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28話 ケイ視点
しおりを挟む最初に感じた印象は、強い人。だった。
それは今も変わっていない。彼女は、カナリアは、とても強い人だ。
俺の周りにいる女性は、皆、弱く、俺に何かを求めてくる人達ばかりだった。
踊って欲しい。買って欲しい。婚約者にして欲しい。助けて欲しいーーー困っている人がいるなら、手を差し伸べたいが、彼女達のそれは、自己の利益を得るものばかりだ。
俺は、共に支え合って生きていける、そんな女性が、理想だった。
トリワ国に、ルドルフ公爵がカナリア姫との婚姻を望んでいると伝えた日、トリワ国の王ーー彼女の兄は、婚姻破棄前提の婚姻を了承した。
それは、カナリアにとって、とても酷い婚約だと分かっていたのに、俺達の力不足が原因で、そうなってしまった。
せめて、カナリアが公爵家に婚約破棄を言い渡した時には、彼女のそばで、全力で公爵家から守ろう。そう、思っていた。
なのに、蓋を開けて見れば、想像よりも遥かに酷く、キールは、寄りにもよって公の卒業式の場で、他に女を連れて、自分からカナリアに婚約破棄を言い出した。
まさか、ここまで何も考えていない男だったとは思わなくて、唖然としたよ。ルドルフ公爵が決めてきた大切な縁談を、女に溺れ、捨てるとは。
婚約破棄前提だったとは言え、あんな公の場で、婚約者に婚約破棄を言い渡されたんだ。深く傷付くに決まっている。
だが、彼女は、婚約者に、あんな形で婚約破棄を告げられたにも関わらず、凛々しく、立ち向かっていった。
自然と、彼女の元に足が向かい、ダンスに誘った。純粋に、彼女を助けたいと思った。
カナリアは、自分から助けを求めない。
婚約破棄の時も、身に覚えの無い虐めの罪を被らされた時も、貴族達から大量の手紙を送り付けられても、何でも無い顔をして、自分で解決してしまう。
逆に、キール達に責められている令嬢を助けようとする、強い女性だ。
鬱陶しい貴族達の挨拶を切り上げ、急いでカナリアの姿を探していたら、泣いているテナと、そんなテナを慰めているようなカナリアの姿を見付けた。
『カナリア…?』
何かあったのだと、瞬時に理解出来た。
子爵子息であるスダネナとジャージーが、カナリアに手を伸ばそうとした時、カッと、強い怒りがわいた。
彼女に触れるな。
少しして、彼女が、お出掛けがしたいと希望して来た。確かに、彼女はここに来てから、城以外、1歩も外に出ていない。
配慮が足りなかった。
マリアと2人で、テナの所に行くと言うので、俺はすぐに父様に、サランペル視察の名目で、一緒について行く許可を撮った。
一緒にサランペルの街を歩いて笑うカナリアは、どこにでもいるような、普通の女性だった。だが、俺の中では、もう、普通では無く、特別な存在になっていると、気付いた。
カナリアは、1人で何でも解決出来る力を持つ、強くて、聡い女性だ。この国の内情も、話す前から、気付いたように、尋ねてきた。
すべてを話して、同時に、彼女にかけた負担を、心から謝罪したが、彼女は傷付ていないと言い、逆に、俺を気遣った。
ああ。やっぱり彼女は、とても強い女性だ。
彼女は、1人で何でも解決しようとする。それを出来る力を持っているかもしれないが、俺は、そんな彼女を、守りたい。
テナとカナリアが2人で行った酒場。
俺も行った事は無いが、俺がいると、テナが気を使って、上手く話せなくなるだろう。気を使ったつもりだっが、大勢の男達に絡まれていたカナリアを見て、後悔した。
しつこく言い寄られていたらしいが、それでも彼女は、少しも物怖じしていなかった。それどころか、挑発して、矛先をテナから自分に向けようとしていた。
彼女を無事に助けれた時は、ホッとしたし、強過ぎる彼女に、少し困ってしまった。
これでは、少しも目を離せない。
知れば知るほど、俺は、カナリアが好きになっていった。
『ダ、ダイジョウブデスワ!』
俺に抱き締められ、顔が真っ赤に染まる君を見て、俺がどれだけ嬉しかったか、君は分からないだろう。
可愛くて、もっと、と欲張ったら、彼女のメイドに邪魔をされてしまった。
『後でカナリア様との時間が必要ですか?』
帰る馬車の中、無表情のまま、マリアは俺に尋ねた。
『必要無い。時がくれば、また、俺から伝えよう』
『そうですか』
揺れる馬車の中、隣に座る君は、考え事をしているせいか、俺達の会話は聞こえなかったみたいだ。
まだ顔を真っ赤に染めている君が、こんなに可愛いと思う。
いつかまた、時が来たら、ちゃんと君に、俺の気持ちを伝えるよーーー。
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