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13話 カナリアちゃん
しおりを挟む「は、はい……あの、私の所為で、こんな騒ぎになってしまって、申し訳ありません」
「テナの所為ではありません」
あの馬鹿三人衆の所為です。
まぁ、人が本格的に集まる前に退散出来ましたし、結果的に貴方達の評価が下かっただけなので構いません。これで許して差し上げますわ。
「私、テナに謝罪と、お礼を伝えたくて、また会いたかったんです」
「謝罪?お礼…ですか?」
「ええ。私に優しくしてくれたでしょう?あの時は、まだ身分を明かせなかったから、心配をかけたでょうし。今日も、キール達に私の性で絡まれてしまって……」
懸念はしていたのだけど、実際に起こってしまった。まぁ?私がトリワ国の姫だと分かっていて、こんな暴挙に出るなんて、本当に頭の悪い方々なんだなぁーとは思いますわ。
「そんなっ!私、結局、何も、助ける事は出来なくて……」
貴族の縦社会が強いこの国で、伯爵令嬢である彼女が、公爵子息であるキールに楯突くことは難しい。
「私を気にかけ、優しく声をかけてくれただけで、私はとても嬉しかったですわ」
「カナリア様…」
落ち着いていたはずの涙が、また、彼女の目から溢れるのを、私はハンカチでそっと拭った。
「そう言えば、テナ、どうしてそんなにかしこまっているのですか?」
「え?」
「気軽にカナリアと呼んで下さいとお願いしましたよね?口調も、前のように噛み砕いて頂いて構いません」
「そ!そんな事出来ません!!」
慌てたように拒否するテナ。まぁ、これが普通の反応ですわよね。他国の王族相手に、一般の貴族令嬢が、許しを得たからと言って、簡単に砕けた口調、呼び捨てには普通出来ませんよね。
ああ。貴族子息・令嬢の方が、本来、出来にくいのかしら?きちんと教育を受けているから、対外的な礼儀作法を学んでいるものね。普通は。どっかの馬鹿ーーキールは、未だに私にふざけた口の利き方をしてきますが。
「テナ、私の国では、王族貴族平民関係無く、皆が平等に暮らしています」
「み、皆が??」
この国では信じられないでしょうが、私の国では、誰でも対等に会話が出来ます。
街を歩けば、『姫様ーー元気?』や『姫様!良い野菜が入ったから食べてってよ!』なんて、街の人達が声をかけて下さるのです。
「はい。ですから、この国では、公の場では難しいかもしれませんが、良ければ、2人だけの時は、普通にして頂けると嬉しいわ。無理にとは言わないけど」
テナの負担になるのは良くないものね。
私がそう言うと、テナは少しーーいや、だいぶ真剣に思考した後、口を開いた。
「わーー分かった。でも、呼び捨ては難しいから、せめて、カナリアちゃんって呼ばせて下さい!」
カナリアちゃん!何だか懐かしいわ……!城の料理長も、私の事をそう呼ぶのよね!
「ええ。改めてお礼を言いますわ。あの時は、本当にありがとう、テナ」
「こちらこそ……助けてくれてありがとう、カナリアちゃん」
互いにお礼を言い合うと、2人は顔を見合わせて、笑いあった。
「すまなかった、フォラン伯爵令嬢」
「とんでもございません!お願いです!頭をお上げ下さい!!」
騒動を収束させ終えたケイは、部屋に来るなり、テナに向かい頭を下げた。
王室主催で起きた騒ぎとはいえ、自分の国の王子が、いち、貴族令嬢に頭を下げる。
テナは慌てふためいて、ケイに頭を上げるように申し出た。この国は縦社会が厳しいようですから、テナからしてみれば、震え上がるくらい、恐縮する出来事なのでしょうね。
「3人には厳しく抗議し、今後、フォラン伯爵令嬢に近寄らないよう通告し、言い掛かりで無実の令嬢を傷付けた罰として、1ヶ月の謹慎処分と罰金、領土の1部返還を請求した」
「き、謹慎処分と、領土の返還もですか…!?」
重すぎる罰に驚くテナ。
「ああ。これらの罰金は、彼等に傷付けられた代償として、伯爵家に渡そう」
「よく公爵家が罰を受け入れましたね?」
プライドの塊の様な家ですから、伯爵令嬢を虐めていただけでは、自分達は悪くないと突っぱねそうですけど。
「立て続けにこうも問題を起こしているからな。公爵も子息を叱り付けていたよ」
前回の失態も癒えていないでしょうに、今回もまた、騒動を起こし、公爵家の名前を汚しましたものね。本来、後ろ盾を得ようとしていた私も関わってしまいまたし、流石に罰を受け入れるしかありませんか。
「スダネナとジャージーには、伯爵家からも抗議が行くだろう」
「はい…。父様に話してみます」
「抗議?テナの家が、彼等に抗議出来るのですか?」
貴族の縦社会が厳しいこの国で、下の身分の貴族が、上の身分の貴族に、直接抗議出来るとは思えませんけど…。
「スダネナとジャージーは伯爵家より身分の低い子爵子息だ。問題無い」
「……は?」
テナより身分が低いにも関わらず、テナにあんな態度をとっていたの?身分社会のこの国で??
「虎の威を借りた狐だ。公爵家のキールの後ろ盾を得た気になっていたのだろう。今回のパーティも、領地との距離を考慮し、伯爵以上の貴族にしか招待状を出ていないが、彼等はキールの力で、パーティに参加したのだろう」
あいつ等……。本当に愚かなのですね。
とゆうか、身分を伏せていた私と同じ子爵じゃないですか。同じ爵位の私だけでは飽き足らず、上の爵位のテナにまで、舐めた態度を取るなんて……。
「キールに気に入られれば、公爵家の後ろ盾を得る事になる。だから、キールに気に入られようと、媚びを売る奴等が山程いるんだ。虎の威と言えば、マイカーン男爵令嬢ーーメアリー令嬢もそうだろう」
そう言えば、彼女は本当は男爵令嬢でしたね。なのに、学園でキールのお気に入りになってからは、まるで自分が公爵夫人になったかのように、偉そうにふんぞり返っていましたわ。
「カナリアには、度々、不快な思いをさしてしまい、本当にすまない」
「だ、大丈夫ですわ。結果的には、テナに手を出せば、この国の王室が動くと周知出来ましたし、とても助かりました」
あまりにも鬱陶しい真似を繰り返すなら、私の国から抗議しようかしら。と考えていたところです。こっちの方が、大分、大事になりますから、しなくて済むなら良かったですわ。
それに、またケイに助けて頂いて……実は結構ドキドキしました!なんて、口が裂けても言えません!
「カナリアちゃん……本当に、ありがとう…!」
「お友達を助けるのは当然ですわ」
友達の言葉を出したら、テナの目が驚いたように丸くなったけど、すぐに、笑顔を向けてくれました。
この国に来て、初めてのお友達ですわ!嬉しい!今度、初めて友達が出来ましたって、お兄様の手紙に書きましょう。
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