夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子

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19話 少し元気になられて良かった

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 アンシア様に声をかけるのとは別に、私はアンシア様の様子を見に、度々、部屋を訪れていた。
 魔力病の痛みや苦しみは、予告なく出現する。その時に、アンシア様の苦しみを少しでも取り除くために、お力になれるように。

「お早うございますアンシア様」

 夜中に魔力病の発作を起こしたアンシア様に、少しでも痛みや苦しみを取り除くために、お義母様の時に使っていた香薬を焚いた。お義母様は薬を飲んでくれていたから、そんなに使う回数は多く無かったけど、どうしても口から薬を飲めない時などに使っていた。

 うん、顔色も悪くない。ぐっすり眠れたみたいで良かった。

「アンシア様、香草茶をおいれしたのですが、一緒に飲みませんか?」

 私のお得意の香草茶は、リラックス出来る薬草や、食事を満足に取れていないアンシア様のために、栄養の詰まった薬草で調合した。

「…………飲む」

 ゆっくりと、アンシア様はベッド上で体を起こした。

 うん、良かった。今日は体を起こせるくらい、元気になられたんですね。

 背中を支え、アンシア様が香草茶を飲めるように、ゆっくりとコップを傾ける。

「……美味しい」

「アンシア様のお口に合って良かったです」

 薬草が入ってるけど、なるべく美味しく飲んで欲しいと、一生懸命、色々と試行錯誤を重ねて改良しましたから、味には自信があります!

「……ずっと、傍にいてくれたの?」

「はい、また何かあったら心配ですから」

 香薬の効果が切れて目を覚まされたら、また痛みが襲うかもしれませんからね。魔力病の発作は、痛みがいつまで続くかも分かりませんから。

「私、貴女に酷い態度をとっていたのに」

「お気になさらないで下さい。それよりも、アンシア様がこうしてお話して下さることの方が、私は嬉しいです」

「……ありがとう、ございます……ソウカさん」

「どういたしまして」

 思っていた通り、アンシア様は優しい人。ただ、病気で不安定になっておられただけ。
 申し訳なさそうに俯いているアンシア様からは、心から反省しているような、悲しい表情が伺えた。

「アンシア様、お体を診てもよろしいですか?」

「……いいよ」

 アンシア様はこの日初めて、私に体を診ることをお許しになられた。

「――はい、お疲れ様でした」

 体の隅々まで診察し、現状のアンシア様の魔力病の進行具合を確認する。

 魔力病は、自覚症状が表れ出した初期、症状が進行し、食欲低下、体が自由に動かなくなる中期、最後に、ほぼ寝たきりの生活になり、痛みに苦しむ末期と大幅に分かれる。
 アンシア様は、これの中期に当たった。

「……ねぇ、ソウカさんは、母様が魔力病だったって言ったよね」

「はい、私の本当の両親二人も、魔力病を発症して亡くなりました」

「本当の両親?」

 アンシア様には、まだ私の詳しい事情は話していなかった。ここでお世話になる以上、セントラル侯爵家のご令嬢であるアンシア様に黙っていることは出来ない。

「私は――」

 フォルク様やコリー様にしたように、私は自分の過去を、アンシア様に話した。

「何、それっ! 絶対最低! その家族!」

 アンシア様は、私が想像していたどの反応とも違い、怒りを露わにした。

「ア、アンシア様。あんまり怒ったらお体に触ります」

「ソウカさんがまるで都合のいい奴隷みたいじゃない! 家族の思い出も全部奪って、血が繋がっていないとはいえ、義母の面倒を押し付けて、全部終わったら用無しって離婚を叩き付けておいて、その上、無理矢理連れ戻しに来たですって!? 信じられない!」

 ああ、香草茶を一気飲みされて……!

「有り得ない! そんな人達の所に戻る必要ないからね! ソウカさん!」

「は、はい!」

 あまりの剣幕に押され、反射的に頷く。

「アンシア? どうかしたか? 凄い声が外まで聞こえてきたんだが――」

「フォルク様」

「兄さん! ソウカさんを絶対にクレオパス子爵に渡しちゃ駄目よ! 絶対に守り通して! セントラル侯爵家の名にかけて!」

「あ、ああ」

 アンシア様に急に勢い良く詰められ、フォルク様も困惑したように頷いた。


 ***


「驚いたよ、アンシアが心を開いたことにもだけど、あれだけ、大きな声を出したのも、ああやってベッド上で起き上がっているアンシアを見たのも、久しぶりだ」

 アンシア様の部屋を出た後、私とフォルク様は、並んで屋敷の中を歩いた。

「薬が効いたみたいで、良かったです」

 魔力病患者と長く触れ合い、お義母様の薬を作り続けてきた私は、魔力病の薬を作ることに関してだけは、他の皆様よりも知識があるようだった。
 今まで、アンシア様の症状を和らげることも出来なかったと聞いたが、私の作った薬は、アンシア様の症状を和らげ、またアンシア様に、治療を続ける気持ちにさせることが出来た。

『最初、失礼な態度を取ってしまって、ごめんなさい』

 そう言って謝るアンシア様の姿こそが、私のために怒って下さるその姿こそが、本来のアンシア様の姿なんだと思った。
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