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41話 終演
しおりを挟む「マリア?誰、そーれーーっ!?」
メアリーさんにとっては、聞き馴染みの無い名前のようで、首を横に傾げていましたが、すぐに、息を飲んだ彼女の動きが止まりました。
彼女の首元に触れるのは、鋭利なナイフーーー触れられた首元からは、一筋の赤い血。
誰にも邪魔されず、一瞬でメアリーさんの首元にナイフを突き付けられるのは、私の万能メイド、マリアしかいない。
「マリア、やり過ぎては駄目よ」
私は、即、マリアに注意した。
マリアの目が、バキバキに見開かれてて、殺意が篭っていて、とても怖いですわ……本当にやり過ぎてしまいそう……。
「カナリア様によくも物騒な真似をしてくれましたねーー!私が貴様に地獄を見せてやりましょーかぁ?!」
うん。止まりませんわね。
「ひぃ!や、止めてぇ!き、キール様ぁ!助けて下さい!」
消え入りそうな声で悲鳴を上げ、助けを求めるメアリーさん。ですが、キール含め、男の人達は皆、外で待機していた王室の騎士達の手によって、捕らえられていた。
「ど、どうしてこの場所が分かったの?!ここは、キール様が私の為に、内緒で用意して下さった家なのにーー!?」
「マリアはずっと私達を尾行していましたから、場所がバレるのは当然ですわ」
ダンスパーティが始まってからも、ずーーーっと、マリアは私の様子を陰ながら見守っていました。キールに声を掛けられた時も、馬車に連れ込まれた時も、家に入った時も、ずっと、ずーーーっと。
有能なマリアは、すぐに異変に気付き、ヒバリ兄様に報告。王室とも連携を取り、今の今まで、私達の後をつけ、家の外で王室の騎士達と待機していました。
「ここまで大人しくしていたのは、ルエルの妹の身の安全の為と、ついでに、貴女達の悪事を炙り出す為です」
「炙り、出すって…」
「ええ。トリワ国の姫君である私の誘拐に、殺人未遂ーーー貴女達を失脚させるのに、充分過ぎるくらいの悪事を提供して下さってありがとうございます」
その為に、何度、今にも貴女達に飛び掛かろうとするマリアを目配せして止めたでしょうか。
「そ!そんなの狡い!また、ただ産まれ持っただけの家の権力を使って、自分を見張らせておくなんてーー!」
貴女も自身の可愛さ?を使って、男性を言いなりにしていたのに、何故私は駄目なのでしょう?もう面倒なので口には出しませんが……。
どうせ、私は努力している!なんて言い出すだけでしょうしね。
「カナリア!」
「ケイ」
「っ!カナリア!大丈夫だったか?、怪我は?!」
駆け寄るなり、ギュッと、ケイに抱き締められた。
「良かった……本当に、無事でーー!」
耳元から聞こえる声は、本当に私を心配していたと、心から感じる。
「私は大丈夫ですわ。それよりも、ルエルと、妹さんは?」
「無事に保護した。ルエルは妹と家の援助を盾に、俺をダンスに誘い出せと脅されたらしい。よからぬ事をするつもりだと分かっていたが、断れなかったと、泣いて謝罪していた」
「そうですか…。妹さんがご無事で良かったですわ」
5歳の小さな女の子を人質に取るだなんて、最低ですもの。キールが発案かメアリーさんが発案かは知りませんが、罪はしっかり償って頂かないとね。
「ケーーケイ王子様っ!助けて下さい!」
目に涙をいっぱい浮かべ、震えながら助けを求めるその姿だけを見れば、可憐で、弱く、可哀想な、悲劇のヒロインに見えるでしょう。
悲劇のヒロインには、助けてあげるヒーローが必要。彼女にとって、そのヒーローになるべき存在が、ケイなのでしょうね。
「私、カナリア様に嵌められたんです!私は、何も悪く無い!だって私は、ケイ王子様の為に、私達の愛を邪魔する悪者をやっつけようとしただけなのに!」
お願いなので、本当にそれ以上喋らないで下さい。自分の状況が読み取れないのですか?ちょっと後ろを見たら分かるでしょう?私の万能メイド、マリアも、もう我慢の限界ですわよ。
「ーーー消えてくれ」
「え?」
「他国の姫君を殺害しようとした君の罪は重い。二度と、俺達の前に姿を見せるな」
「そんっっなーーー!」
メアリーさんのした事は、言うまでも無く、重罪。良くて、監獄への幽閉。悪ければ、自害を命じられるでしょう。私はまだ他国の姫。彼女を裁くのは、この国にお任せします。
「キール、君もだ」
ケイは、他の男達と一緒に、騎士団に拘束されているキールにも、視線を向けた。
「俺はカナリアを殺す気なんて無かった!この女が勝手にやらかしただけだ!俺は関係無い!!」
「なっ!酷いですキール様ーー!あんなに、私を愛してるって言ってくれたのに…!いざとなったら、私を見捨てるんですか?!」
「五月蝿い!この尻軽女!」
あれだけ目の前で愛を語っておきながら、今になって、お互いを罵り合うなんて、滑稽ですわね。
「安心しろ。君がカナリア殺害の意思が無かった事は、カナリア自身が証明してくれた」
そうですよ。もし、私がマリアを連れておらず、目撃者がいないまま私が死ねば、その主犯格は、誰よりも権力のある、キールになっていたに違いありませんもの。感謝して欲しいですわ。
「そ、そうか……良かった…!」
「だが、カナリアを連れ去った事実は変わらない。男爵令嬢であるルエルと、その妹にした事もだ!君にも重い罰が与えられる。覚悟しておくんだな」
「お、俺……はーー!」
これで、ルドルフ公爵家はお終いでしょう。
例え私を殺す意思が無かったとは言え、女に誑かされ、私をここまで連れ去り、結果として、殺人に手を貸した。
未だ泣き喚くメアリーと、自分の置かれた状況を理解し、青ざめたキールは、2人纏めて、騎士団に連行されたーーー。
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