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大魔法使いサクラ

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 次の日ーーー。

 魔法クラスには、数学や国語等の一般教養の授業はほぼ無い。多くを、魔法の座学と、実技に当てていて、今日は、午前中が魔法の実技。午後からは魔法の座学で、魔法関連の授業で1日が終わるスケジュールになっている。
 今は4時限目までが終わり、お昼休み中。
 1人、グラウンドで立ち上がれずに、疲労で四つん這いになったまま、私はしみじみと呟いた。

「駄目だ…」
 座学が出来ないのに、実技が出来る訳が無い。

 魔法を使うには、複雑な魔法陣を覚え、頭の中で思い浮かべ、呪文を唱える必要がある。らしい。
 ここら辺が基本的な事なのに、私はそれを知らない。先生に聞いても、これくらい、入学する前に学んでおくべきでしょ?みたいな視線を送られるだけで、全く教えてくれない。

「魔法ってこんなにややこしいものだっけ……魔法はもっと、自由であるべきなのに…」

 もっと感覚的に、楽しむもの。

「私はーー魔法は、もっと皆に自由に使えるようになって欲しくてーー」
 言ってから、ハッと、我に返った。

「何言ってんだろ……魔法なんて、使った事無いくせに」

 自分でも、どうしてあんな言葉を口走ってしまったのか、分からない。分からないけど、何故だか、そう感じてしまった。

「疲れてるのかな…」
 昨日も結局、2時間しか寝れていない。
 とゆーか、授業が終わって、疲労で1人動けずにいたけど、このままだとお昼ご飯を食べ損ねてしまう!1日1食生活をしている私にとっては死活問題!

「食堂行こ」
 頑張って体を起こし、立ち上がると、フラフラなまま、足を進めた。
 1歩、2歩、3歩歩いた所で、視界が急に反転し、重力が無くなったように、体が宙に浮いたと思ったら、文字通り、真っ逆さまに落ちた。


 痛い…。何これ…。

 目を開けて上を見ると、さっきより空が遠くて、辺りが薄暗い。痛む腕を何とか伸ばして見ると、土や泥で汚れていた。

「まさか…落とし穴?」

 誰が作ったのか知らないけど、本当に暇な奴がいるものだ。魔法で作ったにしろ何にしろ、労力は掛かっただろうに、わざわざ私への嫌がさせの為だけに作ったのか?

「痛ぁ…」
 結構高い所から落ちたみたいで、体中、特に右足が痛くて、本当に動けない。
 何とか体を起こして右足を見ると、赤く腫れていて、最悪、骨折してるんじゃないかと思う。

「やり過ぎでしょ…」
 今までも嫌がらせは沢山されて来たけど、流石にここまで酷いのは無かった。
 無視や悪口、水かけられたり、机に泥を入れられたり、紙屑を投げ付けられたりーー面倒臭いなぁとは思ってたけど、特に相手にせずに流していたのに。

 もしかして私があんまり良い反応しなかったから、過激な行動に出ちゃった系?きゃー。とか、わー。とか言った方が良かったのかな?あれか。泣いとけば良かったのかな。

 今更考えても仕方無いし、そもそも、そんなわざとらしい芝居が私に上手く出来るかどうか……。

「すみませーん!誰かいませんかー?」
 上に向かって助けを求めるも、返答は無し。

 ーーー詰んだな。

 このままだと、少なくとも昼食は食べ損ねるし、午後の授業も間に合わないかもしれない。1日食事無しはなんとかなるにしても、授業には遅れたく無い。

「もしもーし。どなたかいませんかー?誰か通り過ぎませんかー?」
 再度呼び掛けてみるも、結果は同じ。

 ヤバい。私達のクラスは、午前中は実技でグラウンドだったけど、午後からは座学で教室。
 他のクラスがグラウンドを使うかも知れないけど、トライナイトのグラウンドは大変広い。だから、魔法クラスと、他のクラスが使用する場所は、綺麗に分けられてる。
 わざわざクラスによって使う場所を分けるなんて、流石、一流学校!でも今はそれが憎い!
 他にも、戦闘フィールド用のドーム型の施設や、水の上での戦いを想定した広いプール。各々に設置されたロッカールームに、シャワー室もあったりする。

「もー…どうしようかな…」
 この学校に私を心配して探しに来てくれる友達なんていないし、教師も私に冷たいし、万事休すとはこの事か。

 一旦諦めて、体を地面に倒し、遠くなってしまった空を、穴から見上げた。

 傷を癒す事が出来れば、立てるのに。
 空が飛べれば、ここから出れるのに。
 魔法が使えれば、家族を養う事が出来るのに。

 もし、生まれ変わればーーー私は、自由に、平和になった世界を生きて行くのにーーー

「……そう、生まれ変われば……私は、自由に、自分のやりたい事をして、平和になった世界を、満喫して、生きて行くのーーー」


 《大魔法使いサクラでは出来なかった自由を、謳歌する》


「ーーーあ、思い出した。私、ちゃんと生まれ変わったんだ」
 急に、前世の全ての記憶を、思い出した。
 ずっと、喉の奥に引っ掛かって出て来なかった物が、引っこ抜けた感じ!凄い晴れ晴れする!
 私が魔法使いに拘っていた理由は、家族の為だけじゃ無い。

「私はーー大魔法使い、サクラの生まれ変わり」


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