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サクラ カトロエリア

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「私の横着のせいだから、一応、訂正しとかないとなって思って」
「は?君の横着?」
   前世の私のね。まさか史実に残るとは思ってなかったんだけど…。

「貧乏人は貧乏人らしく、大人しく生きていればいいんだよ。頼むから、授業の邪魔だけはしないでよね」
「それはそれは。性格の意地汚ーい王子様のありがたーいお言葉、肝に免じます」
 ピリピリと、見えない雷が、2人の間を走る。

 この性悪王子……ほんとムカつくな!王子様って立場の人間が、こんな風に人を差別してもいーの?!いつか絶対、王様にチクってやるから!

 これ以上ここにいても、セルフィと喧嘩になるのは目に見えてる。てか、もう喧嘩してる。
 いつもは、教室に残って勉強してるんだけど、今日はもう、さっさと寮に戻って、早く寝よう。昼食食べ損ねたからお腹めっちゃ空いてるし……。明日のお昼までの我慢!明日のお昼は、思いっ切り食べよう。
 幸い、足の怪我も、アルの回復魔法の効果が遅く効いてきたのか、歩けるくらいに回復してる。

「また明日ね、アル」
「はい。お疲れ様でした」
「性悪王子もさっさと帰れ!」
 べーとあっかんべーをして、何も言い返されない内に、直ぐに教室を出た。


「!」
 学校を出て、特待生寮に向かい、トコトコ歩いていると、帰りの道筋にある大きな木の影から、こちらを狙う、微妙な魔力を感じた。
 前世の記憶が蘇る前の私なら、魔力の感知が出来なかったから、気付かなかったと思う。
「ーーー」
 さて、どうすべきか。
 多分、また、水を頭からかけるとか、ちゃちな嫌がらせでもしようと、待ち伏せしてるんだろう。随分、暇人なことで。
 別に、普段なら、こんな些細な嫌がらせで相手の気が済むなら、受けて上げても良いか。とか、思うんだけど……落とし穴の件もあるしな。

 落とし穴の嫌がらせは、酷い物だった。
 足を骨折したし、セルフィやアルが助けに来てくれなかったら、授業に出席出来なかった!←もっと他に気にする所はあるが、ヒナキにとっては最も重要。

 嫌がらせの主犯格には、気付いてる。てか、向こうも隠していないから、知ってる。

(落とし穴にはムカついたし、ちょっとくらいやり返しても良いか)
 魔力は、表に出すと、光を放つものに変化する。
 私は、自分にしか見えないような、小さな小さな魔力を、手の平に出した。

 今の私の魔力は、前世と比べて余りにも低い。
 ヒナキは、今まで魔法を使わずに生きて来た。魔力は使わないと成長しないんだから、当然だよね。
 でも、今の私には、前世で培った魔法の知識、戦いの経験、魔力を伸ばす為の特訓の方法。変え難い大切な記憶がある。

(ヒナキになって、初めて使う魔法ね)
 それが、自分にちょっかいをかけてくる奴等に対する仕返しだなんて、思い入れも何もあったものでは無いけど。

「《土魔法(カトロエリア)》」

 相手が嫌がらせの魔法を唱えるのと合わせて、小声で呪文を唱える。

「きゃあっ!!」
 と、木の影から、複数人の女子生徒の悲鳴が聞こえた。
 視線を向けると、そこには、水でびしょ濡れになっている女子生徒や、転けて倒れている女子生徒の姿があった。
 私は、水魔法を唱えた覚えは無い。
 私にかけようとした水の魔法が、そのまま、彼女達に降り掛かったのだろう。

(例え魔力が少なくても、工夫すれば、この程度の悪戯は出来る)

 土の魔法を使い、水の魔法を使う女子生徒の足元に、小さな凹凸を作り、つまずかせた。その反動で、手元が狂い、自分達の元に水を降らせてしまったのだろう。
 使ったのは、ほんの少しの魔力。ただ、地面の土に、小さな凹凸を作るだけのもの。でも、魔力を繊細に扱うのは、とても難しい技術が必要だから、誰にでも出来る事じゃない。

「ちょっと!何をしていますの?」
 予想通り、嫌がらせの主犯格の姿が見えた。

 トライナイトの女子生徒の制服は、白い半袖のシャツに赤いリボン。ブレザーは紺。スカートは茶色のチェックが基本。
 その中で、1人、赤いリボンでは無く、黄色のリボンを付けている女子生徒。
 彼女の名前は《オルメシア》
 ピンク色の髪をクルクル縦ロールにしてる、見た目からして完璧なお嬢様。

 オルメシアは、魔法を失敗した取り巻きの女子生徒に向かい、ガミガミと叱咤していた。
 私は魔法を使えないって思われてるからか、私の仕業だとは微塵も思っていないみたい。ま、使えるって分かっていたとしても、魔力を悟られるような魔法の使い方はしてないけどね!
 魔法に関しては自信がありますから!

「オルメシアって暇人なの?」
 毎回毎回、凝りもせずによく虐めてくるものだと、逆に感心してしまう。
「暇人な訳無いでしょう?!と言いますか、わたくしに対して、ただの貧乏人が、何て口の利き方なのですか?!」
「ああ……確か、ご立派な貴族様でしたっけ」

 貴族の中でも、中々に名高い貴族らしくて、このクラスでは、王子のセルフィの次に身分が高いらしい。

「人間的にも素晴らしい人なら敬語でも使おうとは思うけど、ちょっと尊敬出来ないし、同い年だし、凄い意識してないと難しくて……」

 セルフィにせよオルメシアにせよ、何度も何度も貧乏人って罵られたり、嫌がらせされたりしたら、敬う気なんてサラサラ無くなるよ。

「ふざけないで頂けません…?!ただの庶民の分際で!」
「それは失礼致しました、オルメシアお嬢様」
 丁寧に頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。本当は反省なんてしてないけどね。

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