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戦闘の実施訓練13

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 今週の授業表を確認すると、明日も、午前中は実技の授業となっている。

 本音を言うなら、またクラスメイトの実験台になるのはごめんなので、魔力がある程度上昇するまで休みたい所だけど……皆勤賞狙ってるから、休めない!

 はぁ。と大きなため息を吐くと、持っていたコップの中の水を、飲み干した。

 未来の悲惨さに落ち込んでいても仕方無い。
 言っても、クラスメイトが使う魔法の威力は、そんなに高く無かった。はず。記憶を思い出す前なので、クラスメイトの魔法の実力はハッキリ分からないけど、大きな怪我はしなかったのだから、ちゃんと手加減してくれていたんだろう。

「兎に角、明日は実技の授業を頑張って乗り越えて、落とし穴に引っ掛からないようにして、お昼ご飯しっかり食べて、午後の座学も頑張ってみて、放課後魔力放出しつつ、勉強してーー」

 あれ?何かすっごい忙しいな…。自由どこいった?

「今日はもう寝よう」
 いつもならまだ勉強している時間だけど、今日は色々あって、とても疲れた。魔法も凄く久しぶりに使ったし、魔力放出もしてる。
 珍しく鞄の中の教科書やノートを取り出さず、私はそのまま、就寝のための準備を始めた。

(明日は面倒な人達に巻き込まれず、普通に授業を受けれますよーに)



 *****

 次の日ーーー。

 ああ。何でこんな事になってるんだろ…。

 私の目の前には、冷たく不機嫌な、綺麗な整った顔をしてるセルフィの姿。いつもの魔法クラスが使うグラウンドで、何故か、私とセルフィは、他の生徒達に円で囲まれながら、向かい合って立っていた。

「今日は特別に戦闘の実施訓練を行うわ」

 昨日と同じく、魔法クラスの教師の1人、マイヤ先生が、かけていた眼鏡を正しながら発言する。
「最初は、セルフィ様とヒナキよ」
 マイヤ先生、目の奥笑ってますよね?戦闘の実地訓練って、戦うって事でしょう?それって、昨日の実験台にされるのよりも、酷い怪我を負わされる事確定したよね?それを、クラスで1番の優等生と持て囃されてるセルフィと、劣等生である私とで、普通対戦させます?完全に嫌がらせだよね?昨日の仕返しですか?

「ーーー」
 セルフィの目からは、『君が昨日、マイヤ先生に目を付けられるから、こんなややこしい事に巻き込まれるんだけど?』と、文句が聞こえてきそう。

「セルフィ様ー!頑張って下さいませ!そんな生意気で貧相な貧乏人!ズタボロにして下さいませ!」

 周りの生徒達ーーその中でも、オルメシアからは、一際大きく、黄色いセルフィへの声援と、私への罵声が飛ぶ。
 あれ?関わるなって言ってなかったっけ?戦って私がズタボロにされるのは良いんだ。まぁ、先生が対戦カードを決めた訳で、コレは不可抗力だよね。

「始め!」
 マイヤ先生の口から、合図が言い渡される。

「こんな見世物になるのは御免だから、一瞬でケリをつけてあげる」
「……それは、勿論、手加減をして下さるんですよね?」
「すると思う?」

 しないだろうね。

「《炎魔法(レリオーロル)》」

 開始直ぐに、セルフィは炎の魔法を唱えた。サッカーボール程の炎の玉が5つ、私に襲い掛かってくるのを、私は目で追った。

 ドッカーーーンッ!と、地面に当たった炎の球が、大きな音をたて、地面を燃やす。

「きゃーーー格好良いですわーー!!」
「流石、魔法クラスで1番の実力ですわね!」
 主に女子生徒達から上がる歓声。

 そんな中、もくもくと煙が立ち込める中に隠れるように、私は無傷で、しゃがみこんでいた。

(嘘でしょ……これが、魔法クラスで1番の実力?)

 信じられない思いだ。
 ーーー弱過ぎる。これが、有名な学校で、1番の実力?

 昨日までは、魔法の知識が無かったから、クラスメイト達の実力が詳しく分からなかったけど、もし、昨日の実験台とやらの、クラスメイト達の、水風船なみの水魔法や、ライターくらいの炎の魔法が、手加減していたんじゃなかったとしたらーーーホント、雑魚でしか無いんだけど……。

 目や耳を疑うけど、周りの女子生徒達からは、セルフィの魔法を賞賛する声が上がっている。
 確かに、昨日攻撃をぶつけて来てた生徒達にくらべれば、まだ全然マシ……だけど、こんなものなの?これが、皆の実力?

 煙が消え、私の姿が現れると、周りの生徒達から、あーあ。と、ガッカリした声が上がる。
 無傷である事がそんなに不満ですか?いや、そりゃあ無傷になるよ。あんな単調な攻撃。避けて下さいって言ってるようなものだもん。

「避けないでよ」
「避けますよ。模擬訓練ですよね?ちゃんとやります」

 とは言っても、今の私に攻撃魔法は使えない。そもそも、今ヒナキとして使える魔法は、ただ、コップ一杯の水を出すだけの水魔法のみ。
(……ま、これもある意味実践か)
 座って勉強するのも大切だとは思うけど、戦いにおあて、魔法において、経験に勝るものは無い。

(よし。ついでだから、練習させてもらお)

 何だかんだ、戦闘はとても久しぶり。勘を取り戻すための良い機会になる。気を取り直して、私は私で、魔法の訓練をする事にした。

「《炎魔法(レリオーロル)》」

 再度、炎の魔法を唱え、炎の球を発射するセルフィ。

「《水魔法(エリアラル)》」
「!!!」

 昨日契約したばかりの水の魔法を唱え、炎の球に向かって放つ。が、コップ一杯程度の水が、炎の球に敵うはずも無く、一瞬で蒸発する。
 そのままこちらに真っ直ぐ向かってくる炎の球を、私は今度は、目で追う事もせずに、左に避けた。
  
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