更には、魔法を使い人を傷付けようとしたことは、許されることじゃない。しかも、神聖な皇宮で、皇女の婚約の宴の場で。
誰もクレオパス子爵家の味方をしようとする者はいなかった。
「クレオパス子爵、覚えていて下さい。ソウカは、セントラル侯爵家のお抱え薬師です。貴方方が勝手に手を出していい相手ではないんです」
最後に、フォルク様も加わった。
まるでこの場にいる全員に、私に手を出すのは許さない。そう、聞かせるように――
「ソウカ」
「! 陛下……!」
騒ぎの最中、ユミエル様と共に皇帝陛下が現れると、全員が道を開けた。
「其方の活躍、セントラル侯爵から聞き及んでおる。あの未知の病だと言われる魔力病の解明に尽力し、効果的な治療法を見つけたとか」
ざわっと、陛下の発言に周りから驚愕の声が上がった。
「あの魔力病の? 不治の病で、一度発症すれば苦しみぬいて死を待つしかないと言われているあの魔力病の?」
「そう言えば、アンシア様は魔力病だと伺ったのに、こうして宴に出て来れたのは、あの薬師のおかげなの?」
「魔力病で苦しみ、死んでいった民達は多くいる。今も、今後も、魔力病に苦しむ民はいるだろう。そんな者達を救う薬を作ったこと、感謝する」
「そんな……私は、まだ……」
完全に魔力病を治す薬を作ったワケじゃない。
「それでも、ソウカの作った薬は魔力病に苦しむ多くの者達を救うことになるだろう。そして、これから先、ソウカが魔力病を治す薬を開発してくれるのを、楽しみにしている」
「! は、はい!」
皇帝陛下からこうして、皆の前で直接お褒めの言葉を頂き、エールの言葉をかけられる。それは、私という薬師の存在が、皇室に認められたということ。
周りからは、盛大な拍手が鳴り響いた。
「ま、待って下さい! そんなのおかしいです!」
だがそこへ、納得のいっていない様子のジェイド様とミレイ様は、待ったをかけた。
「ソウカは、僕の義母も救えなかった無能な薬師です! それが、陛下に認められるような薬師だなんて……いかさまです! きっと、ソウカは何か不正を働いているに決まっています!」
「救えなかっただなんて……あれは、貴方がお義母様に満足に治療を受けさせる環境を作らなかったからじゃない!」
許せないと思った。
魔力病患者であるアンシア様と触れ合い、私の作る薬は、きちんと効果が出るものだと立証された。お義母様にも、効いていたとは思う。思うけど、アンシア様ほどの回復は見られなかった。
「貴方が……ちゃんと、薬草や食事、清潔な環境を用意してくれていたら、お義母様はもっと――」
生きれたのに!
「どういうことだ? 先代クレオパス子爵夫人は、必死な闘病生活の上亡くなったんじゃないのか?」
「クレオパス子爵は、きちんと最後まで面倒を見たと言っていたよな?」
私の発言に、周りの貴族達は疑惑を込めた目で、ジェイド様とミレイ様を見た。
「クレオパス子爵、貴方が先代クレオパス子爵夫人を別宅に追いやり、ソウカに看病を押し付け、満足にお金も渡さず、治療を受けさせなかったことは調べがついています」
フォルク様は、証拠となるクレオパス領の人々の証言や、クレオパス子爵家の金の流れなどを示した書類を見せると、陛下に手渡した。
「ふむ、これはまた、酷い扱いをしておるの」
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