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4話 隣国の姫君

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「ケイ王子?!え!?い、一体何故?!何故そのような女に、ダンスのお誘いを?!」

「それはこちらの台詞だよ、キール公爵子息。カナリア様は、貴女の婚約者だと聞いていたが、何故、別の女性とダンスのペアを?」

 ギロッと、ケイ王子は、キールとメアリー、両方を睨み付けた。

「これは!この女は、可愛いメアリーを妬んで、虐めをするような女なんです!だから、俺はこいつと婚約を破棄して、かわりにメアリーと婚約をしようとーーっ!」

「話にならないね」

「!ま、待って下さい!」

 冷たく言い捨て、私をエスコートしようとするケイ王子を、今度は、メアリーが止めた。

「誤解されていますわ、ケイ王子様ぁ」

 クネクネと体を揺らし、目に涙を浮かべながら、か弱い女を演出する。

「私、本当に、学園の生活で、カナリア様に虐められてて…!私が、カナリア様より可愛いのがいけないんですけどぉ、それでカナリア様に虐められるようになって、それを、キール様が助けてくれたんです…!」

 貴女が可愛いから虐めた?何ですかその理由?もっとマシな理由は考えつかなかったんですか?

「証拠は?」
「え?」
「証拠はあるのか?」
「証拠なら、虐められたメアリー本人が証言しています!」

「私は虐めておりません」

 私は否定している訳ですし、当事者の証言は、絶対的な証拠にはなりませんからね。

「貴様!まだ図々しくも歯向かう気か!」

「酷いですぅ、カナリア様ぁ!いい加減、罪を認めて下さいぃー!」

 歯向かうに決まっているでしょう。無実なんだから。

 まぁ、でもーーー虐めが事実か事実じゃないかなんて、正直、私には関係無いのですけど。


「いい加減にしないか!このっっ馬鹿息子がっ!!」

 観覧席から、大きな怒鳴り声が、静寂となった式場に響き渡る。

「と、父さん?」

 声の主は、キールの父親で、公爵家当主。
 怒りで血管がはち切れそうなくらい、浮かんでる。

「カナリア様に向かってなんて仕打ちをーー!」
「カ、カナリア様?なんでこんな、子爵令嬢如きに、父さんが敬称をーー?」

 父親のはち切れんばかりの怒りを目の当たりにし、急にオロオロし出すキール。


「カナリア様はーーー我が国へーナッツと隣接する大国、トリワ国の姫君だ!!!」

「ひ、姫君?!トリワ国の?!あの、軍事力では他の国を寄せ付けない程の力を持つ、あの大国の、の、お姫様?!」


 あら。バレましたね。
 ーーそう。私の本来の身分は、トリワ国第1皇女。

 貴方達の国、へーナッツ国が、我が国の力を求めて、喉から手が出る程求める、同盟先のお姫様。


「あれ程口酸っぱく、カナリア様を婚約者として大切にしろと伝えておいたのにーー!!」

 無駄でしたね。入学初日から今日まで、一切、優しくされた事はありません。
 在学中は、基本、親とは連絡が取れないようになっていますから、釘を指されない間に、最初は無視程度だったのが、段々、私への態度が横柄になっていって、最後には、自分から婚約破棄しちゃいました。

「そ、そんな!それなら、最初からそう教えてくれれば、俺だってーー!」

「在学中はトリワ国の姫君だと明かさない。それが、あちらからの条件だったんだ!」


 私がトリワ国の姫君だと明かさなかった理由は、3つ。
 まず1つ目は、同盟を組むに当たって、婚姻を提示されたが、その婚約者を見定める為に、あえて身分は明かさず、どのような人柄かを見極めたい。
 2つ目。1つ目と似ているけど、あえて子爵令嬢という、身分の低い立場にいる事で、周りの貴族がどう接するのかを確認したい。
 3つ目。純粋に、トリワの国姫君だと明かすと、権力に群がる虫が沢山出てきそうなので、内密にして貰った。

 私達の国トリワでは、国の平和や繁栄を願う者同士という、強い絆で、貴族関係が結ばれている。なのに、同盟を結ぼうとする、この国へーナッツは、貴族間の差別や、蹴落としあいが激しい国と聞いた。
 それでは、私達の国にまで悪影響を及ぼしかねない。
 実際に、この国の内乱ーー貴族間同士のいざこざが、どの程度なのかを確認する為に、兄様直々の命令で、未来の当主達が集まる学園に、私が内密に送り込まれた。
 どうしても、トリワ国の代表として視察に行くと、相手は取り繕いますからね。子供達の教育方針も見れる。と、この方法をお兄様が選ばれたのですが……。
 つまりは、同盟を結ぶか否かは、私の判断によるものが大きいと言うこと。
 そのくらい、私は、この国にとっては大切なお客様で、大切にしなければならない、婚約者だったーー。


「折角、トリワ国の姫君と婚姻という、重要な役目をもぎ取って来たというのに、お前は!なんてことをしてくれたんだ!!」

 婚約者として大切にしろ。
 まぁそれくらいなら、口を割った事にはならないから、父親からの精一杯の忠告だったんでしょうね。
 それが、在学中に他に女を作って、まさかの、公衆の面々で婚約破棄を言い出す始末。
 大切どころか、やっちゃいけない事のオンパレードを仕出かしましたわよね。

「で、でも!こいつが、メアリーを虐めていたのは事実でーー!!」

 まだ言いますか。懲りないですね。

「キール様、ご忠告申し上げます」

 あえて敬称、敬語を使ってあげる。私の方が、身分が高いけどね。

「果たして、私が本当にメアリーさんを虐めた所で、何の問題が?」

「は?」

「私は、、同盟を持ち掛けられた、トリワ国の第1皇女です」

 私達の国が、貴方達の国を、見定めている立場。私の方が、遥かに、どの貴族よりも、偉いの。そんな私が、男爵令嬢1人を虐めていた事実があった所で、何の問題があるの?

「それっっはーーー」

 何も言えないでしょう?だって、私の方が、どう考えても立場が上なのですから。

「虐めていたからなんだとゆうのです?何か、私に問題がありますか?私、何か悪い事をしたでしょうか?」

 貴方達の方が慣れているでしょう?
 権力によって、事実がねじ曲げられたり、弱い者虐めされたり、見て見ぬふりをされたりするの。

「私、何か悪い事しました?ねぇ、メアリー男爵令嬢」
「ーーーっぅ」
 真っ青になって固まるメアリー。

 当然。だって、本来、1番立場の弱い貴女が好き勝手出来たのは、キールの後ろ盾があったから。でも、今は、私の方が、キールよりも強い立場にいる。

「わーーー私、い、虐めなんて……されて、いません」

 立場の弱い貴女は、例え本当に虐められていたとしても、そう言うしかないわよね。

 ーーーって、まるで私がすっごい悪い女みたいですけれど、何度も言いますが、私は本当に虐めておりません!濡れ衣ですわ!
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