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10話 立食パーティ
しおりを挟む流石、王室の中庭なだけあって、綺麗な花や、整えられた木々。中央には、金を用いた噴水。オブジェには、花で出来たアーチや、天使の銅像の数々。と、目を見張るものばかり。
お城にお世話になってから、何度も散歩に訪れてはいるけれど、今日の為に綺麗に整えられ、飾り付けもされているからか、普段よりも豪華で綺麗に見える。
用意された沢山のテーブルの上には、様々な料理が並んでいて、その隣には、給仕係や、シェフの姿もある。どうやら、今日は立食パーティのようですわね。
「こうゆうの好きでしょう?」
「え?ええ……あまり格式ばったものは得意では無いから……」
よくご存知ですね。
私、テーブルに長時間座って、身のない会話をしながら、少ない食事をチマチマ食べ進めるのが苦手なんです。まぁ、苦手でも、公務ならちゃんとしますわよ?でも、苦手な物は苦手です。
私は、自由に、ガッツリ食べたい人なんです。
「だと思ったよ。シェフの話では、カナリアは結構食べるみたいだし、部屋でマリアと一緒に食事を取っていると聞いたからな」
「……わ、私達の国は、王族だからと言って、毎日テーブルマナーで食事をしません。普段は、国民の皆様と同じように、会話を楽しみながら、時には地べたに座って、皆で輪になって、食事をします」
そこに、王族や貴族、メイド、執事の境目なんて無くて、誰でも一緒に、食事をする。
私達の国が風変わりなのは、重々承知しています。だから、国外で食事に誘われた時などは、礼儀を尽くして、そちら側に合わせて対応しています。
でも、普段の生活は好きにしても良いでしょう?
「素敵だと思うよ」
「ーー本当ですか?」
そんな事を言われたの、国外では初めてですわ。皆さん、変だ。と口にこそ出しませんが、しかめっ面をされますもの。
「ああ。良ければ、今度その食事会に、俺も参加させてくれないだろうか?」
「ーー本気ですか?」
予想外過ぎますわ。言っておきますが、私達の食事は、部屋で、丼物や定食、パスタみたいな一般食を、お喋りしながら食べるんですよ?
食事の為だけのダイニングルームに行く訳でも無く、コース料理のような、前菜やら副食やらメインが出てくる訳でも無く、同じような身分の方と食事するでも無く、私の専属メイドである、マリアとも一緒なんですよ???理解されてます?この国の人達からすれば、有り得ない事なのですよ?
「ああ。是非、声をかけて貰えると嬉しい」
「……」
打算とかも無さそうに見えるけど……まぁ、ただご飯を食べるだけですし、そもそも、食事は提供して貰っている立場ですしね。断る理由はありません。
「たまにでしたら……」
「そうか。ありがとう」
ただ、風変わりな食事会で、一緒に食事をするのを許可しただけなのに、本当に嬉しそうにされるから、何だか調子が狂ってしまいますわね。
本当に……変な人。
パーティが始まる前に、国王よりお話があるので、王子であるケイもその横に控える為、一旦、私の傍を離れた。
国王、王妃、王子。その近くには、本来、隣国の姫君である私の姿もあるハズなのに、私はいない。目立ちたくない私の意向を汲んでくれて、前に立つのは免除して貰えた。有難いお話ですわ。
王様の挨拶が終わると、貴族の皆様方は、食事では無く、まずは目当ての方々の元へと、挨拶回りに行かれる……一直線にご飯を取りに行く私達の国とは全く違いますわ。
(ケイはーーまだ捕まっていますね)
王子であるケイを目当てに挨拶に来る人は多い。
特に、娘を持つ親の貴族は、何としても娘を売り込もうと必死。
私はと言うと、なんと、今の所一切、誰からもお声が掛かっていません。お声が無いのは、一般のドレスに身を包んで、目立たないように息を殺している成果でしょう!
卒業式での私のドレスやアクセサリーのインパクトは大変強かったでしょうからね。髪型も変えましたし、化粧も薄くして、印象も変えました。
私の顔をよく知らない貴族の皆々様は、お付の者も、エスコート役もおらず、1人で黙々と料理を食べているような女が、まさかトリワの姫君であるとは思わないでしょう。
ケイは私を1人にするのを心配していましたが、彼が挨拶で忙しくなるのは理解していましたし、彼が戻って来るまでは、こうして一般の貴族を装う事にしましょう。
彼にエスコートされれば、どれだけ目立たない装いをしていても、一瞬でバレてしまうでしょうけど。
「ーーおい、トリワ国の姫君はいたか?」
「いや。まだ見てない。ケイ王子にエスコートされて、会場には来たとゆう話は聞いたが、誰もまだ姿を見てないらしい」
「くそ…!あの根暗女と、少しでもお近付きになれと親父から言われてるのに!」
「目立ちたくないとか我儘言ってるらしいから、ちょっと顔だけ出して、直ぐに帰ったのかもな」
……すぐ隣に本人がいますのに、ペラペラと失礼なお話されてますね。目立ちたくないのは、貴方達みたいな馬鹿な貴族がいるのも要因ですよ。大体、王族の方々が許可して頂いたのですから、貴方方に文句を言われる筋合いはございません。
細長い男と、横に太い男の2人組は、私に気付かないまま、無礼な物言いを続けていて、よくどこに誰がいるかも分からない立食パーティで、まぁまぁに大きな声で、大切な国の客人の悪口を言えるものだな。と、呆れてしまう。
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