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21話 酒場初デビュー終了

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「何だよ、お前は!?この女の連れか?!」

「君達は、女性を口説き落とす礼儀がなっていない。断られたにも関わらず執拗く声を掛けるのはマナー違反だ」

 チンピラ相手にも丁寧に礼儀を教えて上げるだなんて……ケイは本当に優しいですわね。
 私の万能メイド、マリアなら、私への無礼な態度に激高し、既に半殺しにしていてもおかしくありません。

「は!ひ弱そうな優男が1人、俺達に歯向かおうってか?言っておくが、俺達はここら辺では名の知れたーー」

「悪いが、君達程度では、俺の足元にも及ばない」

 ハッキリ言いましたわね。ケイに悪気は無いのかもしれませんが、相手のスイッチを全力で押しましたわね。

「何だとこのっ!!」
「許さねぇ!!」

 ついには武器まで出して、ケイに向けるが、ケイに一切動じる様子は無かった。

「店内で暴れるのは、お店の方の迷惑になる。喧嘩するのも、人様への迷惑を考えろ」

 軽い口調で注意しつつ、男達を次から次へと薙ぎ倒すケイ。剣技の腕も確かとは聞いていましたが、噂通り、何人いようと、チンピラさん達では相手にもなりませんでしたね。


「くそっ!覚えてろよ!」

 呆気なくケイにズタボロにされ、漫画のような捨て台詞を残して、一目散に退散するチンピラさん達。

 覚えていていいんですの?ただの貴方達の恥ですから、忘れられた方が貴方達の為だと思いますけれど。


「カナリアちゃん!大丈夫だった?!」

 目に涙を溜めながら、ガバッと、私に抱き着つき、安否を確認するテナ。

「ええ。怖い思いをさせてごめんなさいね」

 初めての酒場デビューでしたが、とんだ災難に見舞われましたわ。あのチンピラさん達には、後で何らか天罰が下れば良いのに。


「私は大丈夫!カナリアちゃんが、ずっと、守ってくれてたから……!私、怖くて、何も出来なくて…!」

「それは当然ですわ。武器を持った男達に囲まれて凄まれたら、誰だって怖いものですもの」

「……君自身が例外だと言うのを忘れてないか?」

 見事に私達を守ってくれたケイは、剣を鞘に戻しながら、私達の元に来た。

 あら、私ですか?私は怖くありませんでしたわ。
 傍に護衛の方々が控えているのを知っていましたし。ケイ本人が出てきたのには少し驚きましたが。
 彼等の血の気が盛ん過ぎて、早々に手を出されてしまいましたけど、煽り過ぎましたかしら?テナに手を出されるよりかは、私がターゲットになっていた方が良いですからね。

 まぁ、あのチンピラの皆様も、サランペルを統治するフォラン伯爵の娘にちょっかいを出していたなんて思ってもいないでしょうから、私は彼等も救ってあげていたんですよ?
 もしテナに乱暴な真似なんてしたら、フォラン伯爵も彼等をタダではすまさないでしょうしね。
 勿論、私に手を出していても、タダではすみませんわ。主にマリアが、鉄拳制裁を与えるでしょう。


「お嬢ちゃん達、大丈夫だったか?!」

 隣のテーブルで、カナリアの悪口を言っていた男性客が、心配そうに私達に声をかけた。

「あいつ等、最近この街に来た冒険者なんだけど、素行が悪くてな。今度領主様に相談してみよーかって話してたとこなんだ」

「領主様?フォラン伯爵様にですか?」

「ああ。うちらの領主様なら、絶対何とかして下さるから、安心しろよ!うちの領主様は、最高に素晴らしいお方だからな!」

 親指を立て、満面の笑みで、サランペルの領主である、テナの父親、フォラン伯爵の信頼、賛辞を述べる住民達。彼等は、目で見て感じたフォラン伯爵を心から支持している。
 ふとテナを見ると、自分の父親を褒められ、誇らしそうに微笑んでいた。

 彼等は、私ーーカナリアを悪く言っていましたが、それは、彼等が噂を信じてしまった結果。流れてくる噂を信じてしまっただけで、決して悪い人達では無いのでしょう。

「てか、そっちの青年も一緒に飲んでたら、絡まれる事なんか無かっただろ。虫除けに一緒に飲んどけよ、兄ちゃん!」

「兄ちゃん強かったなー!男前だしよ!」

 チンピラを颯爽と倒したケイの背中を強目に叩きつつ、賛辞を送る。

 ケイがこの国の王子様だと知っているテナは、住民達の王子様に対する態度に気が気じゃないようで、あわあわしていた。

「ありがとう。剣術は少し習っていて、得意なんだ」

 少し?国の騎士団長直々に剣技を叩き込まれ、王室の騎士達にも負けない剣の腕をお持ちと聞きましたが?

「冒険者にも負けねぇなんて、すげーよ。てか、兄ちゃんの顔……どっかで見た事ある気がすんだけどよ。どこで見たんだったかな」

「俺もなんだよな。こんな男前、1度見たら中々忘れねーはずなんだけど、どこだったか……何か遠巻きに見たような……」

 ギクリ。ですわ。

「良く言われる。うろ覚えだと言う事は、意外とどこにでもある顔なんだろう」

 まぁ面と向かって会った事は無いでしょうしね。写真とか肖像画、祭典の際に遠巻きで見る位でしょうから、金髪碧眼の印象を変えてしまえば、朧気にはなるのですかね。でも、どこにでもある顔では無いでしょう。ケイみたいなイケメンがそこら辺にいたら、ビックリしますわ。
 変装しているとはいえ、ケイは目立ちますもの。

 カナリアの心配を他所に、テナ同様、まさかこんな所に、この国の王子様がいるとは思わないのか、王子様だと気付かれないまま、ケイ本人は、笑顔で住民達と会話をしていた。


 結局、この後も、テナの意向『私なら大丈夫!怖かったけど……それよりも、カナリアちゃんと一緒で楽しかったから』を汲み、ケイも含めて、3人でお酒を楽しみました。
 初めての酒場デビューが、あのチンピラさん達の所為で散々な物になりましたけど、最後が良ければ全て良しですわ。
 本当は、初めからケイも一緒に飲むはずだったのですが、王子と一緒ではテナが気を使うだろう。と、ケイは護衛として酒場まで同行し、少し離れた場所で、他の護衛の兵と一緒に待機してくれていました。
 急に絡まれた私達を見て、血の気が引く思いだったそうです。
 ちなみに、他の護衛の方は、ケイが出て行くのを止めたそうです。目立つから。と、自分一人で事足りる。と。実際、余裕でしたものね。護衛の方も問題無いと判断したから、一人で行かせたのでしょうし。

 余談ですが、私の万能メイド、マリアには、別にお使い(お兄様への手紙とお土産の配達)を頼んでおりまして、酒場での騒動を話した折には、メイド服に忍ばせている暗器を取り出し、『始末してきます』と、冗談では無いトーンで話されたので、思いっきり止めましたわ。

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