夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子

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26話 可愛い妹

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「ソウカさん、ソウカさんのこと、お姉様って呼んでもいい?」

 アンシア様の診察を続け、薬師として薬を提供し、いつものように香草茶を二人で飲んでいると、突然、思っても見なかった発言が飛び出し、頭の中に???が飛び交った。

「えっと……アンシア様のような、セントラル侯爵家のご令嬢にお姉様と呼ばれるなんて、私には恐れ多いことです」

 私、ただの駆け出しの薬師ですよ? 平民落ちした貴族ですからね?

「そんなのどうでもいいの! 私が、ソウカさんをそう呼びたいだけだから!」

 どうかなー!? 周りがビックリすると思いますけど!

「それに、ソウカさんはただの薬師じゃないでしょう? 加護持ちの特別な薬師だって兄さんから聞きました!」

「それもまだ半信半疑ですし……例え加護持ちだとしても、私、まだ全然使いこなせていません」

 今後使いこなせる自信も無い。だって今まで何の自覚も無かったんですよ? それを、急に魔法が使えると言われても……フォルク様の話では、加護を上手く使えるようになれば、効力の上げ具合も調整出来るようになったり、もっと色々な奇跡を起こせる――かもしれない。とのこと。
 なにせ加護の魔法は、伝説級の噂話としてしか聞いたことがないくらい、未知の魔法で、手探り状態。今はとりあえず、魔法が得意なフォルク様に、魔法の使い方を教えてもらっている最中。
 残念ながら魔法の才能が無くて、今の所、何の成果も見られていませんけどね。

 フォルク様は優しいから、『焦らないで大丈夫だよ』って言ってくれるけど、フォルク様の貴重なお時間を無駄にしているのも辛い。

「でもでも、私がソウカさんのおかげで元気になったのは確かだから!」

 確かに、完治はしていないと言え、アンシア様の調子は、以前と比べると雲泥の差だった。
 ベッドで寝たきりだったのが、今では起き上がり、食事も取れるようになり、調子が良ければゆっくりとだが歩けるようにもなった。魔力病の発作は時折起こるようだが、そんな時は私が調合した発作を抑える薬を飲んで、ゆっくりと体を休めてもらっている。

「私、本当はずっと、お姉様が欲しかったの! だから、お願いソウカさん!」

 ……ここの兄妹は、貴族と平民の境目がゼロなんですね。フォルク様も私と普通にお話されますが、アンシア様まで……

 私だって、アンシア様は可愛いと思う。
 こんなに私に懐いてくれているし、そもそも見た目が可愛いし、頑張り屋だし、私だって、アンシア様が妹なら嬉しい。
 でも、身分が違うものは違う。 

「申し訳ありませ――」

「ソウカさん、お願い! 私、ソウカさん大好きなの」

「――いいですよ」

 駄目! こんな可愛い美少女に、上目遣いでお願いされたら、もう頷くしかない! 意思が弱くてごめんなさい!

「本当!? ありがとうソウカさ――ううん、お姉様!」

 可愛い。呼び名一つでそんなに喜んでくれるなんて、可愛い、可愛過ぎます!

「私、本当にお姉様に感謝してるの。お姉様が来なかったら……私、あのまま、不貞腐れたまま死んじゃってたと思う」

 未知の病に侵されて、誰からの優しさも拒絶して、どうせ治らないからと、治療も拒んだ。

「兄さん達が心配してくれてるのも分かってて、拒絶して、酷い態度取って、沢山傷付けて……反省してるの」

「アンシア様……」

「だから、約束する。もう、絶対に諦めたりしないから。最後まで、病気と戦うって決めた。だから、お姉様も……最後まで私を助けてくれる?」

「勿論ですアンシア様。私で良ければ、お力にならせて下さい」

「ありがとう、お姉様!」

 眩い笑顔で感謝を伝えられる。
 アンシア様が少しでも元気になってくれて良かった。未熟な私だけど、こうして、誰かの力になれるのは嬉しい。

「あ、そうだ! お姉様、私のこともアンシアって呼んで欲しいな」

「そ、それは無理です!」

 遠慮なく私にとっての爆弾発言を続けるアンシア様。前にフォルク様にも同じようなことを言われた気がしますが、本当にお兄様とそっくりですね。

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