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26話 絶対絶命
しおりを挟む案の定、大きな大きな声で暴露されたので、チンピラ冒険者だけで無く、広場に集まっていた民衆達も、突然の伯爵の告白に、一瞬、固まっている。
「トリワ国…の…姫?!嘘だろ!お、おおおお前が??なななな何でトリワ国の姫が、こんな所に……!」
さっきまでと打って変わって、めちゃめちゃ動揺して、怯えてますわね。いや、てか、何をしてくれてるんですか!フォラン伯爵ーー!!!
「カナリア姫って、トリワ国の?あの、怪物国の姫?!」
「ケイ王子様だけじゃなくて、カナリア姫様もこの街に来てるの?!」
あ、終わった。
フォラン伯爵の言葉を聞いた民衆達から、私の存在がバレたと示す声が聞こえる。
目立ちたくありませんでしたのに……。
へーナッツ国で私の存在は、名前しか、知れ渡っていない。
カナリア姫だと祭り上げられるのがそもそも苦手ですし、権力に群がる虫も湧きますし、自由に動きにくくなるし……。
やってしまったと気付いたのか、フォラン伯爵は、顔面蒼白で、泡を吹いて今にも倒れてしまいそうになっている。
「あわわわあわわわあわわわか、怪物姫が、何でこんな街にー!?あの、どんな魔物も焼き払い、戦争を仕掛けてきた他国を、ものの1夜で壊滅に追い込んだ、あの怪物国の、姫がーー!?!?」
親切ご丁寧にトリワ国の説明をするチンピラさん。
いや、止めて下さる?!脚色し過ぎですわ!流石にそこまではしていません!害ある魔物は焼き払いますし、他国も追い払ったりしましたけど、壊滅にまで追い込んだりしていません!
「怪物姫と呼ばないで下さい」
とりあえず、1番気になる部分を指摘する。
「は!はははははい!分かりました!カナリア姫!すみませんでした!すみませんでした!生意気な口を聞いてすみませんでした!どうか!どうか命だけはお助けを!!!」
……冒険者なだけあって、トリワ国の話をよく知っているみたいですけど、そんっっっっっなに怯えられような非道な国では無いのですけど?
「態度を改めなさい。次、弱い者虐めをしようものなら、ただではすみませんわよ」
「はいっ!はいっ!すみませんでした!すみませんでした!」
先程までとは打って変わって、頭を地面につけ、土下座で許しを乞う。
いや、こんな所を見られたら、またカナリア姫の悪い噂が広まってしまいますわ……。幸い、背を向けているので、民衆にまだ顔は見られていませんが……。
「カナリアちゃんっ!」
私の元に駆け寄ったテナは、自分の首に巻いていたスカーフを取り、私の顔が隠れるように、頭に被せた。
「お父様がごめんなさい…!本当に…!後でキツくお母様と叱っておきます!」
「テナ…」
そうですわね…。本当はしっかりと怒って頂きたい所ですが、魂が抜けているようなフォラン伯爵の姿を見たら、もう充分、反省しているみたいなので、大丈夫ですわ。
「お父様ーー?!お、お前も、いや、貴女様も、まさか!テナお嬢様?!サランペルの伯爵令嬢?!?!」
やっと気付きましたか。
まぁ本来、サランペルの住民では無いですし、気付くのが遅れても仕方ありませんわね。
「どどどどどうして、テナお嬢様やカナリア様が、あんな場末の酒場なんかにー?!」
場末って……怒られますわよ、酒場の人達に。
「カナリアちゃんに、また、酷い事を言うなんて……!もう嫌!許さない!」
「し、知らなかったんです!テナお嬢様!お願いします!ギルドに報告だけはー!!!」
ギルド。とは、冒険をする者達が、絶対に必要とする場所。魔物が住まう国には必ずある施設で、トリワ国にもあります。
ギルドは、街に被害を出している魔物の退治や、移動に伴う護衛、魔物の住む場所に咲く薬草を採取して来て欲しい。等、様々な依頼を扱っていて、冒険者達はそこから依頼を受け、成功すれば、報酬が貰える。
冒険者にとっては、必要不可欠の資金源。
ギルドは基本、街ごとに有り、ギルドの管轄は、領主の仕事の一環。つまり、領主を怒らせれば、そのまま冒険者の活動が難しくなる。
怒るテナと、顔面蒼白で必死で謝り倒すチンピラ冒険者さん。
昨日とは正反対の構図ですわね。
「テナ、私はもう構いません。反省して頂けたら、充分です」
「カナリアちゃん…」
私のために怒ってくれたのはとても嬉しいです。テナが怒ってくれたお陰で、マリアもやっと暗器をしまってくれましたわ。
こんなチンピラ風情に何を言われようとも、私は別に構いません。弱い者虐めをしないよう釘も刺しましたし、これ以上は望みませんわ。
それよりもーーー
「カナリア様よ!きっと、カナリア様が、トリワ国の力を使って、あの脅威な魔物を追い払ってくれたのよ!」
「カナリアー!!ありがとうございます!!」
ーーー大事ですわ!!!
とてつもなく目立ってしまっていますわ!!!
テナがスカーフをかけてくれたので、まだ顔バレしていませんが、このままだと、バレます!
何せここは、サランペル街の大広場。
しかも、緊急事態だからと、大勢の人達が集まっている。こんな所で顔バレでもしてしまえば、瞬く間に私の容姿が知れ渡ってしまう!!
どうしましょう……広場から、伯爵家までは、少し距離がありますし……このまま、スカーフを被って伯爵家まで行きます?完全な不審者ですわ!
フル回転で脳を働かせるが、焦っているのか、何も解決策が思い付かない。
もう……諦めるしかありませんわよね。
目立ちたくないのは、ただの私の意向。別に姿を見せたからと、何かが起こる訳でも無い。
「ふぅ」
私は諦めて、頭に被っていたスカーフを取ったーーー
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