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12話 その手を離しなさい

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「私は、この国の王族と同様の立場ーーいえ、そちらから私の国に同盟を願われているのだから、私の方が上の身分とも言えますよね?そんな私の命令が聞けませんか?」

「それっっはー!」

「たかが公爵子息の分際で、私に歯向かうのですか?立場をわきまえて下さる?」
 
 嫌味たっぷり乗せてお返しする。
 私だって、普段はこんな事言いませんわよ?でも、あまりにも貴方の頭が悪いので、仕方ありませんよね。

 これだけ言ってもまだテナから手を離そうとしない。往生際が悪いですわね。
 最後忠告のつもりで、もう一度だけ、口にする。

「その手を離しなさい」
「くっ…そっ!」

 バッと、払い除けるように、キールはテナから手を離した。離し方としては0点ですが、もう相手にするのも面倒です。
 私はキール達を無視して、テナに近寄ると、先程まで掴まれていた腕に触れた。

「大丈夫ですか?」

「っぅ!はい、大丈夫です…!ありがとうございます…」

 赤く染まっている腕。
 泣き出してしまうのも無理ありませんわ。男3人に囲まれて、とても怖かったでしょう。
 私はテナを気遣うように、背中を摩った。

「カ、カナリア様!あの、私はスダネナと言います!その美しい姿に、一目見た時から目を惹かれていてーー!よろしければ、今度一緒にお食事でもーー!」

「お前!狡いぞ!僕はジャージーです!こいつなんかより、僕と一緒に!」

 ーーー頭イカれてるんですか?さっき私の悪口を山程言っといて?令嬢を虐めといて?こんな状況で、よく私に食事のお誘いが出来ますね?

 さっきまでの態度とは打って変わって、全開で媚びを売ってくる2人に、怒りよりもまず、悪寒が走る。

「残念ですが、私は、今まで私を無視したり、非難して来た人達と仲良くなれる程、寛大じゃないの。貴方達の事、覚えてるわ。私がキールに相応しく無いと、何度も野次って来た方よね?」

 それはそれはもう、執拗いくらいに、ねちっこく言ってきた。ごめんなさいね?私、執念深いので、言われた事は覚えているんですよ。

「それは、キール様に命じられたからで、私達の意思では無かったんです!」

「お前等っ!!」

 あら。仲間割れですか?いえ、違いましたね。初めから仲間でも何でもありませんものね。ただ、己の利益の為だけに結ばれた、打算的な関係。だからすぐに裏切ってみせる。切ないものですね。

「どうでも結構です。もっとハッキリ申し上げるなら、貴方達に1ミクロンも興味がありません」

「そんなっ!お願いです!1度だけでも!」

 ……執拗いですわね。手紙で何度断っても懲りないだけありますわ。私は、貴方達なんかよりも、早く、テナのケアをして上げたいんです!本当に邪魔ですわ!!

「!ちょっと執拗いですわーー!!」




「ーーー何をしている?」

 2人から激しく詰め寄られたところで、急に視界が遮られ、真っ白な服を着た背中が、大きく目に映った。

「ケイ…!」

 ザッと、颯爽と現れ、カナリアを庇うように前に立ったのは、ケイだった。

 ケイは、見渡した状況で、何となく状況を察したのか、キッと、キール含む3人を睨み付けた。


「キール。騒ぎを起こすなと忠告したはずだが?」

「!これは!俺は関係ありません!その根暗女が!勝手に横から入って来て、場を乱したんです!」

 よくもまぁ……。ケイの前で、私の事を根暗女とか言えましたね。再三、王室から注意されているのに、私への態度を改めないなんて……わざと罰を受けたい、新手のドMですか?

「キール!どなたの事を根暗女と言っているのか、分かっているのか?!」

「え?あ!っと…」

 案の定、キツめに怒鳴られる。
 こいつ……無意識に言っていましたね。そうですよ。そもそも、私に対する口の利き方がなっていませんわ。
 口調を崩す許可も与えていないのに、偉そうにお前。や、五月蝿い。や……今まで散々見下して来た相手をいきなり敬うのは、そんなに屈辱的かしら?敬語が全く使えない訳ではないものね。この国の王族であるケイには、少し拙い感じはしますが、きちんと敬語は使っていますもの。

「君達も、彼女に何をしていた?」

 ケイは、この国の王子の乱入に、顔色を真っ青にして、空気のように息を殺していた2人にも、睨み付けながら声をかけた。

「いーーーえ!そのっ!!僕達はただ、キール様がテナを責めていたのを、見ていただけでーー!!」

「キールと一緒になってテナを責めまくっていましたわ」

 何を逃げようとしていますの?絶対に逃がしませんわよ。

「か弱い令嬢相手に、3人で寄って集って言い掛かりを付けていたのか?貴族の嗜みとは思えないなーー」

「も!申し訳ありません!」

 冷たい声色で告げるケイに、スダネナとジャージーの2人は、直ぐに地面に頭を付け、平身低頭謝罪した。


 王室の力が弱い……と思っていたのだけど、この2人を見る限り、王子であるケイにとても怯えているように見えるわ。

 その後、ケイが執事を呼んで、3人を丁重にパーティ会場から追い出した。
 事の顛末を知った3人の親達は、急いでこちらに駆け寄り、謝罪した。特に、スダネナとジャージーの親は、全身から汗が吹き出す勢いで、焦りが見えた。




「テナ、大丈夫かしら?落ち着きまして?」

 混乱の場をケイに任せ、私はパーティ会場を抜け出し、私の部屋にテナを連れて来た。予想以上に騒ぎになってしまいましたし、あのまま、あそこにいたら、テナが針のむしろですものね。落ち着くものも落ち着かないでしょう。

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