婚約破棄された令嬢は、実は隣国のお姫様でした。

光子

文字の大きさ
上 下
14 / 43

14話 キール視点

しおりを挟む
 

 *****

「くそっ!くそっ!くそっ!!!」

 ルドルフ公爵家の一室、自分の私室で、キールは、怒り任せに、部屋の物を床や壁に叩き付けていた。

「何で俺がこんな目にーー!あの根暗女っ!それに、ケイの奴も、調子に乗りやがってーー!!」

 父さんも、キツく俺を怒鳴り付けて、本当に部屋に閉じ込めた!たかが伯爵令嬢に罰を与えようとしていただけなのに、何で俺が罰を与えられなきゃならない!?

 今までは、こんな事は無かった。
 ちょっと王族に気を付けていれば、俺に逆らう奴は他にいないし、下の奴等は、皆、俺の言いなりで、俺に気に入られようと媚びを売ってくる奴等ばっかりだったから、何の問題も無かったんだ!!
 父さんだって、俺達より下の奴等は、皆、ただの奴隷だって!家来だって言ってたのに!!!
  

『何故カナリア様と仲の良い女を攻撃した?!カナリア様を敵に回すなと言っただろ?!王室にも完全に目を付けられてーーー!どうしてくれるんだ?!』

 王室のパーティからつまみ出された後、帰ってきた父さんは、凄い剣幕で、俺を怒鳴り付けた。

『父さん…!だって、テナが根暗女と仲が良いなんて知らなかったんだーー!それに、あんな根暗女なんかに、今更、ペコペコ頭なんて下げられねーよ!』

『ふざけるな!!!』

 バチンッッッ!と、思い切り頬を叩かれた。

 父さんに叩かれたのは初めてで、思わず、思考が停止した。

『お前の性で、私の計画が丸潰れだ!部屋に閉じこもって、自分の行いを少しは反省していろ!!』

『!父さん!やだよ!1ヶ月も部屋の中なんて!俺、退屈で死んじまうよ!!』

『五月蝿い!!!』


 もう、部屋に閉じ込められて、2週間は経った。その間、本当に俺は部屋から出られず、ただ、退屈な時間だけが過ぎる!

「くそっ!あの根暗女が現れてから、全部がおかしくなったんだ!あいつの所為でーー!!」


 トントン。
 怒りに身を任せていると、扉から、ノックする音が聞こえた。

「何だ!何か用か?!」

 メイドなら、憂さ晴らしに虐めてやろう。そう思い、俺は大きな声で、返事をした。


「キール様ぁ?メアリーです」

「!メアリーか!」

 声の主がメアリーと分かるやいなや、打って変わって、笑顔で声の主を出迎えた。

「キール様ぁ!会いたかったですぅ!」

 ギュッと、キールの体にしがみつくメアリー。

「ああ。俺もだ、メアリー」

 キールも、そのままメアリーの体を抱き締め返した。

「どうやって中に入ったんだ?」

「ふふ。執事長に頼み込んで、公爵様がいない時に中に入れて貰ったんです。キール様に、どうしてもお会いしたかったから♡キール様がいないと、メアリーはもう生きていけません♡」

 上目遣いで、甘えるような猫なで声を出すメアリー。

 男爵令嬢で身分は低いが、メアリーは、男を立てる事を知っている。俺に甘えて、褒めて、ベタ惚れしてる。
 そうだ。俺は、公爵子息で、誰もが俺の顔色を伺い、俺に媚びを打ってくる!俺は、誰が見ても、魅力的な男なんだ!

 あの根暗女も、俺の事が好きなのに、婚約破棄されたのを根に持って、あんな不躾な態度を取っているに違いない。

(父さんの評価を上げるには、あの根暗女を、俺の婚約者に戻すのが1番手っ取り早い…!)

「キール様ぁ?どうかしましたか?」

「……いや?会いに来てくれて嬉しいと思っただけさ」

「きゃっ♡メアリー嬉しい♡」


 メアリーを手放す気は無い。こいつは何より可愛いし、手元に置いておいて、損は無い。

(あの根暗女を、仕方が無いから正妻にしてやって、メアリーを俺の愛人にする)

 結婚さえしてしまえば、トリワ国の後ろ盾は得られたも同然。俺を好きなあの根暗女は、離婚は回避したいだろうし、そもそも、離婚なんて、見聞が悪いしな。
 そうだ。あの根暗女が俺の物になれば、さっさと解決するんだ。

 トリワ国の後ろ盾が得られれば、王室にも、気を使う必要が無くなる!ケイの野郎にも、デカい顔されなくて済む!!

 父さんはきっと、俺がこれを理解してなかったから、俺を怒ったんだな。
 納得したら、怒りがすっかり収まった。

「キール様ぁ、大好きです♡」

「ああ。俺もだよ、メアリー」

 俺はメアリーの髪を撫でながら、甘い言葉を囁いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

処理中です...