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43話 最終話
しおりを挟むこの国には、貴族のご子息、ご令嬢達が通う学園があります。
本日は、その学園の入学式。
全校生徒が集まる、広いフロアーーー
「おい!そこどけよ!没落貴族!」
ドンッと肩を押され、その場に腰を打ち付けた青年ーーディーン=ルドルフ、キールの実弟は、目に涙を浮かべた。
「はっ!ディーン、お前、男のクセにすぐ泣くのかよ!てか、邪魔なんだよ!ルドルフ公爵様!ああ、違った!元・公爵か!今は爵位を引き下げられて、落ちぶれたもんな!」
ケタケタと下品な笑い声を上げる貴族のご子息達。
「……や、止めな…よ!」
そこに、歳よりも幼く見える女性が、弱々しくも、キールを助けるように、彼等の品の無い行為を止めた。
「ああ?!何だ、お前?」
「……ツ、ツキミナ男爵令嬢の……ルエルと、申し…ます」
「男爵令嬢ぉ!?たかが男爵令嬢が、俺様に逆らうのか?!」
貴族の縦社会の厳しいこの国で、男爵貴族は下位に位置します。彼等は男爵よりも爵位が高いのでしょうね。高圧的な態度を崩さず、今度はルエルに詰め寄った。
「や!止めろ!」
今度はディーンが、ルエルに詰め寄る男にしがみつき、止めた。
「てめっ!離せ!この極悪人が!」
「っ……確かに……僕の兄様は、悪い事をしたけど……彼女は、関係無いだろ!彼女は、僕を守ろうとしてくれただけなんだから!」
「ああ?!うっせぇ!俺様に逆らうな!俺様の方が、立場が上なんだからな!!」
ーーー品の無い貴族子息達がディーンに殴り掛かろうとした所で、やっと、マリアが止めに入った。
「な!?何だお前っ!?メイド?!まさか、あの鬼メイド?!」
随分物騒なあだ名が、私の万能メイドであるマリアに付いたのですね。まぁ、色々な場所で、荒事を全て解決してくれていますものね。
「全く……本当は、あの馬鹿な男の弟なんて助けるつもりはなかったのですが、貴方は、あの馬鹿よりも、とても救いがいのある方みたいですね」
「…!あ、ありがとう…ございます!」
前情報で聞いていましたが、キールの弟であるディーンは、本当に優しくて良い子みたいですね。安心しましたわ。
ルエルも、優しく成長しているみたいです。
「何で鬼メイドが学園にいんだよ?!鬼メイドは、怪物姫のメイドのはずだろ?!」
……怪物姫と言った事に関しては、後でお説教するとして、マリアの件は、正解です。マリアは、私の自慢の万能メイド。流石に、この1年間活動しまくっていますから、私達の情報は出回っていますわね。
でも、肝心な事が分からないなんて、まだまだですわね。マリアが何故ここにいるか?なんて、私のメイドなのですから、おのずと答えは1つですわ。
「初日から随分わんぱくでいらっしゃるのね」
私は、教師陣の中から、足を進め、教壇の前に立つと、満面の笑みで、生徒達に告げた。
「本日より就任しました、この学園の理事長、カナリアですわ。よろしくお願いしますね」
「ーーーはぁーーー?!?!」
私の発案は、新鮮な林檎を生産。即ち、貴族のご子息、ご息女達が家を継ぐ&嫁ぐ前に、性根を叩き直し、立派な貴族になれるように徹底的に人材育成をする事。
その為に、この学園の理事長の座を、もうすぐ王子妃になる私が引き受けました。
「その腐った性根をとことん叩き治して差し上げますから、皆さん、楽しみにしていて下さいね」
満面の笑みで、全校生徒に告げる。
この学園の在籍期間は本来1年ですが、留年制度を新たに設けましたので、不出来な生徒は問答無用で留年です。さぁ、いつになったら皆さん卒業出来るのかしら?楽しみですわね。
教師も一新しましたわよ。
テナも手伝ってくれると言って下さったので、彼女も、教師の1人として来て下さっています。
「楽しそうだね、カナリア」
「ケイ!」
「ケイ王子様?!」
ケイが来る予定は無かったので、生徒達だけで無く、私まで驚いてしまいましたわ。
「どうしたのですか?」
「カナリアの様子を見に、ちょっとね」
まさか、また公務を放ったらかしで来ましたか……?私の影響を受けて、ケイが自由に動くようになったと、何故か私が怒られるんですけれど……。
「用事さえ終われば、すぐに帰るよ」
私の心を読んだような発言。
ケイはそう言うと、何故か、私の後ろに回り込んだ。
「ケイ?」
そして、ギュッと、私の体を後ろから抱き締めた。
「?!?!?!?!」
急で予想だにしない展開に、一気に頭がパニックになる。
え?何でですの?!何故急にバックハグ?!嬉しいですけど、こんな、皆様の前でいきなりなんですの?!
「君達に忠告しておこうと思って」
パニックになっている私を置いて、ケイは私を抱き締めたまま、全校生徒に向かい、声を掛けた。
「カナリアに何かあれば、俺は許さない。そんな事をすれば、俺からも、直々に指導を行ってやる」
おー。と、何故か数人の生徒から歓声が上がる。
いや、怖い怖い怖い。ケイ、マリア化していません?
「大丈夫ですわ、ケイ!私、ちゃんと1人でも出来ますから!私、強い女なのでしょう?」
ケイに言われた言葉をそのまま使う。
そうです、私は、強いのですから、大丈夫ですわ!
私の台詞に、ケイは一瞬、ポカンと口を開けた後、クスッと微笑んだ。
「ああ、君は強い。だから、そんな君を、俺が守らせて欲しいーーー夫婦になるのだからな」
「!」
狡い人。
そんなふうに言われたら、私は断れません。
望まない婚約をして、嫌々この国に来たけれど、今の私は、大好きな婚約者と、望んでこの国にいます。
私は、大好きな人達と一緒に、この国を守っていく。
「私も……貴方を、守ってみせますわ」
そう言うと、ケイはまた、嬉しそうに微笑んだ。
完
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