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9話 パーティ当日
しおりを挟む王族主催のパーティには、公爵子息であるキールも、勿論、出席する。
「平気ですわ。相手にしません」
相手にするだけ時間の無駄です。身に係る火の粉は、全力で払い除けるだけです。
「……カナリア様は、とても強い女性なんですね」
「強い……ですか?」
「ええ」
強い……。よく意味は分かりませんが、悪い意味では無さそう。
「ありがとうございます、ケイ王子様」
「どうぞ俺の事は、ケイとお呼び下さい。言葉遣いも、かしこまらなくて大丈夫ですよ」
他国の王子様からのお言葉ですし、ここでお断りするのも失礼に当たりますよね。
「分かりました。では、私の事もカナリアとお呼び下さい。言葉遣いも、楽にして下さって結構です。私は、癖で変な話し方をしてしまうのですが、お気になさらず」
プライベートでは、敬語やタメ口とか、織り交ぜたような話し方をしてしまうのよね。
「そうか。分かった。ありがとう、カナリア」
眩しい笑顔ですわ…。金髪碧眼の、どこからどう見ても絵になる王子様の、屈託の無い笑み…。顔面偏差値も高くて、身分も高くて、性格も良い。貴族令嬢の皆様が夢中になるのも分かりますわ。
「あ、ケイ。1つお伺いしたいのですが、そのパーティに、テナーーーフォラン伯爵令嬢は参加されますか?」
「フォラン伯爵令嬢?伯爵以上の貴族には招待状を出しているから、多分出席すると思うが、彼女がどうかしたか?」
「いえ。彼女には、在学中にお世話になったので、ご挨拶がしたいなと思いまして」
「お世話……そうか。フォラン伯爵家は、治めている地域でも評判の良い領主だと聞いている。現当主とは何度か話をした事があるが、親しみ易い人柄をされている」
成程。テナの優しさは、両親の教育の賜物ですわね。声をかけて下さった時は、まだトリワの皇女だと明かせず、心配をかけてしまったし、きちんと謝罪と、お礼を伝えたかったのですよね。
正直、パーティなんて面倒ですけど、テナとまた会えるのなら、少し楽しみになってきました。
ケイが部屋を出て、入れ替わりに、私の万能メイドであるマリアが、大きな荷物を手に、部屋に戻って来た。
「カナリア様、頼まれていた物を買ってきました」
「ありがとう」
荷物を置き、こちらに来ると、マリアはテーブルに山積みになっている手紙の束を見て、露骨に怪訝な表情を浮かべた。
「カナリア様、もう捨てましょう」
「駄目よ。一応目だけは通さないと。本当に必要な内容だったら困るでしょう?」
「ここの貴族は馬鹿ばっかりですね」
マリア。私の前だけなら良いですけど、絶対に外では言ってはいけませんよ?まぁ、マリアなら一々言わなくても分かっていると思いますが。
「王室がマトモなのが救いですが、貴族の力が変に強くて、王室が制御し切れていないのが困り物です」
「…そうですわね」
王室が最高権力者である事に変わりは無いようだけど……どこか、王室の力が弱いと言うか……公爵家ーー特に、ルドルフ家の力が強いように見えます。
だから、何度王室から注意を受けているにも関わらず、馬鹿な事を仕出かしているのでしょうね。
「まともな貴族も中にはいるわよ」
筆頭で上げるなら、テナの家だが、送られて来た手紙の中には、学園での無礼を謝罪する物もあった。
キールが怖くて、言われたままにしてしまった。家を引き合いに出され、逆らえなかった。逆らえば、家族に迷惑がかかると思った。だから、見て見ぬふりをするしか出来なかった。本当に申し訳ありませんでした。と。
「今はもう、断っても断っても来る、権力にしがみつく奴等の手紙しか来てないじゃないですか」
そう。謝罪の手紙が来ていたのは、最初の頃に届いた、ほんの数枚程度。謝罪の手紙には、お気になさらいで下さい。と、謝罪を受け入れた返信を送り、終了。今となっては、本当にくっっっだらない手紙しか来ない!
「言わないで頂戴。私も辛いのよ」
本音は焼き捨てたいわ。私の身分を考えても、本当は返信する必要も、読む必要も無いでしょうし……でも、頑張っているの。最低限のマナーとして。
私に手紙を捨てさせるのを諦めたのか、マリアは暖かい珈琲を入れてくれた。主人の気持ちを汲んで応援してくれるなんて、私は良いメイドを持ったわ。
私は珈琲を飲みながら、嫌々、手紙の束に手を伸ばし、封を開けた。
*****
パーティ当日。
部屋まで迎えに来てくれたケイは、私の姿を見るなり、驚いた表情を浮かべた。
「カナリア、その格好はーー?」
「素敵でしょう?マリアに買って来て貰ったの」
今日の私は、卒業式に着ていた、お兄様に贈って頂いた華美なドレスとは違い、普通に街で売っている、標準的なパーティドレスを身に纏っていた。
アクセサリーも、物珍しい宝石が付いた物は一切身に付けず、標準的な物ばかり。
あのドレスは、お兄様が卒業式にと送って下さった物ですし、キール達に見せ付ける為でもあった。でも、今回はそんな事をする必要は無いし、寧ろ、あんな豪華なドレスや宝石を身に付けていたら、目立ちまくってしまう。
出来るだけ目立ちたく無いので、今日は標準仕様。
でも、この装備でも、失礼には値しないはずですよ。標準的より、少し上ーーには、揃えましたし。
「ああ。とても綺麗だ」
最初は驚かれていたけど、直ぐにケイは、いつも通りの笑顔を浮かべ、私の問い掛けに答えてくれた。
素敵?と聞いたのはこちらですけど、そんなに真っ直ぐに返されると、なんだか照れてしまいますわね。
ケイは私の手を取ると、そのまま、今日のパーティ会場となっている城の中庭まで、エスコートをしてくれた。
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