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31話 メアリー視点②

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「もう!何なの!何なの!?」

 メアリーは、ガンッと、飲んでいたティーカップを乱暴に投げ付けた。壁にぶつかり、バラバラに砕け落ちる。

 今、王都は、トリワ国と、その姫であるカナリアの良い噂で持ち切りだった。

 《カナリア様は、魔物に襲われそうになった街を、トリワ国の力を使い救い出した、心優しいお姫様》

「どうしてあんな女が良い奴になるのよーー!?折角、男共を使って、真・実・の噂を流したのにっ!!」

 《メアリーは、野蛮な怪物国の怪物姫に虐められ、更には、無実の罪を被せられた、可哀想な女の子。カナリアは、我儘で、いたいけな少女を虐める、酷い、野蛮な、怪物姫》

 初めは、上手くいっていた。
 普段、平民の評価なんて興味無いけど、《カナリアは酷い女》と、真実が流れるのは、気分が良かった。

 なのにーーー

『カナリア姫は、心優しいお方だ』
『街を守るため、貴重な解毒剤の作り方を、何の見返りも無しに、サランペルを統治するフォラン伯爵に伝えた。そんな心優しい方が、虐めなんてするだろうか?』
『王室から、カナリア姫が令嬢を虐めていたなんて、全くのデタラメだって通達が来たしな、きっと、事実じゃなかったんだ』
『カナリア姫は、素晴らしい人だ』

 私が全く望んでいない、嘘・の・話・が出回って、平民達からのカナリアの人気がーー上がっていく。

 たかが平民の噂話。普段なら、気にも止めない。
 だって、平民の話なんて、評価なんて、何の価値もない。でも、カナリアの評価が上がるのは、例え平民の噂話でも、許せない。
 貴方達が褒め称えるべきなのは、私なの!

「貴方達が敬うべきなのは、未来の王妃である、私なのに!!」


 聞きたくも無い嘘の話が、溢れてる。

 カナリアは、私を虐めてた、酷い女なの!だから、良い女なんかじゃないの!優しくなんかない!素晴らしくなんかない!皆、カナリアに騙されているの!


『ケイ王子様も、カナリア姫と一緒に、街をお救いになったんですよ』

 1番聞きたく無かった話が、勝手に聞こえてくるの!



 キール様に新しいアクセサリーをおねだりしようと思って宝石店に入ったら、先客の貴族の令嬢が、店員に向かい、世間話として、話をしていた。

『どうやら、途中、カナリア様は体調を崩されたようなのですけど、そんなカナリア様を抱きしめながら、馬車までエスコートしたケイ王子様の姿、格好良かったですわー!』

『その場にいらしたんですか?』

『ええ、サランペルに用事があって。このまま、カナリア様とケイ王子様が結婚して下されば、同盟も結べて、魔物の驚異に怯える心配が減りますのにね』

(結婚…?ケイ王子様が?私以外の女と?)

 これ以上、話を聞きたくなくて、私は足早に、馬車に戻った。



 そんなの、絶対に有り得ない。
 だって、ケイ王子様が好きなのは、私なんだもの。私が、彼の本当の婚約者なの。

「……きっと、脅されてるのよ…!可哀想なケイ王子様!」

 私との愛を貫きたいのに、同盟を盾にして、結婚を迫られているに違いない!そうよ!それ以外、考えられないもん!

 カナリアの立場は、本来、私がいるべき場所なの。
 世界で1番可愛い私が、私に1番相応しいケイ王子様の隣に立って、彼に守られて、皆から祝福されて、何不自由無い生活をして、生きていくべきなの。

 私は誰より努力してる。
 誰より可愛くあるために、男の人が欲しい言葉を送って、か弱い私を守ってあげたい!って、庇護欲を引き出して、私を、守らせてあげてるの。

 何の努力もしていないカナリアが、ケイ王子様の隣に立つ資格なんて無い。

 誰よりも努力してる、可愛い私が、ケイ王子様の隣に立つべきなの。

 それを私から横取りするカナリアはーーー悪い女、悪役なの。


「悪役には、もう退場してもらわなきゃ」

 私だって、こんな乱暴な手を使うつもりはなかった。大人しく自分の罪を認めて、引っ込んでくれていればーーーああ、早く、私の為なら何でもしてくれる男達に、おねだりしなきゃ。

「カナリアは、もう要らないよーってね」

 ケイ王子様の為にも、ちゃんと、私が、彼の横に立たないと駄目なの。だから、私にその場所ーーー

「頂戴ね♡カナリア様♡」


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