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応用15

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 左から迫る炎の球を、私はスっと避けた。
 うん。真っ直ぐからじゃないとしても、まだ避けれる。前方からの時と違って、コントロールに慣れていないからか、さっきよりもスピードは遅いし、まだ1つしか操作出来ていない。

(私の魔法のコントロール練習も成功してるし、いい感じ。腕は鈍ってないね)

 今の所、百発百中で炎の球に水魔法を当てている。何なら、調子に乗って、応用編で一つの炎の魔法に、全方位五ケ所から水魔法を当てたりしてる。
 これで魔力が上がって、もっと強い水の魔法を使えれば、炎の球を相殺出来るし、避ける必要は無くなる。あ、その前に、また契約しきゃ駄目なのか。
 今はまだ、ヒナキとしては水の初期魔法しか契約していない。
 危ない危ない。うっかりサクラとして、色々な魔法を使わないように気を付けないと。
 サクラはもう既に色々な魔法と契約済みなので、魔力さえ基準値に達すれば、問題無く色々な魔法を使えるけど、そうすると、呪文でサクラってバレるかも知れない。不安材料は消しとくに越した事は無い。

「《炎魔法(レリオロール)》」

 おっと。飲み込みがホント早いね。魔法の助言を少ししただけなのに、もう炎のを自分の意志である程度出来るようになったみたい。一つの炎の球を動かすのにいっぱいいっぱいだったのに、今は5つの球を同時に動かす事がでるようになってる。……動きも早くなって来たな。そろそろヤバいかも。
 思った通り、前方、後方、左右、頭上から炎の魔法が一気に襲い来る。

 魔法使いであるサクラの身体的能力は、そんなに高くない、いや、冒険してたし、ある程度はあるかもしれないけど、他の職業の剣士や武闘家に比べればそこら辺の石ころみたいなもんじゃない?第一、ヒナキとしては、身体能力も低い低い。ただの村娘だったんだから仕方無いよね。
「……」
  私は、避けるのを諦めて、その場に、目をつぶって立ち尽くした。これ以上は避けられない。

「!ヒナキーー!」
 私の名前を呼ぶセルフィの表情が、どことなく心配しているように見えたのは、気のせいだよね。あんな性悪王子が、私の心配なんてする訳無いか。

 ドッガーーーーンッッッッ!!!!!
 砂埃とともに、大きな爆音が、辺りに響き渡った。


 痛たたたた…。
 目を開けると、空が見えた。綺麗な青空。今日も良い天気。雨も嫌いじゃ無いけど、実技の授業してると、どうしても服が汚れちゃうもんね。

「ヒナキ!大丈夫?!」
 ぼーと寝転んだまま空を見上げていると、セルフィの顔が見えた。
「うん、平気」
 痛いし、すっっっごいしんどいけど。魔力切れだね。

 よっと、上半身を起こすと、遠くから保健室の先生が駆け寄って来るのが見えた。誰かが呼んでくれたのかな。

 実技授業終了後は、トライナイトの保健室の先生が、怪我をした生徒に回復魔法をかけてくれるんだよね。もっとも、保健室の先生にも、怪我を治して貰う度に、『また貴女なの?いい加減にしてよね』なんて、嫌味を言われるんだけど。

 座ってる直ぐ隣の地面を見ると、大きな穴が3箇所空いているのが見えた。
「咄嗟に炎の魔法の向きを逸らしてくれたんだ。良いコントロールだね」
 5つの炎の球のうち、私の体に当たったのは、2つ。5つ全部の衝撃を覚悟していたんだけど、直前で向きを変えてくれたみたい。コントロールの仕方をついさっき覚えたとは思えないくらい上達してる。凄いな。優秀過ぎて、なんかムカつくな。

「五月蝿い。てか、君……火傷は?してないの……?炎の球が当たったのに?」

 私の怪我の具合を確認したセルフィが、驚いた表情を浮かべた。ま、そうだよね。炎の魔法がぶつかったはずなのに、私は火傷の1つも負ってない。

「水で薄い防御壁を張ったの。後、セルフィが球の数を減らしてくれたのも助かったよ。全部は防ぎ切れなかったと思うから、ある程度の火傷は覚悟してたんだけど、お陰様で平気だった。ありがとう」

 ぶつかった瞬間に、そこに水が集中するようにして、炎を相殺した。勢いは消せないから、球の衝撃は食らう事になるけど、別に豪速球ーーって程早くも無かったし、対した怪我はしないだろうって踏んだ。最悪、怪我しても保険の先生が回復してくれるだろうし。
 魔力の少なさをカバーしつつ、魔力全部を使い果たした。ホント、省エネで良くここまで出来たよね。大魔法使いサクラだからこそ出来たんだよ。誰かに褒めて欲しいくらい。

「水の魔法で防御壁なんて、どこでそんな魔法覚えた訳ーー?」
「コントロールの応用だよ」

 防御の魔法を唱えたら解決なんだけど、今は契約してないし、そもそも、魔力の量が足りないから使えないしね。

「…君…一体、何者?本当にヒナキなのーー?」
「?ヒナキだけどーーって、あ!敬語忘れてた!」

 険しい表情で、何者?なんて聞いてくるセルフィを見て、思い出した!いつも険しい表情を向けてくるオルメシアにこれ以上ちょっかい掛けられないように、今日からセルフィに敬語使うって決めてたのに、戦闘に気を取られ過ぎてすっかり忘れてた!

「あのねぇ……今更だと思わないの?君、今までどれだけ俺に向かって失礼な態度をとってると思ってるの?」

  そんなはずはーーーいや、してるのかな?

「敬語を使わなくていいのは、トライナイトでは本来推奨している事だから、今まで許してあげてたんだけど?それよりも、日頃の俺に対する態度を反省したら?」
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