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5話 王子様とのダンス
しおりを挟む「マリア」
「はい、こちらです」
私に呼ばれたマリアは、名前を呼んだだけなのに、私が必要としている物をさっと差し出してくれた。流石万能メイド!
「ケイ王子。こちらをお渡ししておきます」
「これは?」
「私が虐めを行っていない証拠です。メアリーさんご本人が、自分で机に落書きしたり、ゴミを入れたりするのを、魔法で記録しております」
魔道具の一種で、映像を記録する物。
自身の身の潔白の為に、マリアに頼んで撮って貰っていたんですよね。
「なっ!そんな、物…まで……!」
顔面蒼白ですわね、メアリーさん。まぁ、ここで虐めの事実がハッキリしなければ、まだ自分は被害者だとアピール出来たでしょうけど、虐めすら自作自演だったなんて知られれば、貴女の評判はガタ落ちでしょうね。
何せ、同盟を求めている国の姫君を、無実の罪で陥れようと策略した男爵令嬢。そして、それを鵜呑みにした婚約者。
公爵家、男爵家、ともに、最低最悪の汚点でしょうね。
「では、改めて。カナリア様、俺と踊って頂けますか?」
「はい、喜んで」
意気消沈の2人を置いて、私はそのまま、ケイ王子と手を取り合って、ダンスフロアに向かう。
今まで鳴り止んでいた音楽も、私達がダンスフロアに出ると、動き始めた。
「大変失礼致しました、カナリア様」
「お気になさらないで下さい。こうなる事は予測していましたし、前もって、貴方がた王族からも、教えられていたと聞いています」
ワルツを踊りながら、2人だけが聞こえる小さな声で、会話する。
王子様なだけあって、流石、ダンスがお上手。本当は、私はダンス苦手なんですが、上手くリードしてくれているおかげで、ちゃんと踊れてる。
お兄様に勝手にキールと婚約を結ばれ、勝手に学園に入学する事になった日。
お兄様から、泣きながら説明があった。
「同盟を結ぶ為にと提示された婚姻は、ルドルフ公爵当主の発案で、その婚約者に、自分の息子をゴリ押ししたと」
元より野心家なキールの父親、ルドルフ公爵は、公爵という地位だけでは満足せず、もっと強固な地位を欲しがり、同盟を結ぼうとしているトリワの後ろ盾を欲しがった。
「はい。同盟を結ぼうとお願いしているのはこちら側だというのに、第1皇女との婚姻を同盟の条件にしろ!なんて言い出すものですから、思わず、父様と2人で頭を抱えました」
だが、公爵家の言い分を丸々無視する訳にも行かず、恥を忍んで、私のお兄様に、包み隠さず相談した。
その包み隠さず相談に来た事を、お兄様はプラスに捉えた。隠し事をしない。正直に言う。お兄様は真っ直ぐな人間が好きだから、心打たれたのでしょうね。
そこで、こちらからも、先程の3つ条件を提示した。
身分を隠した姫君ーー私が、どういった見極めをするのか。その結果次第だと。
「100%の確率で、ぞんざいな扱いを受ける事になると思うので、それを理由に、婚約の解消を申し出て下さい。と、貴方達、へーナッツ国の王族より提示があったと聞きました」
実際は、100%どころか、それを越えて、向こうから婚約破棄を申し出るという暴挙に出ましたけど…。
「予想を遥かに越え、カナリア様に失礼な行いをしてしまい、本当に……情けない限りです。貴女のお兄様ーー国王様にも、いつか正式に謝罪に伺わせて下さい」
出来の悪い貴族を持つと大変だな。と、何だか少し同情してしまいますわ。
「そう言えば、お兄様は?」
今日は家族として、卒業式を見に来てくれると約束したのに、姿が見えない。
「………それがですね、ちょっと忙しくなったから、迎えに行くのが遅くなる。と、伝言を預かっておりまして……」
「……」
信じられない。
あれだけ毎日毎日、手紙には、私に会える日を凄い心待ちにしてるとか、楽しみ過ぎて夜も寝れないとか、散々言っていたのに!
「お兄様が来ていないって事はーーー私、まだトリワには帰れないのですか?!」
「そうなりますね…」
ここからトリワ国までは、馬車移動で1ヶ月はかかる!それに、まだへーナッツ国とは正式に同盟は結んで無いから、国境付近の移動は、お兄様がいないと手間がかかるし、魔物だって出るし…!
私とマリアの2人で帰るのは、無謀過ぎます…!
「国王様からは、丁重に妹をもてなして欲しいとお願いされています。後で、その旨を書いた手紙もお渡ししますね」
……毎日毎日、手紙を送ってきているのに、肝心な事は、私の手紙には書かなかったんですね?!何でワンクッション入れるのですか?!せめて、直接伝えるのが礼儀ではありませんか?!怒りますけど!
ダンスが終わり、ドレスのスカートを摘んで、ペアを組んでくれたケイ王子にお辞儀する。
「ありがとうございました、カナリア様。とても楽しい時間でした」
「私も、とても楽しくーーー踊れました。お兄様の事が無ければ、もっと楽しかったのですが……」
一体、お兄様は私をいつ迎えに来るつもりなのかしら?かれこれ1年、国に帰っていませんのに。
因みに、こちらの学園の期間は、1年だけ。
そう長い間、家の後継者を領土から離す訳にいかないみたいですね。公爵のような位の高い身分なら、王都からそう離れていない場所に領土があるでしょうが、伯爵や子爵、男爵ともなると、地方から王都に出て、学園に通っている者もいますから。
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