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学校トライナイト

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 王都ツヴァイは、この国の中心に相応しく、大きな街で、港も併設されていて、人通りも多く、商店が立ち並び、冒険者達が仕事の依頼を請け負う冒険者ギルドも、巨大で立派な建物で出来ている。
 そんな場所にある学校トライナイトも、勿論、広大で、立派な建物で、ツヴァイの中でも一等地に建てられていた。

 そんなトライナイトへ入学して早1ヶ月ーーー

 私は、早々に授業についで行けず、綺麗な教室で1人、顔を伏せていた。
 新学期に合わせて新調されたであろう机は、1個1個ある形では無く、大きな長細い机が、後ろに行くごとに上がっていくようにあって、同じく新品の椅子は、1個ずつテーブルに沿って、大体3~4個並べられている。それが横3つ、縦に4個の計12。
 頑張れば50人は授業を受けられると思う。

「…こんなに魔法が難しいなんて…」

 正直舐めていた。
 特待生で入学出来た事もあって、魔法なんて簡単に使えるようになる!なんて軽く思っていたのが間違いだった。
 凄い難しい!全然出来ない!なんなら、クラスメイトの中で一番の劣等生!
 でもそれは当然。私は、皆よりもずっとずーーーっと遅れているから。
 クラスメイトは一概にお金持ち。言わいる、貴族組が多い。貴族で無くても、お金のあるそれなりの上流階級の人達だけ。
 皆は、入学する前から、家庭教師を付けたり、魔法を習う専門の塾のような場所に行ったりして、基礎を学んでるから、初っ端から魔法が使えている!
 そりゃあ、人によって大なり小なり、幅はあるけど、少なくとも、少しは使える。
 でも、私は正真正銘の初心者。一切使えない。

 聞いた所によると、私が使った魔法クラスの特待生枠は、上流階級ばかりしか通わないとなると、心象が悪くなると心配した学校側が配慮として打ち出した計略で有り、お飾りのもので、実際に使った人は今までいなかったらしい。
 特待生と名前がついてるけど、審査は学力のみで、魔法では審査していない。
 魔法と学力は別物。
 つまり、学力ではクラスメイトに勝ってるかもしれないけど、魔法では全員に負けている!
 私がいる魔法クラスは、学力よりも、魔法の優秀さが重要だから、学力がどれだけ優秀でも、重要視なんてされない。

 因みに、隣のクラスの武術クラスには、一般人の生徒も何人かいるみたいだけど、私がいる魔法クラスは0。

「はぁ…」
 何度目かのため息を吐いて、私は机に広げてある教科書に目を通した。
 教科書には、初期の魔法書と書かれているが、何故か、基本的な魔法は使える事が前提で記されている。

 私はその基本的な魔法の事を知りたいのにー!!

 居残りで勉強するも、知りたい部分が描かれていないのだから、どうする事も出来ない。
 それに、これとは別にもう1つ困っている事があるーー

「まぁ。小汚い貧乏人がまだ教室に残っていますわ」
「嫌ですわね。水でもかけましょうか?」

 ーーーこれです。
 クラスメイトの執拗い嫌がらせ。

 女子生徒達は、クスクス笑いながら、水の魔法で、私の頭の上に水を落とした。ポタポタと垂れる水滴。
 女子生徒達はびしょ濡れになった私に満足したのか、早々にその場から立ち去った。
 鞄からタオルを取り、顔や頭を拭く。

「教科書が無事で良かった」
 教科書が水で濡れてボロボロになったら、新しいのを買わなきゃいけないけど、生憎お金は無い。
 特待生枠で授業料と寮費は免除だけど、物品は購入しないといけない。何とかなけなしのお金で、教科書は揃えた。
 ただ、制服を買うお金は無くて、私は1人私服。黒のロングワンピースに、黒のブーツ。
 それもあって、この学校で私は凄い浮いてる。

 友達が出来たら良いなー。なんて思ってたけど、そんな問題じゃない。てか、もう友達出来なくても良いから、勉強の邪魔だけはしないで欲しい。放って置いて欲しい。

「……取り敢えず、帰ろ」

 このまま教室にいても良い事は無さそうだと、教科書を鞄にしまい、席を立った。鞄も私物。

 トコトコと廊下を歩いていると、前から2人の男子生徒がこちらに向かっているのが見えた。
 立ち止まり、壁際に寄り、彼等が過ぎるのを待つ。

「ーー何、君、まだ学校にいたの?」

 が、男子生徒は、わざわざ立ち止まって、冷たい表情を浮かべながら、私に声をかけてきた。
 何で息を殺して大人しく待機している私に、わざわざ不機嫌そうに声をかけてくるかな?
 折角、気を使って空気になったのに……
 不愉快なら、声なんてかけなきゃ良いし、相手にしなきゃ良いのに。って、さっきの女子生徒達にも言いたい。

「まだ開放されてる時間だから、何時までいても私の自由だと思うけど」
「馬鹿なの?貧乏人が構内にいるだけで、臭くて匂うから迷惑だって言ってるんだよ」

 冷たい目線で遠慮なく無く失礼な事を言い放つ男。
 こいつの名前は、《セルフィ》
 金髪碧眼。中性的な顔立ちで、男なのに、女みたいに綺麗な顔立ちしてる。体は細身だけど、ほどよく筋肉質。見てくれは大変格好良いし、黙っていれば完全な王子様なんだけど、聞いての通り、口が悪い。
 そして、実は本当にこの国の王子様だったりするので、残念で仕方無い。

「王子様は大変お鼻がよろしいようで……」
「何それ?馬鹿にしてるの?」

 ここで、洗濯してるし、毎日お風呂入ってるよ。なんて反論したら、また面倒になると思って、褒めてみたんだけど、馬鹿にしてると思われちゃった。
 私は褒めたつもりなのに。

 トライナイトは屈指の名門校なので、この国の王子様も通う。
 初日から、私服の私に怪訝な視線を送って来たし、前に、同じ様に廊下で会った時に道を開けなかったら『貧乏人が何様のつもり?普通、王族が通る時は道を開けるのが礼儀でしょ』って、凄い責められたから、今回はきちんと道を開けたのに……。
 どうすれば因縁をつけられなくてすむんだんろ……周れ右して、セルフィに会わないようにするしか無いか。

「聞いてるの?」
「いえ、あまり。この不毛なやり取りを繰り広げ無いために、どうすれば良いのかを考えているとこ」
「はぁ?」

 私が凄い譲歩してると思わない?
 誰が自由に歩いても良い学校で、私にいちいち因縁つけて機嫌悪くなるのはお互い時間の無駄だろうし、面倒だから、遠回りする。って言ってるの。

「ほんと、貧乏人とは会話が成り立たないね」
「同感。性悪王子とは会話ーーソウデスカ、タイヘンデスネ」
「…お前…」

 危ない危ない。つい本音を言いかけちゃった。てか、もう帰って欲しい。てか、帰らせて欲しい。
 本当は、王子様相手には敬語を使わなきゃいけないんだろうけど、こんな生意気で失礼で人を見下す奴相手に礼節を弁えるのも馬鹿らしくなって、早々にタメ口になってしまった。いけないいけない。


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