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20話 邪魔ですわ

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 話を聞く限り、自分を悲劇のヒロインにでも仕立て上げているのでしょう。虐められていたか弱い令嬢は、怪物姫によって、全ての罪を背負わされた。と。


「王室も酷いよなー。ケイ王子様は、権力に振り回されずに、正義を貫き通す方だと思っていたのによ」

「結局は昔のように、王室も腐ったまんまって事だろ」


 それは聞き捨てなりませんわね。
 ケイがどれ程、国の事を考えているのか、知りもしないで、勝手なことを……。

 本当なら、今すぐ名乗り出て、懇切丁寧に真実を熱弁したい所ですが、それをすると、完全に悪目立ちしますし、そもそも、信じて頂けるかどうか……。
 証拠すら捏造と言われてしまえば、もう太刀打ちが出来ませんわ。お手上げです。


「カナリアちゃん、これ見て!凄い大きな肉の薔薇だよ!」

 無邪気に、テーブルに運ばれて来た、お肉の花が乗ったお皿を見て、目をキラキラさせるテナ。伯爵令嬢である彼女もまた、こういった大衆酒場は初めての経験で、全てが目新しいのでしょう。
 予期せぬ所で嫌な思いをしましたが、テナのその初心な反応、凄い可愛いですわ!急激に癒されました。

「ローストビーフですわね。うん!とても美味しいですわ♡やっぱりお肉は最高です!美味ですわ」


 噂はどうあれ、私の無実は証明されています。多少の脚色は仕方ないしても、まさか大きくねじ曲がった噂が広がるとは思いませんでしたが、仕方ありませんわね。人の噂も七十五日とやらに期待しますわ。
 ケイの事まで悪く言われるのは納得いきませんがーーー


 今度、しっかりとメアリーさんにはお灸を据える事に致しましょう。私、意外と根に持つタイプなのですよ?楽しみにしていて欲しいですわ。




「ねーお嬢さん達、暇してるー?」

「…何ですの?」

 嫌な事を忘れ、楽しくお酒を飲みながら食事をしていると、男が1人、私達が座っているテーブルに、許可も出していないのに勝手に隣に座り、馴れ馴れしく、声を掛けて来た。

 ーーー何だか鬱陶しい予感がしますわ。

「暇ではありません。見て分かりませんか?今、楽しく食事をしている所です」

 鬱陶しい男は単体では無く、ぞろぞろと私達のテーブルに近寄ってきては、また別の男が、私の椅子の背もたれに手を置きながら、馴れ馴れしく軽い口調で話した。

「女の子2人だけなんて寂しいっしょ?俺等と一緒に飲もーよ。絶対、楽しませるからさぁ!」

「結構です。私達は2人で充分楽しんでいますから」

「えーそんな事言わずさぁー。女だけなんて絶対退屈じゃん?男いたほーがいーっしょ?」

 何ですかその決めつけ?女だけでも充分楽しいですが何か?大体、貴方みたいな人なんかと一緒に飲む方が苦痛です。

「執拗いですわね」

 着ている服や装備から見るに、彼等は冒険者か、この街の衛兵でしょう。腰には帯刀している剣も見えます。
 テナに視線を向けると、彼女は『知らない』と首を横に振った。とすれば、街の衛兵では無く、冒険者でしょうか?平和なこの街には似つかわしく無い、チンピラみたいな方々ですわね。

「てめぇ、可愛くねー女だな!いーのか?俺等は、ここら辺で名の知れた冒険者なんだぜ?」

 知らんがな。ですわ。
 名の知れた冒険者でしたら、その名を汚さぬよう、こんな所で酒に溺れて、か弱い女性に絡んでないで、さっさと宿にお帰りになった方が良いのでは?

「俺達に逆らったら、ちょーっと痛い目を見ることになっちゃうぞぉ?それが嫌なら、俺達と一緒にーー」

「お断りします」

「あぁ?!」

「お、こっちの子の方が断然可愛いじゃん。何、怯えてんの?大丈夫!俺等にちょーーっと付き合ってくれたら、優しくするからさ!」

 反抗的な態度でいる私が気に食わないのか、乱暴に声を荒らげる男。その一方で、別の男が、テナの方に近付こうと足を進めた。

「やっっだっっ!」

「彼女に近寄らないで」

 ガタッと椅子から立ち、男達がテナに触れないよう、彼女の前に立つ。

「何だよ!お前はもう邪魔だよ!そっちの女残して失せろや!生意気な可愛くねー女には興味ねーんだよ!」

 喧騒な酒場の中で、一際、男達の怒鳴り声が響く。
 周りも騒ぎに気付き出して、こちらの様子を伺い初めているのが確認出来た。

「カ、カナリアちゃん…!」

 背中に添えられた手から、テナが震えているのが伝わる。
 武器を持った屈強な男達5人に囲まれているのだから、テナが怖がるのは当然ですわよね。

「は!たかが女が、一丁前に騎士気取りか?!」

「あら。その、たかが女相手にムキになって、恥ずかしくありませんの?随分、器の小さな男ですこと」

 名の知れた冒険者だか何だか知りませんが、私の大切なお友達には、指1本、触れさせませんわ。

「貴方達に彼女は相応しくありません。お帰り下さい」

「てめぇっっ!たかが女の分際で!」




「ーーーカナリア様……相手を煽るのはお止め下さい。万が一にも怪我したらどうするんですか?」

「痛たたたたた!おい!離せ!」

 私に掴みかかろうとしたチンピラの腕を後ろに回して、いとも簡単に拘束する。
 噂に違わず、文武両道。彼は、身体的能力も、大変優れているのでしょうね。

「助けて下さってありがとうございますーーーケイ」

 そう伝えると、彼は少し困ったような、ホッとしたような、複雑そうな表情を浮かべた。
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