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17話 街ぶら
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次の日ーー。
昨日、伯爵家に着いた頃には、もう日も落ちかけていましたし、移動の疲れもあったので、街には出向かず、伯爵家で夕食をとって、流行る気持ちを抑え、そのまま就寝いたしました。
今日はいよいよ、街へ出掛ける日。
別に、王都を出歩いてはいけない決まりは無いのですが、王都は何となく、出歩きにくい。
私が普段から目立たなく生きて来た成果で、この国の殆どの貴族、平民に至っては、ほぼ全員が私の顔を知りません。学園で一緒に通っていたはずのスダネナとジャージーも、多少、髪型や化粧を変えたとはいえ、私に気付きませんでした。その程度の認識なのです。
だけど、もし、万が一にもバレた時の事を考えると、王都を出歩くのは億劫だった。
何せ、私をしつこく口説き落とそうと手紙を送ってくる貴族の多くが、王都に在住、または、王都に近い地域に住む貴族達だった。
バレて、群がってこられて、騒ぎになるーーー。想像しただけでお腹が一杯になりますわ。目立つのはごめんです。
なので、王都から離れたここ、サランペルで、ゆっくりと探索したかったのです!
「わぁ。人がいっぱいですわね」
王都ほどでは無いが、沢山の人が、サランペルの中心である商店通りを歩いていた。
商店に並ぶのは、みずみずしい果物を売っている果実店や、大きな肉塊ごと売る肉店、美味しいお菓子を売っている製菓店など、様々な店が立ち並んでいた。
んー!やっぱりこうゆう雰囲気、大好きですわ!
トリワ国では、よく街に出て、自分で買い物をしていたので、懐かしい。食べ歩きもよくしていましたわ。今日は何を食べようかしら。
久しぶりなのもあって、自然とテンションが上がる。
少しお腹も空いているし、まずは軽く腹ごしらえかしら。
「ケイは何か食べたい物はありますか?」
私は、今日、一緒にサランペルの街ぶらに付き添ってくれているケイに尋ねた。
本当はテナとも一緒に街を歩きたかったのですが、今日は習い事があるらしいので、明日、改めてお誘いしました。テナは、習い事を休むと言いましたが、私の為にそんな事はさせられません。
マリアは、サランペル地方の料理を習いたいと、フォラン伯爵家の料理人に朝から指導をお願いしに行きました。私のメイドは、本当に勉強熱心ですわ。主人を放置してまで、そちらを優先するのですから。
「!え、あーーと。何がいいのか…」
浮かない顔。歯切れの悪い返答が返って来て、頭を傾げる。
「どうされました?あ!本当は、ケイも私に付き添いたくありませんでしたか?」
もしかしたら、ケイもマリアと同じ様に、フォラン伯爵ともっとお話がしたかったとか、他にやりたい事があったのかもしれません!それなのに、私を1人にさせられないからと、気を使って一緒に付いて来てくれたのかもしれません。
「それでしたら、私の事は気にせず、どうぞ帰って頂いて構いませんよ」
「ち!違う!俺はーーーカナリアと一緒に出掛けられて、とても嬉しい」
「!」
そ、そんなに顔を真っ赤にして言われたら、変な意味が無くても、照れてしまいますわ!
「ただ、その……恥ずかしながら、俺は今まで、こうやって街に出た事は無くてな。どうすれば良いのか分からないんだ」
失念していましたわ。そう言えば、ケイはこの国の王子様でしたね。私もお姫様ですけど、自由な風習の国なので、悪しからず。
「そうでしたか」
「その……すまない。こういった場面では、普通、男がエスコートするものだとは思うのだが……」
「ーーと言うことは、今日が街ぶら初体験なのですね!」
パンッと、両手を叩いて、笑顔を浮かべる。
「街、ぶら?」
「お任せ下さい。私が、街ぶらの楽しみをケイに教えて差し上げますわ」
胸を叩いて、自信ありげに発言する。
私も、マリア達に教えられて、街ぶらデビューしましたもの!いつか私も、誰かに教えてみたかったのですよね!まさか、こんな所でその機会が巡ってくるとは思いませんでしたが、折角なので、私が張り切ってお教え致します!
とは言っても、私も初めての街。
「まずはどんなお店があるのか、一緒に見て回りましょう」
「…ああ、そうしよう」
私の笑顔に釣られたのか、ケイもやっと笑顔になったので、良かったわ。折角お出掛けするのですから、どうせなら一緒に楽しんで頂きたいものね。
屋台で串焼きを買って食べ歩きしたり、マリアとテナにお兄様、お世話になるフォラン伯爵にもお土産を買いながら、2人で街を巡る。
買い物も自分1人でした事が無かったみたいなので、私がしっかりと買い物の仕方もお教えしました!
「カナリアは凄いな。何でも知っている」
街にあるベンチで、休憩を兼ねて、買ってきたばかりの甘いパンと珈琲を頂いていると、ケイは私を凄いと評価した。
何でもは言い過ぎです。何でもは知りません。でも、褒められて悪い気はしませんわね。
「ふふ。私の国は結構、自由ですからね。王族だからと言って、街に出ない訳では無いのですし、買い物にも行きますのよ」
寧ろ、私は結構な頻度で出ています。何なら、料理長が風邪を引いたからと、かわりに夕食の買い出しに1人で行った事もあります。
「色々な国があるんだな」
「そうですわね」
正直、トリワ国ほど自由な国は他に見た事がありませんけどね。
お姫様が夕食の買い出しに街に出ているのに、誰も何も言わない国ですからね。
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