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7話 視察継続

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「……はぁ。それにしても……やっと、トリワに帰れると思いましたのに……」

 自国で何が起こったのかは知らないが、兄が迎えに来れないとなると、私はまだ、この国に滞在しなくてはならない。
 本当は、別の誰かに迎えを頼みたいところですけど……お兄様は、私がこの国に滞在する事を望んでおられるみたいですし……。
 深いため息しかでない。
 今からの滞在中も、私は目立つ事は変わらずしたくないので、出来るだけ存在を伏せて欲しいとお願いした。

 ケイ王子から渡されたお兄様の手紙を、手に取る。
 分厚い、数十枚の便箋にびっしり書かれたお兄様の手紙。
 最初は、迎えに行けない事への謝罪から始まり、言い訳、謝罪、私への愛の言葉、言い訳ーーーそして、ノーナッツで、休暇気分でゆっくりしておいで!との最後のお言葉。

 いやいや、ゆっくり出来ると思います?同盟国になるかどうかの見極めをお願いされている立場で?本っ当にお兄様は……!変な所で私に丸投げなさるのですから!

 婚約云々は、初めから断るつもりだった。
 だから、婚約しなくても、同盟を結ぶ結ばないとは関係無い。そもそもが、婚約を持ち出したのはルドルフ公爵の自分本位の独断。
 その思惑が物の見事に外れ、逆に、公爵家の名誉を貶める結果に繋がったわけですけど。

 同盟を結ぶか結ばないか。それは、貴族同士の内乱で判断する。と、お兄様はおっしゃり、私に、視察を命令になった。

 学園生活を送る中、貴族のしがらみはーーーハッキリ言って酷かった。
 身分を隠して、子爵という立場で入学したものの、身分の高い貴族の方々は、揃って傲慢な方ばかり。その中で特に酷かったのが、公爵子息のキールだという事にも、頭を抱えましたわ。
 公爵子息の寵愛を得たメアリーも、まるで自分の身分を勘違いなさったように、横柄な態度をとっておられましたね。同じ男爵令嬢の方を虐めになられたり……。
 それを咎めたら、完全に私をターゲットにされたようですけど。


 へーナッツ国も、我が国トリワに負けず劣らず、大きな国ではあるけど、最近は魔物の力も強まり、国を守り切れていないと聞く。
 だからこそ、軍事力の強い我が国との同盟を求めているらしいですけど、軍事力どうこうよりも、あんな方々が貴族で、国の内情は大丈夫なのかしら?
 ちゃんと、統治されている地域を治められているのかしら?


 ここまで、へーナッツ国を視察した結果は、同盟は結ぶべきでは無い。になりますわ。
 ただでさえ、婚姻に持ち込み、トリワ国の後ろ盾を得て、好き勝手しようとする者もいるのですから、当然の結果ですわ。視察する前から、分かりきっていた事

「ただ、お兄様が、それでも私に視察に行かせたのは、きっと、王族の方々に救いが見えたからでしょうね」

 先程少しお会いした程度ですが、王族の方々は揃って、まともだという印象を受けました。

 それに、彼は、ケイ王子は、純粋に私を助ける為に、自らダンスに誘ってくれた。結果、婚約破棄を告げられた可哀想な女は、一躍、王子様にダンスを誘われたヒロインになった。

「……最後まで、私を気遣って下さいましたね……本当に……優しい、人……」

 ダンスに誘ってくれた彼の手は、とても暖かった。
 本当に、絵本から現れて、私を助けに来てくれた王子様のようだった。

「って、私、何考えてるのかしら…!」

 私は、今、同盟するか否かを見極める為に、ここに来ているのに!

 普段、自ら困り事を率先して解決して行くタイプなので、助けられるのに慣れていないから、少し、少し、戸惑っただけです!
 それに、実際はそんな王子様の前で、私自身がキールとメアリーさんをボコボコにしたようなもの。か弱いヒロインって柄ではありませんし……って、そうでは無くて!同盟の話です!

「そう言えば、もう1人、まともそうな貴族な方がいらっしゃいましたね……確か、あの方、テナと言いましたかしら」

 たった1人、キール公爵子息に目を付けられるかもしれないのに、私を気遣い、優しく声を掛けてくれた女性がいた。

「伯爵令嬢でしたわよね」

 うん。と、記憶を呼び起こし、確認する。

 どうせ、もう暫くは、トリワへは帰れない。でしたら、もう少し、この国を視察してから、お兄様に報告する事にしましょう。




 *****

 あれから卒業式は、つつがなく進行し、無事に終わりました。
 私が戻った時には、キールもメアリーさんの姿も見えなくなっていましたけれど、どうやら、どちらも親に呼び出され、最後まで卒業式に出席する事が出来なかったようです。
 1番目立つ特等席に座る予定だったキールの席に、私が代わりに座る事になったのは、露骨な教師達のおべっかで大変迷惑でしたが、まぁ、良いでしょう。そのくらい、我慢しますわ。

「失礼します。カナリア様、入ってもよろしいですか?」

「ええ、どうぞ」

 私は今、王宮の計らいで、王都にある城に部屋を借り、過ごしている。

「何か不便はありませんか?困った事があれば、すぐに言って下さいね」

 ノックをして、部屋に入って来たのは、この城の主である、王の息子、ケイ王子様。
 兄からの、丁重に妹をもてなして欲しいとの要望に沿うように、頻繁に顔を出しては、こうして、私を気にかけて下さる。
 本当に良い人だわ。
 私がこの国に留まる事になったと知った貴族一同が、次々と、我が家でくつろいで下さい!と詰め寄って来た時も、『カナリア様は城で預かる事になっています』と、助け舟を出して下さりました。
 要望通り、普段はこうして、のんびりとお城で過ごさせて貰っているし、思っていたより快適だわーーー思っていたより。ね。

「カナリア様宛のお手紙と、プレゼントを持って来ました」

「……そうですか」

 笑顔を貼り付けたまま、受け取る。
 内心は、もう、一々、手紙を送ってくるの止めて下さる?何回断っていると思います?私は、のんびり過ごしたいと言っているでしょう!と、叫んでいます。

 山盛りに届いた手紙に、贈り物。
 これらは全て、この国の貴族の皆様から。

 本当は手紙なんて、読まずに全て焼却炉で燃やしたい所ですが、流石に、他国の貴族様々からのお手紙を見もせずに燃やす事は出来ず……返信も、最初は懇切丁寧に、お茶会のお誘いやら、デートのお誘いやらのお断りを返していたのですが、何度送っても送っても止まないので、もう止めました。
 この国の貴族の皆様には、言葉は通じないようなので、無視します。手紙は読みますよ、でも、もう返事はしません。本当に必要だと思ったら、返事を書きますね。そんな事は起きないでしょうけど。


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