22 / 35
22話 奇跡
しおりを挟むタポンの採取を終え、コルンまで戻ると、急いで薬の調合に取り掛かった。
ヒナギクさんの顔色はさっきよりも悪くなっていて、呼吸も力なくなっていた。
ヒナギクさん、お願い、絶対に死なないで! 助けてみせるから!
「あれって薬草のタポンだろ? 初心者向けの、効力の弱い……」
「あの薬草で作った薬じゃ、大した怪我は治せねーよ」
様子を見ていた住民達からは、もう助からない、諦めるしかないと言った、悲痛な声が聞こえた。
確かに、タポンは初心者向けの薬草で、色々な用途に使える反面、効力としては弱い薬草だった。ポーションとして活用した場合、治せるのは、軽度の切傷や打撲、火傷などで、重傷人を治せる効果は無い。
薬師であるソウカもフォルクも、言われるまでもなく、理解している。理解していて、諦めるつもりがなかった。
「ヒナギクさん、飲んで下さい、お願いです」
必死で、出来上がった薬を口に運ぶ。
「ソウカちゃん、もういいよ。ヒナギクさんはもう……」
コルンの住民達は、懸命に助けようとするソウカに、諦めるように声をかけた。
「嫌です、絶対に嫌! お願いです、ヒナギクさん! 戻ってきて……!」
――――普通に考えれば、助からないはずだった。
「げほっ、ごほっ! 何だい、騒がしいねぇ」
「ヒナギクさん!」
「あれま、ソウカちゃんじゃないかい。コルンに戻って来たのかい?」
目を開け、意識もハッキリした様子で、何事も無かったように会話するヒナギクの姿に、ソウカはガバッと抱き着いた。
「ヒナギクさん、良かった……助かって良かった!」
「よしよし、どうしたんだい? まさか、また町のもんに虐められたんか? あんだけこっぴどく説教してやったのに、懲りないねぇ。また、うちが説教しといてやるからねぇ」
ヒナギクはソウカの頭を撫でながら、優しく優しく、慰めるように声をかけた。
「嘘だろ!? あの状態のヒナギクさんが治ったのか!?」
「ヒナギクさん! ああ、無事で良かった! 奇跡だわ!」
奇跡を目の当たりにし、コルンの住人達は、驚きと歓喜の声を上げた。
「本っっっ当に申し訳なかった! ソウカちゃん!」
全ての怪我人の手当てを終えた後、コルンの住民達は、揃ってソウカに向かい土下座した。
「や、止めて下さい!」
何で!? 急にどうして!?
「もっと深く頭を下げんかい。全く、ソウカちゃんの人となりを知っておきながら、平民落ちの貴族様だからって態度を変えて、ほんっと、情けないったらありゃしないよ」
状況を理解したヒナギクさんは、頭を下げる住民達に向かい、深くため息を吐いた。
「だってよぉ! 平民落ちの貴族ってたら、悪事を働いたから平民になったって話で!」
「全員が全員そうじゃないと説明したじゃろうが。大体、ソウカちゃんが悪事を働くような悪い子に見えるのかい? あんたんとこの娘が風邪を引いて苦しんでいた時、助けてくれたのは誰だったんだい?」
「――っ、ソウカちゃんです!」
「はぁ、本当にごめんなぁソウカちゃん。町の者には、こっぴどく説教しといたからの。ほんに、人を見る目のないバカな奴等ばっかでのぉ」
本当に、私の為に怒って下さったんですね……
「勘弁してくれよヒナギクさん! 俺等、ヒナギクさんにこっぴどく怒られてから、ずっと反省してたんだぜ!?」
「うるさい! ソウカちゃんがどれ程傷付いたと思ってるんだい!」
「わ、私は大丈夫です! 元はと言えば、元貴族であることを黙っていた私の所為ですし……」
「こんな見る目の無い大人達ばっかりじゃあ、黙っていたくもなるさ、ソウカちゃんは何も悪くないよ」
「ソウカちゃん、本当にごめん! 俺等、冷たい態度を取ったのに、こうして助けに来てくれて、本当にありがとう!」
「息子を助けてくれてありがとう、ソウカさん!」
「ソウカお姉ちゃん、ありがとう」
コルンを出て行く時、もう、ここには戻って来れないと思ってた。もう、コルンの人達が以前のように私に接してくれることは無いんだなって、とても悲しかった。
「私は……皆さんがこうして、また普通通りに接してくれるだけで、幸せです」
私は、この自然溢れる、優しい人達で溢れるこの町が、大好きだった。だから、こうして、以前のように接してくれるようになったのが、とても嬉しい。
「ソウカちゃん……! 許してくれてありがとう!」
「あの貴族が壊したソウカちゃんの家は、俺等がしっかり直しておくからよ。また、いつでも戻ってきたい時に戻って来てくれよ」
「そうだね、ここはもう、ソウカちゃんの故郷みたいなもんだ。いつでも戻ってきていいんだからね」
「……はい、ありがとうございます!」
ジェイド様が私を連れ戻しに来た時、私の幸せが足元から崩れる音がして、もう無理だと思った。私は、幸せになんかなれないんだと思った。立派な薬師にもなれなくて、両親やお義母様の自慢の娘になれないんだと、絶望した。
でも、ボロボロに崩れた足元は、まるで病気が完治するかのように、修復された。
「良かったな、ソウカ」
「はい……ありがとうございます、フォルク様」
あの時、私を助けてくれたフォルク様のおかげで、私は今、幸せだと、そう思えます。
670
お気に入りに追加
1,398
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます
tartan321
恋愛
最後の結末は??????
本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
二度とお姉様と呼ばないで〜婚約破棄される前にそちらの浮気現場を公開させていただきます〜
雑煮
恋愛
白魔法の侯爵家に生まれながら、火属性として生まれてしまったリビア。不義の子と疑われ不遇な人生を歩んだ末に、婚約者から婚約破棄をされ更には反乱を疑われて処刑されてしまう。だが、その死の直後、五年前の世界に戻っていた。
リビアは死を一度経験し、家族を信じることを止め妹と対立する道を選ぶ。
だが、何故か前の人生と違う出来事が起こり、不可解なことが続いていく。そして、王族をも巻き込みリビアは自身の回帰の謎を解いていく。
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる