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4話 離婚して、赤の他人になれて嬉しいのは私の方です
しおりを挟むお義母様のお葬式は、先代クレオパス子爵夫人の葬式とは思えないほど、ごく小さな、ほんの小さな、形だけのお葬式が執り行われた。
領民にも声をかけず、最初から最後まで参加していたのは、私だけだった。
「お義母様……!」
唯一救いだと思えるのは、お墓だけは、先代クレオパス子爵様と一緒のお墓に埋葬されることだけ。
お義母様はお義父様が好きだったから、一緒にいれることになって良かった。私はお義父様にお会いしたことはないけど、お義母様自慢のお義父様に、一度会ってみたかったな。
お義母様が大好きだった。家族を亡くした私に寄り添い、早くに母親を亡くした私にとって、第二の母と思えるくらい、温かい愛情を与えてくれた人だった。
「ふん、やっと死んだか、あの女」
お葬式が終わり、埋葬が終わった頃、ジェイドとミレイは喪服姿でのんびりと現れた。
「長かったですねぇ。魔力病患者って、もっと早く死ぬと思っていました。無駄に長生きしましたね」
義理の母親とは言え、育ててもらった相手に、どうしてそんな酷いことを言えるのだろう。
お義母様は言っていた。子供達に認めてもらえるよう、精一杯愛情を注いだし、自分の子供は作らなかったと。でも、二人はお義母様を拒絶した。
実母が好きで、後妻のお義母様がどうしても好きになれないのは、仕方が無いことなのかもしれない。でも、それでも、二人がお義母様にしてきた仕打ちは、酷いものだと思う。二人は、お義母様にろくな治療を受けさせず、薬代の一つも出し惜しみした。でも――お義母様は二人を恨んでいなかった。
『ソウカさんを巻き込んでごめんなさい』
ただ、それだけを思っていた。
「まぁいい、これでやっと、役立たずを追い出せるな」
ジェイド様が私に差し出したのは、離婚届書だった。
私達が住まうメリエルラシア帝国では、結婚は全て帝国の傘下である神殿が管理しており、結婚、離婚のどちらも、お互いが署名した届を神殿に提出しなくてはならない。偽造は神殿、しいては、帝国を欺いた罪になり、重罪。
「あの女の介護が終わった以上、お前の嫁としての役目はお終いだ。帰る家のないお前がどこで野垂れ死のうとも、知ったことじゃない! さっさと離婚届にサインして、ここから出て行け!」
「……離婚ですか?」
「ああ! どれだけ縋ろうが無駄だぞ! 今日こそ離婚してもらう!」
「可哀想な元お義姉様。お兄様にも捨てられて、生家のグローリア男爵家も帝国に剝奪されてしまったから、貴族でも無くなって、平民落ちしてしまうんですね! そんなの、私耐えられないです!」
ジェイド様と離婚……する? 離婚、出来る?
「拒めば、今まで嫁としての役目をしていなかったと、神殿に訴え出て、裁判を起こすぞ。ソウカは僕の妻として何一つ役目を果たさなかったとな」
「……分かりました、サインします」
六年前に結婚届書に署名したように、今度は離婚届書に署名する。
ジェイド様の署名は既に終わっていて、今日の朝にでも準備がされていたんだなと思った。お義母様の葬式には顔も出さなかったくせに。
「よし、いいだろう」
私の署名を確認したジェイド様は、傍に控えていた侍従に、離婚届書を手渡し、予め決められたことのような流れる動きで、侍従は離婚届書を手に、この場から走り去った。
「すぐに神殿に提出に行かせた。これで、今日から僕は自由だ! やっと、お前のような役立たずから解放されるんだ」
「あの女の面倒を見させる無償の家政婦を雇うためとはいえ、長い間お疲れ様でしたお兄様ぁ」
「労わってくれるのかミレイ、ありがとう。ソウカ、お前の父親が残した遺産は、慰謝料として貰っておく。今まで役に立たなかったお前を養ってやった分だと思え」
養うってなんだろう。
必要最低限の生活費しか渡さず、嫁を奴隷のように扱うこと?
新鮮な果物一つ食べられず、その日食べる物にも困って空腹に苦しんだり、熱があるのにも関わらず一日中働かせたり、約立たずと罵りながら殴ることが、養うってこと?
ずっと苦しかった。
お義母様がいてくれたから、どれだけ辛くても、私は頑張ってこれた。
「僕を失ったからには、自分一人で生きていくしかなくなるが、精々、足掻いて、今まで養ってやっていた僕のありがたみを知るがいい。何の取り柄も無い役立たずなお前は、一人では生きていけないが――」
「離婚して頂いてありがとうございます、助かりました」
「は?」
「え?」
ジェイド様のありがたみを知ることは永遠に無い、離婚は嫌だと、泣いて縋るはずも無い。私が今まで離婚を拒んでいたのは、お義母様がいたからだ。
離婚して、貴方達と赤の他人になれるのが嬉しいのは――――私の方です。
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