32 / 43
32話 キールとの遭遇
しおりを挟む*****
王都。
豊穣の祝祭の準備で、何処と無く、王都全体がいつもより忙しいように見えるけど、それは王室も例外では無い。
ケイへの態度に反省しつつ、やっぱり、きちんとケイと話がしたいと思って、手紙に目を通す作業も一段落した今日この頃、王室内で彼の姿を探すけどーーー
「……どこにも見当たりませんわね」
この国の王子である彼は、祝祭の準備で人一倍忙しくしていて、祝祭の話をした時以来、全く会えずにいた。
(こんな事なら、もっと、あの時にきちんとお話すれば良かったですわ…)
恋心とは厄介なものである。
会ったら、恥ずかしくて避けてしまうのに、会えないと、寂しくて、会いたいと願ってしまう。
カナリアはこれが初恋で、自分の中に芽生えた新しい感情に戸惑いながらも、上手に付き合っていこうと決めた。
祝祭が終わればーーー私は、トリワ国に帰らないといけません。
トリワ国に帰れば、中々会えなくなる……だから、それまでに、私の気持ちを伝えないとーーー
ーーーとはいえ、今、お忙しいのは、重々承知。私の事でお時間を取らせるのは申し訳が無いし、私もしたくありません。
「何かお手伝い出来ないかしら」
今、ケイを探しているのは、告白するためではなく、何かお手伝いが出来ないかを尋ねるため。
何せ、忙し過ぎて、マリアも祝祭の準備に駆り出されていますからね。
私の万能メイド、マリアは料理も得意、掃除も得意、洗濯も得意、裁縫も得意、飾り付けも得意、テーブルセッティングも得意。メイドや料理長達が、涙を流してマリアにお礼を言っていました。
(私も、トリワ国では姫として、招待状の作成、予算の設定、お出しする料理の提案や、使用人達への指示……色々と働いていましたわ)
私にも何か、お手伝いする事があれば、喜んで引き受けたいです。何もしていないのも暇ですしね。マリアも傍にいませんし。
(次、ケイがいそうな所はーーー)
「カナリアじゃないか」
ケイの姿を探し、今度は、中庭の方に足を伸ばそうとした所で、声をかけられた。
(……振り向きたく無いですわ)
聞き覚えのある声は、嫌悪感を感じるもの。このまま、振り向かずに去りたいところですが、しつこく追って来るのは目に見えていますし、このまま振り向いても面倒臭い……。
見付かった時点で、どちらにせよ一緒ですわね。
ため息を1つ零してから、嫌々、声のした方に振り向いた。
「久しぶりだな」
振り向いた先にいたのは、予想通り、お馬鹿で愚かなルドルフ公爵子息、キール様。
「お久しぶりです……どうしてこちらに?」
「父さんの付き添いさ。豊穣の祝祭について意見があるそうでね」
どうせ、もっと贅沢にしろ。とか、下級貴族を呼ぶな。とか、文句を言いつけに来たのでしょうね。
「そうですか」
「なぁ、カナリア。豊穣の祝祭のダンスパーティーのパートナー役、俺が引き受けてもいいんだぜ?」
はっ倒しますわよ。誰が貴方なんかに頼むと思います?しかも、また上から目線ですわね。
「お断りしますわ」
「照れるなって。お前が俺の誘いを恥ずかしがって受けないのは、もう知ってるんだ」
頭かち割りますわよ。
「冗談も程々になさって下さい。私は、心から、貴方の誘いを断っています」
自意識過剰にも程がありまりますわ。どこに、私が貴方を慕っている素振りがありました?嫌悪感しかありません。
「カナリア、執拗いぞ。婚約破棄の件は謝ってやる。だから、さっさと俺の婚約者に戻れ!」
「お話になりませんね」
何度言っても、自分に都合の良い解釈しかされないようですし、話していても時間の無駄です。
キールを放置して、その場から離れようとするが、前に回り込まれ、阻まれた。本当に執拗いですわね。
「待て!お前、誤解しているぞ!」
「誤解?」
「ルドルフ公爵家は、王家にも引けを取らないほど、財力や領土を持つ、権力のある家だ!王家も、ルドルフ家を無視出来ない程のな!」
「はぁ…」
「だから、嫌々ケイを選ぶ必要は無い!胸を張って俺を選べば良い!」
何を言っているのかさっぱり分かりませんわ……。
要約すると、私が、権力目当てで、ケイと一緒にいると思われているのでしょうか?それなら、自分も同等の権力を持っているから、素直になって俺を選べ。と?
馬鹿馬鹿しいですわ。
「私は望んで、ケイを選んでいます」
「だから、お前が俺を選べば!必然的に、トリワ国の後ろ盾がついて、俺達の方がケイより優位になるんだ!そんな事も分からないのか!」
本っっっ当にうざいですわ!!!
「私は、純粋にケイが好きなので、彼を選んでいるだけです。権力など関係ありませんわ」
「ーーはっ?!」
「彼は優しくて誠実で、国を大切に思う、尊敬に値する人です。私は、そんなケイを選びました。決して、貴方を好きではありません」
「そんな嘘をつくな!本当は俺が好きなくせに!可愛くないぞ!」
「申し訳ありませんが、微塵も興味がありません」
「お、俺に興味が無いだとーー?!公爵家の子息である俺に、興味が無いーー?!」
ここまでハッキリ言わないと伝わらないのに驚きですわ。お願いですから、もう諦めて下さい。
呆然としているキールの横を通ると、今度は、阻まれなかった。
「再三、お話していますが、私は、トリワ国の姫であり、貴方よりも立場が上です。私の道を阻まむのも失礼であると、いい加減学んで下さい」
「嘘だ…!俺が、ケイより劣っているなどーー!」
もう私の声は届いていないようですわね。
ルドルフ公爵家が唯一、目の上のたんこぶだった王室の、その王子に完全に負けたようなものですものね。
同盟さえ上手くいけば、王室の立場は、今よりも、もっと強固なものになる。そうすれば、幾らルドルフ家が力を持っていようと、太刀打ち出来なくなるでしょう。
心を入れ替えて、きちんと、貴族としての役割りを果たして下されば良いのですけど……。
私はキールを残したまま、1度も振り向かずに、その場を去った。
867
お気に入りに追加
2,987
あなたにおすすめの小説
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。
新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる