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32話 キールとの遭遇

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 *****

 王都。
 豊穣の祝祭の準備で、何処と無く、王都全体がいつもより忙しいように見えるけど、それは王室も例外では無い。

 ケイへの態度に反省しつつ、やっぱり、きちんとケイと話がしたいと思って、手紙に目を通す作業も一段落した今日この頃、王室内で彼の姿を探すけどーーー

「……どこにも見当たりませんわね」

 この国の王子である彼は、祝祭の準備で人一倍忙しくしていて、祝祭の話をした時以来、全く会えずにいた。

(こんな事なら、もっと、あの時にきちんとお話すれば良かったですわ…)

 恋心とは厄介なものである。
 会ったら、恥ずかしくて避けてしまうのに、会えないと、寂しくて、会いたいと願ってしまう。
 カナリアはこれが初恋で、自分の中に芽生えた新しい感情に戸惑いながらも、上手に付き合っていこうと決めた。

 祝祭が終わればーーー私は、トリワ国に帰らないといけません。

 トリワ国に帰れば、中々会えなくなる……だから、それまでに、私の気持ちを伝えないとーーー

 ーーーとはいえ、今、お忙しいのは、重々承知。私の事でお時間を取らせるのは申し訳が無いし、私もしたくありません。

「何かお手伝い出来ないかしら」

 今、ケイを探しているのは、告白するためではなく、何かお手伝いが出来ないかを尋ねるため。

 何せ、忙し過ぎて、マリアも祝祭の準備に駆り出されていますからね。
 私の万能メイド、マリアは料理も得意、掃除も得意、洗濯も得意、裁縫も得意、飾り付けも得意、テーブルセッティングも得意。メイドや料理長達が、涙を流してマリアにお礼を言っていました。

(私も、トリワ国では姫として、招待状の作成、予算の設定、お出しする料理の提案や、使用人達への指示……色々と働いていましたわ)

 私にも何か、お手伝いする事があれば、喜んで引き受けたいです。何もしていないのも暇ですしね。マリアも傍にいませんし。

(次、ケイがいそうな所はーーー)


「カナリアじゃないか」

 ケイの姿を探し、今度は、中庭の方に足を伸ばそうとした所で、声をかけられた。

(……振り向きたく無いですわ)

 聞き覚えのある声は、嫌悪感を感じるもの。このまま、振り向かずに去りたいところですが、しつこく追って来るのは目に見えていますし、このまま振り向いても面倒臭い……。

 見付かった時点で、どちらにせよ一緒ですわね。

 ため息を1つ零してから、嫌々、声のした方に振り向いた。

「久しぶりだな」

 振り向いた先にいたのは、予想通り、お馬鹿で愚かなルドルフ公爵子息、キール様。

「お久しぶりです……どうしてこちらに?」

「父さんの付き添いさ。豊穣の祝祭について意見があるそうでね」

 どうせ、もっと贅沢にしろ。とか、下級貴族を呼ぶな。とか、文句を言いつけに来たのでしょうね。

「そうですか」

「なぁ、カナリア。豊穣の祝祭のダンスパーティーのパートナー役、俺が引き受けてもいいんだぜ?」

 はっ倒しますわよ。誰が貴方なんかに頼むと思います?しかも、また上から目線ですわね。

「お断りしますわ」

「照れるなって。お前が俺の誘いを恥ずかしがって受けないのは、もう知ってるんだ」

 頭かち割りますわよ。

「冗談も程々になさって下さい。私は、心から、貴方の誘いを断っています」

 自意識過剰にも程がありまりますわ。どこに、私が貴方を慕っている素振りがありました?嫌悪感しかありません。

「カナリア、執拗いぞ。婚約破棄の件は謝ってやる。だから、さっさと俺の婚約者に戻れ!」

「お話になりませんね」

 何度言っても、自分に都合の良い解釈しかされないようですし、話していても時間の無駄です。

 キールを放置して、その場から離れようとするが、前に回り込まれ、阻まれた。本当に執拗いですわね。

「待て!お前、誤解しているぞ!」

「誤解?」

「ルドルフ公爵家は、王家にも引けを取らないほど、財力や領土を持つ、権力のある家だ!王家も、ルドルフ家を無視出来ない程のな!」

「はぁ…」

「だから、嫌々ケイを選ぶ必要は無い!胸を張って俺を選べば良い!」

 何を言っているのかさっぱり分かりませんわ……。
 要約すると、私が、権力目当てで、ケイと一緒にいると思われているのでしょうか?それなら、自分も同等の権力を持っているから、素直になって俺を選べ。と?

 馬鹿馬鹿しいですわ。

「私は望んで、ケイを選んでいます」

「だから、お前が俺を選べば!必然的に、トリワ国の後ろ盾がついて、俺達の方がケイより優位になるんだ!そんな事も分からないのか!」

 本っっっ当にうざいですわ!!!

「私は、純粋にケイが好きなので、彼を選んでいるだけです。権力など関係ありませんわ」

「ーーはっ?!」

「彼は優しくて誠実で、国を大切に思う、尊敬に値する人です。私は、そんなケイを選びました。決して、貴方を好きではありません」

「そんな嘘をつくな!本当は俺が好きなくせに!可愛くないぞ!」

「申し訳ありませんが、微塵も興味がありません」

「お、俺に興味が無いだとーー?!公爵家の子息である俺に、興味が無いーー?!」

 ここまでハッキリ言わないと伝わらないのに驚きですわ。お願いですから、もう諦めて下さい。

 呆然としているキールの横を通ると、今度は、阻まれなかった。

「再三、お話していますが、私は、トリワ国の姫であり、貴方よりも立場が上です。私の道を阻まむのも失礼であると、いい加減学んで下さい」

「嘘だ…!俺が、ケイより劣っているなどーー!」

 もう私の声は届いていないようですわね。
 ルドルフ公爵家が唯一、目の上のたんこぶだった王室の、その王子に完全に負けたようなものですものね。

 同盟さえ上手くいけば、王室の立場は、今よりも、もっと強固なものになる。そうすれば、幾らルドルフ家が力を持っていようと、太刀打ち出来なくなるでしょう。

 心を入れ替えて、きちんと、貴族としての役割りを果たして下されば良いのですけど……。


 私はキールを残したまま、1度も振り向かずに、その場を去った。

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