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13話 ソウカの友人

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 私を背に、守るように立つフォルク様の背中。

「薬師は万能では無い。その手から零れ落ちる命もあるだろう。だが、ソウカはそれでも、懸命に努力している立派な薬師だと、私は思う」

 さっきまで傷付けられた心が、フォルク様の言葉で、癒えていく。
 ああ、私……このまま、薬師でいていいんだ。薬師の私も、価値がある。私が今まで努力してきたことは、無価値なんかじゃない。

「何が立派な薬師だ! どうせソウカも、魔力病にかかって死ぬくせに!」

「! ソウカが……魔力病?」

 メリエルラシア帝国には、魔法を使える人間が全体の七割いる。残りの二割は魔力無しで、残りの一割が、魔力を持っていても魔法が使えない人間。その魔力を持っていても使えない一割から、魔力病が発症する。
 私は、お義母様達と同じ、魔力を持っているのに魔法を使えない、その一割に分類される。

「……ジェイド様、私はまだ、魔力病を発症していません。全員が全員、魔力病を発症するわけでは無いんですよ」

 魔力病は、まだまだ解明されていない未知な病。
 例え魔力を持っていて魔法が使えなかったとしても、最後まで魔力病を発症しない人間もいる。寧ろ、発症しない人間の方が多く、魔力病を発症する人間は、稀なのだ。

「お前の両親も、僕の義母も、お前の近くにいる人間は皆死んだ! ならお前も、惨めに死ぬべきだろう!」

 何ですか、その理屈は? ジェイド様は私に、死んで欲しいんですね。
 あの誰も来ない別邸で、魔力病を発症して、一人寂しく、苦しんで死ぬべきだと。酷い人。こんな人が、六年間書類上だけでも自分の夫だったなんて、そんな事実、隅々まで消してしまいたい。

「……これ以上は聞くに堪えないな。クレオパス子爵、これ以上は口を謹んで貰う。ソウカは、私の友人だ」

「だからどうした!? たかが平民の友情に、何の価値がある!?」

「やれやれ……あんまり権力に頼るのは好きじゃないんだけどな。君みたいなタイプには、こっちの方が効果がありそうだ」

「何の話だ!? いいから、この魔法を解け! ただじゃすまさないぞ! 皇帝陛下に進言して、お前みたいな人間は国外追放にしてやる! 僕は皇帝陛下にも顔が利くんだからな!」

「へぇ、クレオパス子爵が皇帝陛下と親しいとは知らなかったな。詳しく聞きたい、私も、皇帝陛下とはよく話すのでね」

「何を馬鹿なことを、皇帝陛下が、平民ごときとお話するはずが――」

「ご挨拶が遅れました。私はフォルク=セントラルと申します。貴方のいう、皇帝陛下より侯爵の爵位を授かった、立派な貴族の一人です」

 ジェイド様の言葉をなぞらえ、フォルク様は丁寧に、貴族らしく挨拶を交わした。

「は――あ? フォルク……様? セントラル侯爵だと!? 馬鹿なことを言うな! 僕を騙そうったてそうはいかないぞ! セントラル様が、こんなド田舎の、役立たずで可愛げのないパッとしない女の家にいるワケが無い!」

 酷過ぎる……少しは言い方を考えてよね!

「残念ですが、私は本物です。それにしても、私は社交界では結構な有名人だと思っていたのですが、まだ顔を知らない方がいるなんて、あまり社交界に顔を出さない成果が出ましたね」

 どうして顔を知られていないことでフォルク様は嬉しそうなんですか?

「ま、まさか本当に――? 確かに、言われてみれば面影が……それに、魔法も使えて……だが、セントラル様がこんな場所にいるはずが――!」

「何度か皇宮主催の宴で顔を合わせたことがあるかもしれませんが、こうして直接お話をするのは初めてですね。クレオパス子爵が私の顔をご存知なくても仕方ありませんよ。私も、クレオパス子爵の顔を存じ上げるのは初めてなので」

 私と違い、クレオパス子爵家の当主であるジェイド様は、皇宮主催の宴にも参加されており、本当に必要な宴しか参加しないフォルク様も、皇宮主催の宴には参加される。
 当然、顔を合わせたことはあるだろうが、フォルク様とジェイド様では、宴で参加する立ち位置が違う。フォルク様は、宴で皇帝陛下含む皇族と会話をするような上位貴族の中でも重要な位置で、ジェイド様は、何とか上位貴族とお近づきになろうと、躍起になっているような、ただの下位貴族。
 フォルク様がいち子爵家のジェイド様の認識していないのは仕方が無いことだが、ジェイド様は、絶対にフォルク様を認識しているはず。なのにセントラル侯爵様だと気付かなかったのは、こんな場所にセントラル様がいるはずが無いとの、思い込みによるものか、ただ単に記憶力の低下か。
 どちらでもいいけど、こうしてフォルク様が名乗った以上、ジェイド様は無視出来ない。半信半疑でも、面影は覚えているようだし、強い魔法を使っているのを見たし、本人の可能性を捨てきれないはずです。
 れっきとしたご本人ですし。
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