上 下
41 / 43

41話 終演

しおりを挟む
 

「マリア?誰、そーれーーっ!?」

 メアリーさんにとっては、聞き馴染みの無い名前のようで、首を横に傾げていましたが、すぐに、息を飲んだ彼女の動きが止まりました。
 彼女の首元に触れるのは、鋭利なナイフーーー触れられた首元からは、一筋の赤い血。
 誰にも邪魔されず、一瞬でメアリーさんの首元にナイフを突き付けられるのは、私の万能メイド、マリアしかいない。

「マリア、やり過ぎては駄目よ」

 私は、即、マリアに注意した。
 マリアの目が、バキバキに見開かれてて、殺意が篭っていて、とても怖いですわ……本当にやり過ぎてしまいそう……。


「カナリア様によくも物騒な真似をしてくれましたねーー!私が貴様に地獄を見せてやりましょーかぁ?!」

 うん。止まりませんわね。

「ひぃ!や、止めてぇ!き、キール様ぁ!助けて下さい!」

 消え入りそうな声で悲鳴を上げ、助けを求めるメアリーさん。ですが、キール含め、男の人達は皆、外で待機していた王室の騎士達の手によって、捕らえられていた。

「ど、どうしてこの場所が分かったの?!ここは、キール様が私の為に、内緒で用意して下さった家なのにーー!?」

「マリアはずっと私達を尾行していましたから、場所がバレるのは当然ですわ」

 ダンスパーティが始まってからも、ずーーーっと、マリアは私の様子を陰ながら見守っていました。キールに声を掛けられた時も、馬車に連れ込まれた時も、家に入った時も、ずっと、ずーーーっと。
 有能なマリアは、すぐに異変に気付き、ヒバリ兄様に報告。王室とも連携を取り、今の今まで、私達の後をつけ、家の外で王室の騎士達と待機していました。

「ここまで大人しくしていたのは、ルエルの妹の身の安全の為と、ついでに、貴女達の悪事を炙り出す為です」

「炙り、出すって…」

「ええ。トリワ国の姫君である私の誘拐に、殺人未遂ーーー貴女達を失脚させるのに、充分過ぎるくらいの悪事を提供して下さってありがとうございます」

 その為に、何度、今にも貴女達に飛び掛かろうとするマリアを目配せして止めたでしょうか。

「そ!そんなの狡い!また、ただ産まれ持っただけの家の権力を使って、自分を見張らせておくなんてーー!」

 貴女も自身の可愛さ?を使って、男性を言いなりにしていたのに、何故私は駄目なのでしょう?もう面倒なので口には出しませんが……。
 どうせ、私は努力している!なんて言い出すだけでしょうしね。

「カナリア!」
「ケイ」
「っ!カナリア!大丈夫だったか?、怪我は?!」

 駆け寄るなり、ギュッと、ケイに抱き締められた。

「良かった……本当に、無事でーー!」

 耳元から聞こえる声は、本当に私を心配していたと、心から感じる。

「私は大丈夫ですわ。それよりも、ルエルと、妹さんは?」

「無事に保護した。ルエルは妹と家の援助を盾に、俺をダンスに誘い出せと脅されたらしい。よからぬ事をするつもりだと分かっていたが、断れなかったと、泣いて謝罪していた」

「そうですか…。妹さんがご無事で良かったですわ」

 5歳の小さな女の子を人質に取るだなんて、最低ですもの。キールが発案かメアリーさんが発案かは知りませんが、罪はしっかり償って頂かないとね。

「ケーーケイ王子様っ!助けて下さい!」

 目に涙をいっぱい浮かべ、震えながら助けを求めるその姿だけを見れば、可憐で、弱く、可哀想な、悲劇のヒロインに見えるでしょう。
 悲劇のヒロインには、助けてあげるヒーローが必要。彼女にとって、そのヒーローになるべき存在が、ケイなのでしょうね。

「私、カナリア様に嵌められたんです!私は、何も悪く無い!だって私は、ケイ王子様の為に、私達の愛を邪魔する悪者をやっつけようとしただけなのに!」

 お願いなので、本当にそれ以上喋らないで下さい。自分の状況が読み取れないのですか?ちょっと後ろを見たら分かるでしょう?私の万能メイド、マリアも、もう我慢の限界ですわよ。

「ーーー消えてくれ」
「え?」
「他国の姫君を殺害しようとした君の罪は重い。二度と、俺達の前に姿を見せるな」

「そんっっなーーー!」

 メアリーさんのした事は、言うまでも無く、重罪。良くて、監獄への幽閉。悪ければ、自害を命じられるでしょう。私はまだ他国の姫。彼女を裁くのは、この国にお任せします。

「キール、君もだ」

 ケイは、他の男達と一緒に、騎士団に拘束されているキールにも、視線を向けた。

「俺はカナリアを殺す気なんて無かった!この女が勝手にやらかしただけだ!俺は関係無い!!」

「なっ!酷いですキール様ーー!あんなに、私を愛してるって言ってくれたのに…!いざとなったら、私を見捨てるんですか?!」

「五月蝿い!この尻軽女!」

 あれだけ目の前で愛を語っておきながら、今になって、お互いを罵り合うなんて、滑稽ですわね。

「安心しろ。君がカナリア殺害の意思が無かった事は、カナリア自身が証明してくれた」

 そうですよ。もし、私がマリアを連れておらず、目撃者がいないまま私が死ねば、その主犯格は、誰よりも権力のある、キールになっていたに違いありませんもの。感謝して欲しいですわ。

「そ、そうか……良かった…!」

「だが、カナリアを連れ去った事実は変わらない。男爵令嬢であるルエルと、その妹にした事もだ!君にも重い罰が与えられる。覚悟しておくんだな」

「お、俺……はーー!」

 これで、ルドルフ公爵家はお終いでしょう。
 例え私を殺す意思が無かったとは言え、女に誑かされ、私をここまで連れ去り、結果として、殺人に手を貸した。

 未だ泣き喚くメアリーと、自分の置かれた状況を理解し、青ざめたキールは、2人纏めて、騎士団に連行されたーーー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

侯爵の愛人だったと誤解された私の結婚は2か月で終わりました

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢アリーズは、侯爵家で侍女として働いていたが、そこの主人に抱きしめられているところを夫人に見られて愛人だと誤解され、首になって実家に戻った。 夫を誘惑する女だと社交界に広められてしまい、侍女として働くことも難しくなった時、元雇い主の侯爵が申し訳なかったと嫁ぎ先を紹介してくれる。 しかし、相手は妻が不貞相手と心中し昨年醜聞になった男爵で、アリーズのことを侯爵の愛人だったと信じていたため、初夜は散々。 しかも、夫が愛人にした侍女が妊娠。 離婚を望むアリーズと平民を妻にしたくないために離婚を望まない夫。というお話です。

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう
恋愛
フルリス王国の公爵令嬢ロメリアは、幼馴染であり婚約者でもある騎士ガブリエルのことを深く愛していた。けれど、生来の我儘な性分もあって、真面目な彼とは喧嘩して、嫌われてしまうばかり。 「……今日から、王女殿下の騎士となる。しばらくは顔をあわせることもない」 彼から、そう告げられた途端、ロメリアは自らの前世を思い出す。 (なんてことなの……この世界は、前世で読んでいたお姫様と騎士の恋物語) そして自分は、そんな2人の恋路を邪魔する悪役令嬢、ロメリア。 (……彼を愛しては駄目だったのに……もう、どうしようもないじゃないの) 悲嘆にくれ、屋敷に閉じこもるようになってしまったロメリア。そんなロメリアの元に、いつもは冷ややかな視線を向けるガブリエルが珍しく訪ねてきて──……!?

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。

蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。 「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」 王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。 形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。 お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。 しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。 純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...