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21話 ソウカの薬草畑
しおりを挟むフォルク様と合流し、私も、コルンに向かう馬車に乗り込む。
フォルク様は、私が一緒に行きたいと言うと、少し驚いた表情をされたけど、すぐに了承して下さった。
「コルンは酷い状況なんですか?」
「詳しい状況はまだ入っていないんだが、どうやら町にも土砂が押し寄せたようで、被害は大きいみたいだな。怪我人も多くいるらしいからポーションを持ってきただんだが、生憎、別に売り払った直後であまり数が無い」
「そんな……」
お願い、皆、どうか無事でいて下さい……!
馬車の中、コルンにたどり着くまでの間、私は祈るように、コルンの住人の無事を願い続けた。
***
馬車を走らせ、コルンに着くと、その惨状に思わず息を飲んだ。
報告の通り、コルンには土砂が流れ込み、多くの悲鳴が響き渡っていた。
「酷い……!」
「すぐに土砂崩れに巻き込まれた者の救助に当たれ。怪我人は私とソウカの元へ」
「はっ!」
フォルク様はすぐに部下達に指示を出し、自分もまた、近くにいた怪我人を見付けると駆け寄り、薬で治療を施した。
私もしっかりしなきゃ……!
初めて経験する悲惨な状況に足が竦み、上手く動けなかったけど、今、私がビビってる場合じゃない。私だって薬師なんだから、皆を助けなきゃ!
パンパンっと頬を二回強く叩くと、私も住民を助けるため、足を進めた。
「もう大丈夫ですよ」
「ああ、ありがとうございます! ありがとうございます薬師様!」
無事に治療を終え、目を覚ました息子を抱き締めながら、お礼を告げる母親の姿に、無事に助けられて良かったっと、一先ず、胸を撫で下ろす。
他にも、救助された住民達をフォルク様と手分けして治療したが、遂に、持ってきた薬の数が、底をついた。
「どうしよう……フォルク様、薬がもうありません」
「何か薬草があれば、即席で調合することも出来るんだが……」
ここコルンは薬草の栽培が盛んな町だが、土砂崩れ薬草畑は跡形もなく滅茶苦茶になっていて、収穫出来そうになかった。
「フォルク様、ソウカさん! 怪我人です!」
そう言っている間にも、新たな怪我人が運ばれてきて、私はその人物の姿に、思わず声を上げた。
「ヒナギクさん!」
泥塗れで顔色も悪く、ぐったりとしているその様子から、一刻を争う状態なのは理解出来た。
「いや……! ヒナギクさん! ヒナギクさん!」
声をかけても、反応が無い。
どうしよう、どうしよう……! いや、このままじゃヒナギクさんが、死んじゃう!
また、私は何も出来ないの? 大切な人が亡くなるのを、また見届けなくちゃいけないの? ヒナギクさんは……私をずっと気にかけて、優しくしてくれて、私が平民落ちの貴族だと知っても、変わらないでいてくれた人なのに!
コルンにいた頃は、何度も、食べ物のお裾分けや、薬草だって――
「あ、そうです、思い出しました! 私の家に、薬の在庫があります! 薬草も、乾燥して保管しているのが残っているはずです! 月見草も、まだ少し残っています!」
私の家は、コルンから少し離れた場所にある。だから、土砂崩れの被害にあっていないはず!
「使ってもいいのか?」
薬を作るには、沢山の時間と手間、材料と、それらにかかるお金が必要となる。薬草一つとっても、価値がある物。
「勿論です。こういう時に使わなくて、いつ使うんですか!」
「……ありがとう、ソウカ」
私達は急いで、コルンの外れにある私の家に向かった。
――コルンから出る時、私は必要最低限の荷物しか持ち出さなかった。だから、家には、コルンにいる間に集めた薬草や、作った薬が残ってるはずだった。
「何これ……どうして……」
家に着き、中に入ると、そこは何者かに荒らされたようにぐちゃぐちゃになっていて、置いてあった机や椅子などの家具、保管しておいたはずの薬も薬草も、全てが破壊されていた。
「まさか……ジェイド様が?」
もう一度私を連れ戻しに来たジェイド様が、私がいなくなったことに気付いて、腹いせに全部壊したの?
少しの間だが、楽しく過ごした思い出のある家は、無残にも破壊され、見る影も無い。一生懸命集めた薬草も、貴重な月見草も、それで作った薬も、全てが地面に投げ捨てられ、踏みつけられ、壊された。
「……」
あの人は……本当に、私を苦しめるのが好きですね。
やっと、あの地獄から解放されたと思ったのに、また私を地獄に落とそうと躍起になるあの人達が、死ぬほど、怖い。
ヒナギクさんを助けられると思ったのに、また、助けられないの?
破壊された家を見ながら、私は絶望にくれた――
「ソウカ、こっちに来て」
「フォルク様……ごめんなさい、私、ヒナギクさんを助けられると思ったのに……私は……」
「大丈夫、ほら」
フォルク様に呼ばれ、目についたのは、私が庭で育てていた、小さな薬草畑だった。
ジェイド様が最初に来た時に、私の目の前で踏み荒らした、タポンの薬草畑。あの日、初めて花が咲いて、嬉しかった。他も、やっと芽が出始めてきた所だったのに踏み荒らされて、全てが無駄になった。
「これ……タポン?」
それなのに、庭の薬草畑には、タポンが綺麗に咲き誇っていて、まるで、一度や二度踏み荒らされたくらいでは、咲くのを諦めたりしないという、強い意志を感じた。
「タポンは一度芽生えたら、生命力が強い薬草だからな。ソウカが一生懸命育てたその気持ちに、応えたんだと思うよ」
「っ! はい……そうですね、そうだと、嬉しい……」
諦めないでと、そう、私に言ってくれている気がした。
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