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38話 怯える少女

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「カナリアは面白いな」
「そうですか?」
「ああ。ダンスに誘って来た男性達が、皆、顔色を悪くして退散していった」
「これからよろしくお願いします(腐った性根を叩き直して差し上げますね)。と伝えただけなのですけどね」

 副音声が聞こえてしまったのかしら?

「ケイは、先程から私以外と踊っていませんが、良いのですか?」

 いつもなら、もっとケイの周りに令嬢達が集まるのですが、今日は少ない気がします。

「カナリアに遠慮しているんだろう」
「別に、きちんと礼儀があれば、怒ったりなんてしません」

 これも立派な社交ですし、ケイの邪魔はいたしません。思いっきり邪な考えを持っていらっしゃったら、話は別ですが。

「俺はカナリアさえいれば、他の令嬢は目に入らない」

 あ、甘い言葉を随分言って下さるようになってーーー最近、頻度が多くありません?心臓が持たないんですけどーーー!

「あのっ……ケイ王子様…カナリア様…!」
「「!」」

 2人で会話をしていると、後ろから、見慣れない令嬢が声を掛けてきたので、振り向いた。
 男爵令嬢か子爵令嬢かしら?顔立ちが幼く見えるし、私より歳下みたいね。

「あの……私は、ツキミナ男爵令嬢のルエルと申し…ます。カナリア様、ケイ王子様と、踊らせて頂いてもよろしいでしょうか……?」
「……私は構いませんがーー」

 勿論、私が良いと言っても、本人であるケイが断れば、踊る事は出来ません。

「残念だが、今日はカナリア以外と踊る気は無い」
「……そ、そん……な……」

 ルエルは、どう見ても顔色が真っ青で、何かに怯えるように、体が震えていた。

「……ケイ、私の事は気にせず、踊って差し上げて」

 どう見ても、彼女の様子はおかしい。

「!分かった……カナリア、ここで待っていてくれ」

 ルエルの様子がおかしいのにケイも気付いたようで、ケイは私の手を離して、ルエルの手を取り、その場から離れた。

 ルエルは、最初から、1度も私達と目線を合わせなかった。ケイにも、私にも、興味が無く、ただ、心から何かに怯えている。

(……上手くケイが聞き出してくれれば良いのですけど)



「ーーカナリア!」

「……キール」

 急に声を掛けられ、振り向くと、そこには、険しい表情を浮かべる、キールの姿があった。

「パートナーがいない方は、今夜のダンスパーティに参加出来ないはずですけれど?」

 キールのパートナーだったメアリーは、パーティが始まる前に、衛兵によってつまみ出された。だから、彼が今宵のダンスパーティに参加する事は出来ない。
 大方、公爵の力を使ったのでしょう。
 当主であるルドルフ公爵にお叱りになられたはずなのに、懲りない方ですね。

「お前っ!またメアリーを虐めたんだってな?!」

 虐めたなんて人聞きが悪いですわね。
 礼儀がなっていないので、丁重にお帰り頂いただけですが。そもそも、直接、衛兵に指示を出して追い出したのは、ケイであって、私ではありません。
 メアリーさんは、とことん私を悪者にしたいようですね。

「虐めてなんていません。いい加減、メアリーさんの言葉だけを鵜呑みにするのは止めたらいかがですか?」

「五月蝿い!メアリーは泣いていたんだぞ!」

 知るか。ですわ。
 絶対に嘘泣きでしょう?いちいちメアリーさんの言い分を真に受けて言い掛かりをつけに来るだなんて……本当に面倒臭い人達ですわ。

「無礼な態度をとられたので、それについて指摘しただけです」

「嘘をつくな!メアリーは、友人と楽しく会話をしていた所にお前がやって来たと思ったら、急に罵声を浴びせられて、そのまま友人を無理矢理連れていかれたと言ったんだ!」

 脚色にも程がありますわ。
 ケイは迷惑されていましたし、罵声は浴びせていませんし、ケイを無理矢理連れて行ってもいませんし!と、言いますか、メアリーさんは、貴方がいるにも関わらず、ケイをパートナーに誘っていたんですけど?そちらの方を重要視されては?

「メアリーさんが友人とおっしゃっているのは、ケイの事でーーー」

「五月蝿い!1度ならず2度までもメアリーを傷付けた挙げ句、お前は俺の誘いも断った!!」

 それ、今回の件と関係あります?私が貴方の誘いを断ったのは別問題でしょう。

「お前は、俺達に誠心誠意、謝罪する必要がある!」

 ……本当頭が悪い人達ですわね。どちらも、人の話を聞かず、自分に都合の良いように話を作り替える所がそっくりですわ。お似合いです。
 どうぞ、私達が関わらない、遠く離れた場所で、勝手に2人で幸せになって下さい。

「お話になりませんね。私は今夜、ケイのパートナーです。彼を待っているので、お引き取り下さい」

「ふん。ルエルだろ?言い付け通りに、ちゃんとケイを連れ出せたんだな」

 言い付け通りにーー?

「ーーー貴方、彼女に何かしたんですか?」

 ルエルは、ずっと怯えていました。
 ふと、先程まで踊っていた2人の姿を探しましたが、近くに見えませんね。ルエルが、誰にも聞かれたくないと理由をつけて、距離をとったのかもしれません。

「ルエルの家は貧乏でな。うちが好意で援助してやってるんだが、その援助を打ち切って欲しくなければ、ケイをダンスに誘い出せと言った」

「……私を、1人にするためですか?」

「ああ。普段、頭の良い女は可愛く無いが、こういう時、話が早いのは助かるな」

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