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ヒナキ エリアラル
しおりを挟むとりあえず、これ以上オルメシアを刺激しないように、明日からはセルフィと極力関わらないように生きていこう。
それよりも、前世の記憶も蘇った事だし、私にはやらなきゃいけない事がある。
「《魔力放出(カトロエリア)》」
呪文を唱え、体から魔力を放出させる。薄く、目を凝らさないと見えないような小さな白い光が、体全体から、湯気のように出る。
これが、今の私の最大値の魔力か。
ヒナキである今の自分の魔力をきちんと把握する。そのままーー魔力放出をしたまま、鞄を机に置き、ベットにゴロンと寝転び、手を上に上げた。
前世サクラだった頃の最大魔力は、空にも届きそうなくらい長く、竜巻のように激しい風を巻き起こし、眩い光を放つほど、膨大な魔力だった。こんな小さな部屋で、全力で魔力を放出したら、部屋が吹き飛んでしまうくらい。
私は魔力調整が得意だから、この部屋の中で魔力放出をしても、吹き飛ばさないように調整出来るけど、今はしていない。正真正銘、今のヒナキの全力はこの程度。サクラの時と比べると、雀の涙程しか無い。
「とりあえず魔力を上げるしか無いよね」
魔力を手っ取り早く上げるには、経験あるのみ。使うしか無い。
本当は実戦経験が一番手っ取り早いんだけど、現代の魔物のレベルなんて知らない。魔王が封印されてから、魔物のレベルも数も落ち着いたって話だけど、ついうっかりレベルの高い魔物とエンカウントしてはたまらない。
王都ツヴァイに来るまでも、商隊の人達のお手伝いをしつつ、頼み込んで同乗させて貰ったから、ヒナキになってから一度も魔物と戦った事が無いし。今は地道にこうやって、魔力を出し続けて上げるのが一番安全で確実。
ある程度魔力が上がったら、学校が休みの日にでも、冒険者ギルドに顔でも出してみようかな。依頼書を見れば、どんな魔物がいるか分かるし、ついでにお小遣い稼ぎしよう。
「あ。そう言えば……呪文、どうしようかな」
魔法使いには、それぞれ、個人個人の呪文がある。
サクラは、カトロエリア。セルフィはレリオーロル。全ての魔法を使うには、自分で決めた呪文を礎に、魔力を放出する。
何も考えずにサクラの時の呪文を使っていたけど、カトロエリアは、大魔法使いサクラの呪文として、凄い有名。
前世サクラである事は、出来るだけ隠しておきたい。サクラである事がバレたら、何かと祭り上げられそうだし、平和な世界を穏便に、自由に満喫して生きていけない気しかしない。
「んー」
呪文は契約だ。新しい魔法を使うには、火の魔法なら火と、風の魔法なら風と、それぞれと契約を結ぶ必要がある。
(正直、1回1回契約を結び直すのは面倒なんだけど……そもそも、カトロエリアで魔法使えたから、新しく、ヒナキとしては契約出来ないのかな?)
例えば、浮遊魔法を、サクラの呪文カトロエリアで契約したら、カトロエリア以外の呪文で浮遊魔法は契約出来ないし、1度呪文を設定したら、カトロエリア以外の呪文で、新しい魔法は契約出来ない。
だから、呪文はとても大切。
1度呪文を決めたら、変更出来ない。
だから、何かの都合で正体を隠していたとしても、有名な魔法使いなら、魔法の呪文で誰かバレてしまうデメリットがある。
(1回試してみよう)
私は、ベッドから起き上がると、部屋に備えらている小さな木製の食器棚から、透明のコップを取り出した。
「《ヒナキの名のもとに、水の魔法よ、契約する》」
契約の言葉とともに、私の足元には、青白く光る魔法陣が現れる。
魔法の知識と実践は、サクラとして山程あるから、魔力さえあれば、問題無く契約出来る。はず。新しい呪文をどうするかを少し考えて、脳裏に浮かんだ言葉を、そのまま唱えた。
「《エリアラル》」
呪文を唱えると、魔法陣が一層強い光を放った。私の体の中に吸収されるように、眩い光が吸い込まれる。
「ーー《水魔法(エリアラル)》」
今度は、先程、ヒナキとして契約したばかりの水魔法を唱えた。
何も入っていなかったコップに注がれる水。
「おお!凄い!ヒナキとしても契約出来た!」
無事に成功した事に、喜びと驚きの声を上げる。
魔法使いとして、本来、持てる呪文は1つの所を、前世のサクラとしてのカトロエリアと、ヒナキのエリアラル。2つの呪文を使える魔法使いは、前世を思い返してもいない。初!
良かった……これでサクラとバレる心配が減った。
「よしよし。これで魔力を上げて、ちょくちょく契約を結び直していけば、実技は問題無いね」
座学もだが、今日の午前中の実技もボロボロだった。魔法の契約も知らないのに、魔法を使えと無茶振りされ、最終的に、魔法が使えないなら、魔法を使える生徒達の実験台になれ。とか言われて、水浸しにされたり、火傷させらたり、ずっと逃げまくっていた。
まだ記憶は戻ったばかり。
魔力の向上特訓は今日から始めたし、魔力がいきなり上昇するわけは無い。使える魔法は、コップに水を注いだり、土を少し凸凹にしたり、人肌に物を温めたり、静電気を発生させるくらいだろう。
実技の授業で役に立ちそうな魔法は、今の所難しい。
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