ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子

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104話 最初で最後の里帰り③

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 クリプト伯爵家にこのまま居座るのは、お父様がお許しにならないでしょうし、エレノアはこのまま、一人で生きていかなきゃいけないの。
 誰かに命令されるのが嫌いで、働いたことも無くて、男に甘えることしか出来ない貴女が、この先一人で生きていけるのか、姉として、とっても心配よ。

「だからね、私、エレノアの姉として、貴女に、とっても素敵なプレゼントを用意してあげたの」

 私はそう言うと、昨日、メトに渡された写真と、紙切れ一枚を、エレノアに手渡した。
 あの時ーーー貴女が、私からカインを奪った日、失意の中にいる私に渡してきたのと同じように、笑顔で手渡す。

「これーーお見合い、写真ーー?!ターコイズ男爵ってーー!!」

 そう。貴女が私に用意した縁談。
 30歳年上、離婚歴3回の暴力男。そっくりそのまま、エレノアにお返しするわね。

「嫌よ!何で私が、こんな男の元に嫁がなきゃいけないのよ!?」
「あら、貴女があの時、私に用意した縁談じゃない。メトに頼み込んで、縁談を準備してもらったのよ」

 そのターコイズ男爵ですら、『そんなハズレ嫁なんかいらん!』っと、初めはエレノアとの結婚を拒んだのよ?
 でも、ルーフェス公爵家は、結婚生活について一切、関与しないし、エレノアを好きに扱って良いと伝えて、写真を見せたら、喜んで了承してくれました。可愛くて良かったですね。ターコイズ男爵ーー新しい旦那様に早速、気に入られたみたいですよ。
 あちらも、新しいお嫁さんが中々見つからなくて、困っていたみたいですしね。

「嫌ーー!嫌よ!あんな歳の離れた、きもい暴力男!あの人の元妻達、皆、酷い怪我を負ってるのよ!今も治らない!歩けない人だってーーー」

 知ってるよ。私も、あれからちゃんと、ターコイズ男爵の事を調べたもの。
 一人目の奥様は、片目を失った。二人目の奥様は、足が一生不自由になった。三人目の奥様はーーー行方が分からなくなった。
 そんな酷い男の元に、私を嫁がせようとしていたこと、私は忘れていない。

「大丈夫よ。この縁談は、もうお父様の許可も頂いてるの」
「ひっ!」

 長期視察中のお父様の所に行って、わざわざ許可をもらってきたの。お父様は二つ返事で了承して下さったそうよ。
 ターコイズ男爵の領土は、ここから遠く離れた地方。それに加えて、加害的な旦那様。これなら、易々とこちらに戻って来ることは出来なくなるし、私達にちょっかいをかける余裕も無くなるでしょう。

「再婚おめでとう、エレノア」

 私はそっと、エレノアの手を笑顔で握り締めた。

「ーー嫌っ!絶対に嫌!!何でよ?!何で私が、こんな目に合わなきゃいけないのーーー!!」

 私の手を勢い良く払い除けるエレノア。
 どうして自分が、こんな目に合わされるかが、本当に分からないの?

「……ねぇエレノア。エレノアは、私の大好きなシャインのことを、いっぱい、お話してくれたんだって?」

 その話を聞いた元・ファンファンクラン子爵は、シャインに危害を加えようとした。

「それーーは、私、シャイン様を、襲えだなんて、言ってなくて……!」
「ええ、そうよね。分かってるよ。でもね、余計なお喋りは、身を滅ぼすことにもなるのよ」

 貴女が否定しようが何だろうが、関係無い。貴女が余計なことを話した所為で、シャインの身が危険に晒された。それが事実。

「可哀想なエレノア……幸せになってね」

 幸せになれるものならね。
 貴女が私の不幸が好きなように、私も、貴女の不幸な姿が大好きよ。

 さぁ、どうぞそのまま、地獄に落ちて下さいねーーー。





「待ちなさい…!ルエル!」

 茫然自失で立ち尽くすエレノアを無視して、帰ろうとする私の足を、お母様が止めた。

 あら、珍しい。最近、私の前でも大人しくなったと思っていたのに、強気ですね。

「何か?」

 冷たく睨み返すと、お母様はビクッと体を揺らし、怯えた目を浮かべたが、勇気を振り絞るように、声を荒らげた。

「酷いわ!エレノアちゃんに、あんな最低な男との縁談を持ち掛けるなんてーー!撤回して頂戴!」

 私の時は、一切、何も言わなかったくせに。

「これはお父様ーークリプト伯爵もお認めになられた事です。お母様に指示される言われはございません」

「だからっ!お前が夫に話をつけなさい!ーーお願いよ!私から、エレノアちゃんを奪わないで!」

 傍若無人な昔のお母様はどこへやら。私に縋るようにまとわりつくお母様の姿は、弱々しくて、情けないですね。

「エレノアちゃんを許してくれたら、ちゃんと貴女も、私の娘として認めるわ!ね?優しくしてあげるからーー!」
「……」

 幼い頃ーーー幼い私は、何度、お母様の愛を求めただろう。何度も何度も手を伸ばした。その度に、手を払い除けられた。
 母親の愛を求めていた幼い子供は、もういないの。

「私の方が、貴女を母親だとは認めませんーーー私に、母親はいません」

 私の拒絶の言葉に、お母様は衝撃を受けたように、固まった。

「う、嘘でしょう?だって貴女、いつも、私が好きだって言ってたじゃないーー!」
「いつの話をしてるんですか?私はもう、子供じゃないんですよ」

 昔、私がお母様にされていたように、今度は私が、縋るお母様の手を払い除ける。

「便宜上、お母様とはお呼びしますが、私をお母様の娘だとは、もう思わないで下さい」
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