婚約破棄された令嬢は、実は隣国のお姫様でした。

光子

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17話 街ぶら

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 *****

 次の日ーー。

 昨日、伯爵家に着いた頃には、もう日も落ちかけていましたし、移動の疲れもあったので、街には出向かず、伯爵家で夕食をとって、流行る気持ちを抑え、そのまま就寝いたしました。

 今日はいよいよ、街へ出掛ける日。

 別に、王都を出歩いてはいけない決まりは無いのですが、王都は何となく、出歩きにくい。

 私が普段から目立たなく生きて来た成果で、この国の殆どの貴族、平民に至っては、ほぼ全員が私の顔を知りません。学園で一緒に通っていたはずのスダネナとジャージーも、多少、髪型や化粧を変えたとはいえ、私に気付きませんでした。その程度の認識なのです。

 だけど、もし、万が一にもバレた時の事を考えると、王都を出歩くのは億劫だった。
 何せ、私をしつこく口説き落とそうと手紙を送ってくる貴族の多くが、王都に在住、または、王都に近い地域に住む貴族達だった。
 バレて、群がってこられて、騒ぎになるーーー。想像しただけでお腹が一杯になりますわ。目立つのはごめんです。

 なので、王都から離れたここ、サランペルで、ゆっくりと探索したかったのです!

「わぁ。人がいっぱいですわね」

 王都ほどでは無いが、沢山の人が、サランペルの中心である商店通りを歩いていた。
 商店に並ぶのは、みずみずしい果物を売っている果実店や、大きな肉塊ごと売る肉店、美味しいお菓子を売っている製菓店など、様々な店が立ち並んでいた。

 んー!やっぱりこうゆう雰囲気、大好きですわ!

 トリワ国では、よく街に出て、自分で買い物をしていたので、懐かしい。食べ歩きもよくしていましたわ。今日は何を食べようかしら。

 久しぶりなのもあって、自然とテンションが上がる。

 少しお腹も空いているし、まずは軽く腹ごしらえかしら。

「ケイは何か食べたい物はありますか?」

 私は、今日、一緒にサランペルの街ぶらに付き添ってくれているケイに尋ねた。

 本当はテナとも一緒に街を歩きたかったのですが、今日は習い事があるらしいので、明日、改めてお誘いしました。テナは、習い事を休むと言いましたが、私の為にそんな事はさせられません。
 マリアは、サランペル地方の料理を習いたいと、フォラン伯爵家の料理人に朝から指導をお願いしに行きました。私のメイドは、本当に勉強熱心ですわ。主人を放置してまで、そちらを優先するのですから。

「!え、あーーと。何がいいのか…」

 浮かない顔。歯切れの悪い返答が返って来て、頭を傾げる。

「どうされました?あ!本当は、ケイも私に付き添いたくありませんでしたか?」

 もしかしたら、ケイもマリアと同じ様に、フォラン伯爵ともっとお話がしたかったとか、他にやりたい事があったのかもしれません!それなのに、私を1人にさせられないからと、気を使って一緒に付いて来てくれたのかもしれません。

「それでしたら、私の事は気にせず、どうぞ帰って頂いて構いませんよ」

「ち!違う!俺はーーーカナリアと一緒に出掛けられて、とても嬉しい」

「!」

 そ、そんなに顔を真っ赤にして言われたら、変な意味が無くても、照れてしまいますわ!

「ただ、その……恥ずかしながら、俺は今まで、こうやって街に出た事は無くてな。どうすれば良いのか分からないんだ」

 失念していましたわ。そう言えば、ケイはこの国の王子様でしたね。私もお姫様ですけど、自由な風習の国なので、悪しからず。

「そうでしたか」

「その……すまない。こういった場面では、普通、男がエスコートするものだとは思うのだが……」

「ーーと言うことは、今日が街ぶら初体験なのですね!」

 パンッと、両手を叩いて、笑顔を浮かべる。

「街、ぶら?」

「お任せ下さい。私が、街ぶらの楽しみをケイに教えて差し上げますわ」
 胸を叩いて、自信ありげに発言する。

 私も、マリア達に教えられて、街ぶらデビューしましたもの!いつか私も、誰かに教えてみたかったのですよね!まさか、こんな所でその機会が巡ってくるとは思いませんでしたが、折角なので、私が張り切ってお教え致します!

 とは言っても、私も初めての街。

「まずはどんなお店があるのか、一緒に見て回りましょう」

「…ああ、そうしよう」

 私の笑顔に釣られたのか、ケイもやっと笑顔になったので、良かったわ。折角お出掛けするのですから、どうせなら一緒に楽しんで頂きたいものね。


 屋台で串焼きを買って食べ歩きしたり、マリアとテナにお兄様、お世話になるフォラン伯爵にもお土産を買いながら、2人で街を巡る。
 買い物も自分1人でした事が無かったみたいなので、私がしっかりと買い物の仕方もお教えしました!

「カナリアは凄いな。何でも知っている」

 街にあるベンチで、休憩を兼ねて、買ってきたばかりの甘いパンと珈琲を頂いていると、ケイは私を凄いと評価した。

 何でもは言い過ぎです。何でもは知りません。でも、褒められて悪い気はしませんわね。

「ふふ。私の国は結構、自由ですからね。王族だからと言って、街に出ない訳では無いのですし、買い物にも行きますのよ」

 寧ろ、私は結構な頻度で出ています。何なら、料理長が風邪を引いたからと、かわりに夕食の買い出しに1人で行った事もあります。

「色々な国があるんだな」

「そうですわね」

 正直、トリワ国ほど自由な国は他に見た事がありませんけどね。
 お姫様が夕食の買い出しに街に出ているのに、誰も何も言わない国ですからね。

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