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23話 怪物国

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 サランペルに来て1週間。今日は、王都へ帰る日。


 この1週間、テナ、マリア、ケイと街ぶらしたり、お酒を飲みに行ったり、いっぱいお出掛けしました。
 酒場以降は、変な輩にも絡まれる事はありませんでしたし、平和。精一杯、休暇を満喫して、大満足ですわ。

 ただ、カナリアの噂は結構広まっていて、街中で都度、噂話を聞いてしまい、3人にも結局、私の悪評が広まっているのがバレてしまいましたわ。
 折角黙っていましたのに。

 ケイは直ぐに私に謝罪して、王都に戻れば、すぐに噂の撤回を始めると言って下さり、テナは、私の代わりに泣いて下さり、マリアはーーー暗器片手に、噂の発端とされるメアリーさんの元に行こうとしましたので、必死に引き止めましたわ。

 昨晩は、遅くまでテナとお話しました。
 私が帰るのが寂しいと、泣いて悲しんで下さって……必ず手紙を書く約束をしました。

 そう言えば、王都に帰ったら、溜まりに溜まっているだろう、あの馬鹿貴族達からの手紙を読まないといけませんのね……。苦痛ですわ。

「カナリア様」

「あら、もう出発する時間?ケイはもう支度は済ませたのかしら?」

 部屋に入ってきたマリアに確認すると、彼女は違います。と、首を横に振った。

「問題が起きたので、私達だけ、王都に帰還して欲しいと言われました」

「問題?」

「魔物が大量発生したそうですよ」

「魔物?!」

 急いで部屋を出て、フォラン伯爵のいる部屋に向かう。

「どうやら王都から王子様に使者が来て、魔物の群れがここサランペルに接近しているから、カナリア様を王都へ帰し、王子様はそのままサランペルに残って、魔物の襲撃に備えるようにと通達があったようです」

「帰りませんわよ!」

 そんな状況で、ケイやテナを置いて、私一人が王都へ戻るはずが無い。

「だと思いました」

「…マリア…貴女、何でそんなに落ち着いていますの?」

 緊急事態にも関わらず、一切焦っている様子の見えないマリア。私に対する事には、あんなに感情剥き出しになりますのに……。

「カナリア」

 既に領主の部屋に来ていたケイは、フォラン伯爵と魔物についての対応を話し合っていたようで、周りには、色々な意味で顔を真っ青にしている執事や、メイド達の姿もあった。

「カナリア様、今日はお帰りの日だと言うのに、騒々しくなってしまい、申し訳ありません…」

 フォラン伯爵が、丁寧に私に頭を下げ、謝罪する。

 ああ。王都からの使者が来たので、ケイや私が王子様とお姫様だとバレてしまいましたのね。

 だからか、ケイは昨日までしていた変装を外し、いつもの金髪碧眼の姿に戻っている。

 周りの執事やメイド達の顔色が真っ青なのは、魔物の襲撃の件と合わせて、私達の正体が露呈したからでしょう。それはそうですよね。今までは、ただの子爵令嬢とその護衛だと思っていたのが、まさかの隣国のお姫様と、この国の王子様ですものね。
 驚くのも無理はありませんわ。

 正体がバレてしまった今、フォラン伯爵が私達に砕けた口調をする必要も無い。

「状況はどうなっているのですか?」

「蜂型の魔物 (クゥリィ)だ。どうやら、繁殖期が終わって群れが拡大し、サランペルに接近して来ているらしい」

 報告が記載されている書類を見ながら、ケイは私の質問に答えた。

 蜂型クゥリィーーー個体にもよりますが、普通の蜂よりも遥かに大きく、巨大な物になると、熊よりも大きく、一刺しで絶命させてしまう程の毒を持つと言われる。

クゥリィは巣を乗っ取る性質があるので、街を襲って、巣を作るつもりなのかもしれませんね」

「街をーー!!」

 テナ含む、使用人達の顔が、更に真っ青に染まる。

「俺は、ここに残って、街の防衛に備える。カナリアは、今すぐにここを発つんだ」

「え?帰りませんけど」

 どうして帰らないといけないのかしら?
 100歩譲って、と言うのは分かりますが、そうでないなら、急いで帰る必要がどこにあるのかしら?まぁ、命の危険があっても、皆を置いて帰ったりしませんけどね!

「カナリア、君はトリワからの大切な預かり物だ。何かあったら、君のお兄様に申し訳が立たない…」

「ええ。ですから、サクッと退治して帰りましょう」

 私はそう言うと、後ろを振り返った。
 私に仕える、私の大切な、万能過ぎるメイドの方をーー。

「マリア。お願いするわ」

「承知致しました」

 私の命令を直ぐに承諾すると、マリアは、すぐ近くに買い物にでも出掛けるような、軽い足取りで、領主室を出た。

「なっ、マリアはどこに行ったんだ?」

 マリアが出ていった方を見ながら、何故か焦ったように尋ねるケイに、私は首を傾げながら答えた。

クゥリィを退治しに行きましたわ」

「退治?!1人でか?!」

 凄く驚かれているみたいですが……そんなに驚く事でしょうか?

「はい。魔物が出たなんて大騒ぎするので、ドラゴンでも出たのかと思ってビックリしましたわ。クゥリィ程度なら、マリア1人で余裕ですもの」

「「「……」」」

 あら?何やら皆さん、絶句されていますけど……私、もしかしてですが、やらかしてしまいました?


「…流石、怪物国…」

 部屋で控えていた使用人の一人が、ボソッと、つい口に出てしまったのか、言った後に、慌てて口を押さえていた。

 怪物国……私の国トリワ国が、よく、比喩されて使われている言葉。

「……もしかしてですが、クゥリィは、この国では、脅威になっている魔物の1つですか?」

「そうだな」

 私の質問にすぐに頷くケイ。

 ああー!やってしまいましたわ!!
 こんなんだから、トリワ国が怪物国だなんて言われるのです!
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