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24話 貴方を信じます

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 軍事力では他の国を寄せ付けない程の力を持つ国。それが、私が住むトリワ国。魔物の脅威に脅かされている国々が、喉から手が出る程、欲しがる力を持つ国ーーー。
 その圧倒的な力から、怪物として恐れられ、いつからか他の国から、怪物国と呼ばれるようになった。

 本当にやってしまいましたわ……!まさか、クゥリィ程度の魔物が、脅威でしたなんて……。
 王都は、魔物が侵入しないように作られた塀に囲まれているので、私はこの国に来てから、魔物には一切関わらずに過ごして来ました。
 言い訳ですが、魔物に関するこの国の力量なんて、全く知らなかったのです!きちんと調べておくべきでした……。
 出来れば、怪物国だなんて汚名は、即刻、捨てるべきですものね。トリワ国は、平和で穏やかな国なんですから!

クゥリィが大した事が無いなんて……にわかには信じ難いが……噂に違わず、トリワ国は凄い戦闘技術を持つ国なんだな」

 ケイは最初、半信半疑だったが、軍事力で最強と名高いトリワ国の噂を信じ、最後には納得し、トリワ国を賞賛した。

 お褒めに頂き光栄ですわ。でも、今は後悔でいっぱいです。せめて、マリアは蜂専門の退治屋さんなので、余裕なんです。とか言えば良かったかしら?
 ……何だか、それもおかしいですわね。

「兎に角、1度、様子を見に行く。フォラン伯爵、案内を頼む」

「はい!ケイ王子様!!」

 ケイにご執心ですわね、フォラン伯爵。
 気兼ねなく敬称で呼べるようにもなりましたし、私達の正体が皆さんにバレて、フォラン伯爵は楽になりましたわね。



 街に出ると、いつもよりも街が騒がしく、サランペルの中心である広場には、多くの人が集まっていた。

「フォラン伯爵様!」

 フォラン伯爵の姿を見つけるなり、民衆から声が上がる。

「フォラン様!魔物が!魔物がこの街に近付いているのは本当なのですか?!」

「うちの子が、すぐ近くで魔物の姿を見たと言っているんです!」

 どうやら、思っていたよりもずっと、魔物の進行が早く、すぐ近くまで魔物が迫っていたようだ。民衆からは、不安や恐怖の入り交じった声が聞こえる。

「皆!落ち着くんだ!直ぐに我々が処理する!」

 広場に集まった民衆全員に届くよう、広場の前方で、大きな声で呼び掛けるフォラン伯爵。

 フォラン伯爵、ちゃんと民衆の前ではしっかりしていますのね。良かったですわ。情けない姿しか見ていなかったので、安心しました。


「ーーねぇ、あの人ってーー」

「あの輝かしい金の髪、透き通るような碧い瞳ーー!もしかして、ケイ王子様?!」

「嘘?!どうしてサランペルに?!」

 フォラン伯爵様のすぐ隣にいるケイの姿に気付いた民衆達からも、次々と、声が上がる。

 やっぱり変装を解いたら、一瞬でバレましたわね。
 民衆達からは、悲鳴のような歓声のような、とても大きな声が上がる。
 魔物の襲撃に、突如現れた王子様。パニックになっているのは伝わりますわ。

「静まれ」

 ケイの言葉に、ピタッと、声が止む。

 流石王子様。一声で皆を黙らせてしまいましたわね。

「街に魔物が迫っているのは本当だ。だが、魔物が街に入る前に、魔物を退治し、街を防衛する。皆はそれを信じ、混乱を避けよ」

「ケイ王子様…!」

「王家が私達を助けて下さるのですね!感謝します!ケイ王子様!」

 住民の皆さんのパニックが心配でしたが、上手くケイが落ち着かせて下さいましたね何だかんだ、今の王室は、国民の皆様の信頼を得ているようです。



「カナリア。俺は今から、マリアの加勢に行ってくる」

 民衆を落ち着かせた後、ケイは私の元に近寄ると、当然のように、そう告げた。

「必要無いと思いますよ?」

「……そう言われるとは思ったんだが、俺達の国の問題に、無関係なマリアを、たった1人で戦わせる訳にはいかない。俺には、サランペルを守る責任がある。それに、もし何かあったら、君が悲しむだろう?マリアは、君の大切なメイドだ」

「……」

 サランペルを、この国の王子として、自分の手で守ろうとしている。その姿に、嘘偽りは無いのでしょう。

 彼は、自らの国をとても大切に思う人。

 それに、トリワ国のメイドが1人いなくなった所で、貴方には一切関係無いはずなのに、そうやって、マリアと、私の心配もしてくれる。
 ケイは初めて出会った時から、私を助けてくれた。それからも、ずっと、私が困れば、助けようと、足を踏み出してくれる。

 ケイの言葉は、自然と信じられる。

 私達の国の力を、利用しようとしない。
 この人なら、一緒に、協力し合って、支え合ってーーー生きていける。


「……お兄様に、貴方の国との同盟を、前向きに検討するように伝えますわ」

「…………いきなりだな」

 急に同盟の話が出て来て戸惑ったのか、長い沈黙の後、短く、答えた。

「ここまでで、貴方の誠実さが充分に伝わりました。私は、貴方を信じます」

「ーっ。いや、嬉しいーーが、今はそんな場合じゃなくてっっ」


「ーーーカナリア様、ケイ様。今、イチャイチャされている最中ですか?」

「わっ!」
「きゃあ!って、マリア!もう帰って来たの?」

 お馴染みのメイド服姿のまま戦いに行っていた、戦闘も出来る私の万能メイドは、何事も無かったかのように、パッパッと無表情で服に付いていた砂埃を払った。
 魔物と戦闘していたはずなのに、息1つ乱さず、返り血も一滴も浴びていない。

「はい。イチャイチャされている所、大変申し訳無いのですが、至急、お伺いしたい事がありましてーー」

「イチャイチャなんてしていませんけど?!」

 気まずくなるような事言わないで下さる!?そんなんじゃありません!違います!ちょっと、ちょっと、彼なら、一緒に支え合って生きて行けると思っただけでーーー!!あれ?結構恥ずかしいこと思っていました?!口に出さなくて良かったですわ。

「そんな事より」

「マリア?からかっていますわね?」

 私には分かります。長い付き合いですもの。
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