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29話 豊穣の祝祭

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 *****

 王都ーーー。

 サランペルでの休暇が終わり、王都に戻って、2週間。休暇と言っても、私の仕事は、名ばかりの視察延長。城から1歩も出ずに過ごしているので、今もほぼ、何もしていない。

「……手紙を全て焼き払いたいですわ」

 もっぱら、私宛に来た手紙に目を通す日々。
 想像していた通り、休暇中に届いた手紙とプレゼントの量は、見ただけで卒倒しそうなくらい、大量だった。
 その内のプレゼントは、王室にお願いして全て返却。手紙は、今まさに読み進めている最中。

 2週間経ちましたのに、まだ終わりませんわ…。

 手紙の主の大半は、トリワ国の力目当てに、私と懇意になりたい貴族子息達が殆ど。毎日毎日、返信もしていないのに、凝りもせずに送られている。

「カナリア様、これをどうぞ」

「?何ですの?」

 スっと、横からマリアが差し出してきた物を受け取ると、それはマッチだった。

「燃やしましょう」

 ……そうね。私が今、燃やしたいって言ったものね。でも、それは、余りにも面倒臭い手紙が多いから出てしまった言葉のあやよ。ああ、でも、口に出してしまった私が悪いですわね。

「ありがとうマリア。でも、これはお返しするわ」

 そう言ってマリアにマッチを返すと、彼女は不服そうな表情を浮かべたまま、ポケットにマッチをしまった。


「カナリア。今、入ってもいいか?」

「!」

 扉の外から聞こえる声に、大袈裟に反応してしまう。
 私が何も答えないでいると、かわりに、マリアが返事をした。

「どうぞ、お入り下さい」
「っぅ!」

 別に無視しているわけじゃないの。でも、何故だか、その人を前にすると、上手く声が出なくなるの。

「カナリア、1ヶ月後にある豊穣の祝祭について確認をしたいんだがーーー」

「はい」

「…どうしたんだ?」

 扉に入ってきた人物は、手紙で顔を隠して話す私に、心配そうに声をかけた。

「何もありませんわ。手紙を読んでいるだけです」

「…そうか」

 ずっと顔を隠しておきたい所だけど、流石に、ずっとこのままでは、失礼に当たる。今でも充分、失礼ですけどね!言われなくても、分かっていますわ!

 ゆっくりと、手紙を下ろし、部屋に入って来た人物を見た。いつもの金髪碧眼。綺麗な整った顔。この城の主の息子、王子様、ケイの姿を。

「豊穣の祝祭は1年に1度、豊穣の女神を祭るもので、国全体が、その期間、豊穣の女神に感謝を伝え、来年1年の豊穣を祈る為の祝祭ーーーまぁ、最初の行事で、形式的に祈りを捧げた後は、市街では、踊りや歌を楽しむ催しが開かれたり、お祭りのようなものになっているよ」

「あら。とても楽しそうな祝祭ね」

 去年の今頃は、学園で大人しく過ごしていたので、こういったイベントごとには全スルーでしたものね。誰も教えてくれる方もいらっしゃいませんでしたし。

「祖父の代では、王室と上級貴族だけが贅沢を尽くし楽しむものになっていたが、父の代からは、王室貴族関係無く、国民全員が楽しめる日にしている」

 ああ…。へーナッツ国の暗黒の時代ですわね。
 その無能な祖父のお陰で、今どれだけケイ達が苦労しているか……。

「祝祭は1週間続くんだが、カナリアには、最後にある王室主催のダンスパーティに出席してもらいたい」

「他はよろしいのですか?」

 あまり目立ちたくはありませんが、お世話になっている以上、公式の場には、トリワ国の姫君として出席します。

「ああ。ただ、今年の祝祭からは、貴族全員に招待状を送ったんだがーーーキールは勿論、メアリー嬢も出席の返事をしてきた」

 そう言えばいましたね、そんな小物。あの派手なキールからの手紙も、ケイの計らいで届かなくなったので、すっかり存在を忘れていましたわ。

「今回のダンスパーティーはパートナーが必要だから、彼女は参加出来ないと思ったんだが……」

卒業式の騒動で、彼女の評価はだだ下がりですものね。普通の貴族の子息なら、彼女をパートナーには誘いません。

「どうやら、盲目的に彼女を好きでいる男達も一定数いるようで、パートナー役には困らないらしい」

「メアリーさん、可愛らしいお方ですものね。学園でも、随分沢山の男性に取り囲まれていましたわ」

「あの女、どうゆう神経でパーティに参加するんですか?普通、向こうからお断りをしてきてもおかしくないはずですが、頭の中が豆腐で出来ているのでしょうか?1度、きちんと痛い目に合わせる必要がーーー」

「ストップよ、マリア」

 私の事になると途端に暴走してしまうマリアを制止する。

「いいじゃない。上級貴族だけが参加出来る祝祭はおかしいものね。それに、何名か、男爵令嬢や子爵令嬢の方から手紙を頂いていますの。彼女達に直接お会い出来るのが楽しみですわ」

 実は最近、何故か、私への好意を綴った手紙が届き出したのですよね。

『キール様から絡まれているテナ様をお救いになるなんて、素敵です!』
『なんの見返りもなしに、魔物を退治して下さるなんて、カナリア様は私達の救世主です!』
『ファンになりました!』

 ーーーなんて、どこかで私の話を聞いたのか、見ていたのか、そう思って下さる令嬢や、市民の方々からも、幾つか手紙が届いていますのよね。そんな大袈裟な者では無いので、少し気恥しいですが…。


「カナリア様、今回は正式なへーナッツ国の祝祭なのですから、トリワ国の姫君として相応しい格好をなさって下さいね」

「分かっていますわよ…」

 マリアにまえもって釘を刺されましたが、それくらい心得ております。前回の立食パーティは、王室主催とはいえ、ただのパーティ。でも、今回は祝祭。そもそもの規模が違います。
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