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セルフィとアル
しおりを挟むトライナイトの男子の制服は、白い半袖のシャツに赤いネクタイ。ブレザーは紺。ズボンは茶色のチェックが基本だけど、この王子様は、黒のネクタイに淡い青いカーディガンを着用してる。
足も長くて、スタイル抜群、お綺麗な金髪碧眼の顔立ちのセルフィに良く似合ってるし、他女子生徒達がキャーキャー黄色い声援を送るのも分かるよ。一目見て格好良いもんね。分かる、分かるけど、私は無い。こんな性格破綻者、終わってる。
「あはは。相変わらず仲良いですね」
ここまでずっと黙って傍観していた、もう1人の男子生徒が、笑いながら声を出した。
仲が良い?これのどこが?どこをどう見て?
皆目見当もつかない事を言い出したのは、《アル》って言う、こちらもクラスメイトの1人。
冷たい表情のセルフィと違って、ニコニコ笑顔で、可愛い系の顔立ち。オレンジの短い髪に、赤い目。ネクタイはオレンジ。
「ヒナキ、髪が濡れてますよ」
そう言うと、アルは風の魔法で、私の髪を乾かしてくれた。
彼はセルフィの幼馴染らしくて、学校ではいつも一緒にいるイメージ。クラスメイトの中で唯一、私に優しくしてくれる人で、どうしてこんなに優しい人がセルフィみたいな性悪王子と仲良いのかが謎。
「おい、そんな貧乏人に構うな」
「構っているのはセルフィですよ。ヒナキ、帰る所でしたよね?お気を付けてお帰り下さい」
流石、アル。心の奥底から優しい。
早く帰りたい私の心を読み取ってくれた。
「ありがとう、アル」
「いえいえ。お気になさらず」
アルにお礼を告げて、私は彼等を横切り、学校の寮に戻った。
セルフィの性で無駄な時間を費やしてしまった…。
私が目障りなら、最初から相手にしなきゃいいって思うのに、皆ホントに暇だよね…。
私には、無駄な時間を費やす暇は無い!早く寮に戻って勉強しなきゃ!魔法の勉強もだけど、特待生で居続ける為には普通の勉強もして、好成績をキープしなきゃいけないからね!
学舎に負けず劣らず、有名校であるトライナイトの寮はとても綺麗だけど、私が住む寮は、一般の寮じゃない。特待生専用の寮。
一般の綺麗で立派な寮を通り過ぎて、奥にある、古く寂れ、所々ヒビ割れしているコンクリートで出来た二階建ての建物に辿り着いた。
ズタボロで壊れかけているガラスのドアを開け、中に入り、トントントンと、階段を上がる。
2階の階段の丁度前にある部屋の扉を開け、中に入る。
「ただ今ー」
部屋に誰もいないけど、挨拶はする。
荷物を机に置き、一旦、ベッドに腰掛ける。
六畳一間で、トイレ、バスは別。外観程、中は寂れてはいないが、一般の寮に比べれば差は歴然。
一般寮は、外観、内装、全てがお金持ちの貴族様達が住むに相応しい綺麗な建物。更には、一般の寮には寮母さんがいて、食事や掃除も、全部を生徒に変わって行ってくれる。
対して、この魔法クラスの特待生寮は、特待生枠を使って入学した生徒は私が初めてなので、今まで放置していた建物を急遽、特待生寮として用意した物で、当然、寮母もいない。
こんなに差を付けられれば、文句の1つも付けたくなる所だけど、私は、特待生の寮を大変気に入っている。
五月蝿くてしつこく絡んで来る貴族のお偉様方はいないし、雨風も防げるし、すきま風が吹いて来ないし、1人でベッドを使えるから、1つの布団でギューギューになって寝ないくても良い。
実家よりも遥かに良い部屋。
「お腹空いたなぁ…」
ぐぅとお腹が鳴るが、食事は出て来ない。
昼ご飯は、食堂で特待生は無料で食べられるが、夜は食堂は閉まっていて、寮母がいないから夕食は無い。
まさか食事無料が昼食だけだったなんて……盲点だったけど、致し方無い。
実家でも水だけで過ごしていた日もあったし、お昼いっぱい食べて、朝夕は食べずに生活する。小さなキッチンも部屋にあるけど、食材を調達するお金も無いしね。
「よしっ」
気を取り直して、私は椅子に座り直し、机に置いてあった教科書を出すと、ノートを開き、勉強を始めた。
思う所は色々あるけど、私には家族を養う夢があるので、立派な魔法使いになりたいんです!
私の夢は、他の魔法使いを目指してる人達からすれば、馬鹿にすんな!って思うのかもしれない。
周りのクラスメイトの話を聞いてると、『お父様の跡を継いで、立派な家主になって、国の発展の為にーー』や、『住民の平和を守る為に、国に仕える魔法使いになりたい』など。
とても壮大な夢をお持ちの方々ばかり。
実際、歴代の魔法使いにも、立派な人がいる。
大魔法使い《サクラ》
魔法書だけで無く、歴史の教科書にも載ってあるような偉大な魔法使いサクラは、ほんの50年程前の偉人である。
ペラッと、大魔法使いサクラの功績の載ったページを開く。
50年前ーーーこの世界は、大きな大恐慌に見舞われた。
魔王復活と共に、魔物が活性化し、街に迫り、人々を襲い、生活や命を破壊していった。
強大な魔王の前に我々人間は手足も出ず、このまま滅び行くのを覚悟した。が、そんな時、大魔法使いであるサクラ様が王都ツヴァイに現れた。
サクラ様はツヴァイに現れた魔物を倒すと、仲間と共に世界を平和にする為の冒険に出発し、苦楽を共にした仲間達と、長い冒険の末に、魔王の元へ辿り着いた。
魔王との戦いは激しく、サクラ様は、この世界を守る為に命を懸けて、魔王を封印した。
偉大な大魔法使いは、命を懸けてこの世界を救ったのだーーー。
そんな世界を命を懸けて救った大魔法使いと比べられると、私事で魔法使いを目指してごめんなさい。って思うけど、これも立派な夢の1つです!家族を養いたい!何か悪い?!
まだ誰にも馬鹿にされた事は無いけど、クラスメイトに話せば、途端に馬鹿にされるのは間違い無いと思う。セルフィには特に。
『養いたいなら畑でも耕せば?不相応な職業があるって分からないの?』とか言われそう。
私は!安定して稼げる職業につきたいの!
「んー」
勉強を初めて早5時間。もう時刻は夜中。そろそろ寝ないと、朝起きられないかも知れない。
教科書やノートを閉じ、んー。と、腕を伸ばしてストレッチする。
(明日こそは、魔法を少しでも使えるように頑張ろう)
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