上 下
21 / 35

21話 ソウカの薬草畑

しおりを挟む
 

 フォルク様と合流し、私も、コルンに向かう馬車に乗り込む。
 フォルク様は、私が一緒に行きたいと言うと、少し驚いた表情をされたけど、すぐに了承して下さった。

「コルンは酷い状況なんですか?」

「詳しい状況はまだ入っていないんだが、どうやら町にも土砂が押し寄せたようで、被害は大きいみたいだな。怪我人も多くいるらしいからポーションを持ってきただんだが、生憎、別に売り払った直後であまり数が無い」

「そんな……」

 お願い、皆、どうか無事でいて下さい……!

 馬車の中、コルンにたどり着くまでの間、私は祈るように、コルンの住人の無事を願い続けた。


 ***

 馬車を走らせ、コルンに着くと、その惨状に思わず息を飲んだ。
 報告の通り、コルンには土砂が流れ込み、多くの悲鳴が響き渡っていた。

「酷い……!」

「すぐに土砂崩れに巻き込まれた者の救助に当たれ。怪我人は私とソウカの元へ」

「はっ!」

 フォルク様はすぐに部下達に指示を出し、自分もまた、近くにいた怪我人を見付けると駆け寄り、薬で治療を施した。

 私もしっかりしなきゃ……!

 初めて経験する悲惨な状況に足が竦み、上手く動けなかったけど、今、私がビビってる場合じゃない。私だって薬師なんだから、皆を助けなきゃ!
 パンパンっと頬を二回強く叩くと、私も住民を助けるため、足を進めた。


「もう大丈夫ですよ」

「ああ、ありがとうございます! ありがとうございます薬師様!」

 無事に治療を終え、目を覚ました息子を抱き締めながら、お礼を告げる母親の姿に、無事に助けられて良かったっと、一先ず、胸を撫で下ろす。
 他にも、救助された住民達をフォルク様と手分けして治療したが、遂に、持ってきた薬の数が、底をついた。

「どうしよう……フォルク様、薬がもうありません」

「何か薬草があれば、即席で調合することも出来るんだが……」

 ここコルンは薬草の栽培が盛んな町だが、土砂崩れ薬草畑は跡形もなく滅茶苦茶になっていて、収穫出来そうになかった。

「フォルク様、ソウカさん! 怪我人です!」

 そう言っている間にも、新たな怪我人が運ばれてきて、私はその人物の姿に、思わず声を上げた。

「ヒナギクさん!」

 泥塗れで顔色も悪く、ぐったりとしているその様子から、一刻を争う状態なのは理解出来た。

「いや……! ヒナギクさん! ヒナギクさん!」

 声をかけても、反応が無い。

 どうしよう、どうしよう……! いや、このままじゃヒナギクさんが、死んじゃう!

 また、私は何も出来ないの? 大切な人が亡くなるのを、また見届けなくちゃいけないの? ヒナギクさんは……私をずっと気にかけて、優しくしてくれて、私が平民落ちの貴族だと知っても、変わらないでいてくれた人なのに!
 コルンにいた頃は、何度も、食べ物のお裾分けや、薬草だって――

「あ、そうです、思い出しました! 私の家に、薬の在庫があります! 薬草も、乾燥して保管しているのが残っているはずです! 月見草も、まだ少し残っています!」

 私の家は、コルンから少し離れた場所にある。だから、土砂崩れの被害にあっていないはず!

「使ってもいいのか?」

 薬を作るには、沢山の時間と手間、材料と、それらにかかるお金が必要となる。薬草一つとっても、価値がある物。

「勿論です。こういう時に使わなくて、いつ使うんですか!」

「……ありがとう、ソウカ」

 私達は急いで、コルンの外れにある私の家に向かった。


 ――コルンから出る時、私は必要最低限の荷物しか持ち出さなかった。だから、家には、コルンにいる間に集めた薬草や、作った薬が残ってるはずだった。

「何これ……どうして……」

 家に着き、中に入ると、そこは何者かに荒らされたようにぐちゃぐちゃになっていて、置いてあった机や椅子などの家具、保管しておいたはずの薬も薬草も、全てが破壊されていた。

「まさか……ジェイド様が?」

 もう一度私を連れ戻しに来たジェイド様が、私がいなくなったことに気付いて、腹いせに全部壊したの?
 少しの間だが、楽しく過ごした思い出のある家は、無残にも破壊され、見る影も無い。一生懸命集めた薬草も、貴重な月見草も、それで作った薬も、全てが地面に投げ捨てられ、踏みつけられ、壊された。

「……」

 あの人は……本当に、私を苦しめるのが好きですね。
 やっと、あの地獄から解放されたと思ったのに、また私を地獄に落とそうと躍起になるあの人達が、死ぬほど、怖い。

 ヒナギクさんを助けられると思ったのに、また、助けられないの?

 破壊された家を見ながら、私は絶望にくれた――

「ソウカ、こっちに来て」

「フォルク様……ごめんなさい、私、ヒナギクさんを助けられると思ったのに……私は……」

「大丈夫、ほら」

 フォルク様に呼ばれ、目についたのは、私が庭で育てていた、小さな薬草畑だった。
 ジェイド様が最初に来た時に、私の目の前で踏み荒らした、タポンの薬草畑。あの日、初めて花が咲いて、嬉しかった。他も、やっと芽が出始めてきた所だったのに踏み荒らされて、全てが無駄になった。

「これ……タポン?」

 それなのに、庭の薬草畑には、タポンが綺麗に咲き誇っていて、まるで、一度や二度踏み荒らされたくらいでは、咲くのを諦めたりしないという、強い意志を感じた。

「タポンは一度芽生えたら、生命力が強い薬草だからな。ソウカが一生懸命育てたその気持ちに、応えたんだと思うよ」

「っ! はい……そうですね、そうだと、嬉しい……」

 諦めないでと、そう、私に言ってくれている気がした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

私とは婚約破棄して妹と婚約するんですか?でも私、転生聖女なんですけど?

tartan321
恋愛
婚約破棄は勝手ですが、事情を分からずにすると、大変なことが起きるかも? 3部構成です。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

処理中です...