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25話 懲りない男達

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クゥリィに襲われてる冒険者がいたので、一応、連れて帰って来たのですがーー」

「どうしてもっと早く言わないのですか?!」

 私をからかうより前に言えたでしょう?!そして、何でそんなに落ち着いているのですか?!怪我人でしょう?!もっと焦って下さい!

「助けるかどうかをギリギリまで悩んだものでーー」

 さっきから、一応、連れ帰って来た。や、ギリギリまで悩んだ。など、歯切れが悪い言い方ばかりですわね。

「以前、カナリア様に分不相応ながらも声をかけ、手を出そうとした不届きなチンピラ軍団でしたので、あのまま蜂の餌にされるのを見届けるか、毒にやられて苦しむのを見るかで悩んだのですが、以前、カナリア様にコイツ等の始末を止められたのを思い出したので、一応、連れてきました」

「うん。連れて帰って来てくれてありがとう。思い留まってくれて良かったわ」

 マリアの背後から見える気配に本気を感じます…。怖いわ。

「で、その冒険者達はどちらに?」

「ここに」

 マリアが指す方には、乱雑に積み上げられた男5人の人間タワー。クゥリィの毒にやられているのか、5人とも意識朦朧で、体も血まみれで、至る所から流れている血も、ホラーみたいに怖い。

 マリアーーー!!!もう少し丁寧に並べてはあげれなかったの?!

 思わず心の中で絶叫しましたけれど、連れ帰って来てくれただけマシだと思う事にしました。



「大丈夫ですか?」

 とりあえず人間タワーから解放し、1人1人を地面に寝かせ、解毒する。
 4人は重症で、まだ意識が戻りませんが、薬を打ったので、少しすれば目を覚ますでしょう。

「……何だ、この薬……すげー体が楽になった」

 チンピラさんの1人は、毒の量が少なかったからか、最初から意識があり、解毒剤を打つと、すぐに体を起き上がらせた。

「毒を無効化する魔法の薬ですわ」

 トリワ国直伝の解毒剤。
 実在する全ての毒を無効化するのは無理ですが、これさえあれば、クゥリィの毒は怖くありません。前持って飲んでいれば、抗体も出来て、安心してクゥリィを倒す事が出来る優れ物。

 毒さえ恐れなければ、ある程度戦える者にとって、そんなに脅威な魔物ではありません。ケイはクゥリィを脅威だと言っていましたが、この解毒剤さえあれば、彼の敵では無くなるでしょう。

(ケイにも念の為、先程解毒剤を打っておきましたし)

 ケイは今、被害の確認と、念の為も兼ねて、クゥリィがいないかの確認をしに、護衛を連れ、広場から離れた。


「そんなすげー薬を、何でお前なんかが……」

「折角助かった命が惜しければ、お願いですから、私への態度を改めて欲しいですわ」

 後ろからマリアが凄い形相で睨み付けているのが分かりませんか?次、何かあれば確実に始末する気でいますわ……怖い。

「あの女も、クソめちゃ強くて……俺等が5人がかりで苦戦してたクゥリィの群れを、一瞬で切り刻んでいって……」

 言いながらガタガタ震えていますわ。その震えは、蜂(クゥリィ)に対する震えですか?それとも、マリアに対する震えですか?

「くそぉっ!お前に会ってから、散々だよ!優男にはコテンパンにやられるし、たかが女に助けられるしーー!何でだよ!ついてねぇ!!全部てめぇの所為だ!!!」

 髪をガシガシと乱暴に掻き毟りながら、乱暴な声を出すチンピラさん。

 ……死にたいんですか?私の言った事、理解してます?命が惜しければ、黙れ。っと言った方が良かったでしょうか?

「では、今からでも死にますか?」

「ふざけんな!何で俺が死ななきゃならねーんだよっ!!」

 死にたくて、わざと失礼な物言いを続けているのかと思いました。これで、『はい。死にまーす』なんて手を挙げようものなら、もうマリアを止めないでおこうと思いましたのに。
 と、いうことは、この人、私の話を何も聞いていないのですね。

「先程から失礼な態度ですけれど、貴方は、私達に助けられたんだと、理解していますか?」

 私達がいなければ、間違いなく、毒におかされ、魔物の餌になっていたでしょう。

「お前の所為だ。と、私を責める相手を助けるほど、私の心は優しくありませんの。特に、自分が強いと勘違いして、相手を見下すような底辺の男達なんて」

「底辺だと?!」

「事実ですわ。そうやって勘違いして、横柄な態度を続けていたら、いつかまた、こんな騒動に巻き込まれた時に、貴方達を助けてくれる人がいなくなりますわよ。私達はもう、絶対に、助けてあげませんから」

 もう頼んでもマリアは絶対に助けないでしょうしね……今も、私が必死で目配せでマリアを食い止めているのですよ? 

「お、お前等なんかの助けなんて、もう要らねーよ!俺達はな!こんな弱っちぃ国じゃなくて、もっと強いトリワ国に行って、頂点に立つんだ!」

 寝言は寝て言え。

「こんなに強い俺達なら、トリワ国も喜んで受け入れるだろーよ!!」

 止めてマリア!暗器を取り出さないで!!獲物を狙うような目で、チンピラ冒険者達を睨まないで下さいませ!!


「ゴォラァ!何だ貴様は?!カナリア様に向かってお前だと?!見ない顔だな!?まさか、問題ばかり起こし、追放された冒険者か?!」

「ヒッ!フォラン伯爵様っ!」

 必死でマリアを食い止めていたら、マリアよりも先に、フォラン伯爵がやって来ましたわね。こいつ……フォラン伯爵には怯えるなんて、身分にも弱いのですね。
 それはさておき、フォラン伯爵?人格変わっていません?大丈夫ですか?


「このお方をどなただと思っているんだ?!トリワ国の姫、カナリア様だぞ!!」

 フォラン伯爵ーー!!!!止めて!目立ちたくないから正体を隠していたのに、そんなに思い切り、いきなり暴露します?!?!

 
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