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85話 ファンファンクラン様の絶対絶命
しおりを挟む出会ってから今まで、穏やかな顔しか見せなかったクラウド様の、軽蔑や憎悪の混じった冷たい表情。
「黙れ!父親に向かって何て口の利き方だ!」
「おかしな事をおっしゃいますね?僕は父上にとって、不必要な子じゃないですか。育てて貰った記憶もありません。貴方を父と呼んでいるのは、形式上やむ無くです」
「このっ!生意気な!だから私は息子なんていらなかったんだ!」
「ーーっ!」
何、この酷い親ーーー。
「お前なんか産まれてこなければっっ!」
ーーー自分の実の息子に、そんなことを言うの?
隣にいるクラウド様は、言われ慣れているのか、何も気にしていないような涼しい表情を浮かべてる。
もう、父親に愛情を求めていなのね。何も、期待していないーー親の愛を諦めた、私と同じーー
「……お言葉ですがファンファンクラン様、その言い方はいかがなものかと思います。クラウド様は、貴方と血の繋がった親子なのにーー!」
「ルエル様?」
「何ですか、貴女は?こちらの問題に首を突っ込まないで頂きたい!」
我慢出来なくて、つい、口を挟んでしまったーーーだって……許せない。せっかく、産まれて来てくれた子供に、産まれてこなければ良かったーーなんて。
そんなに子供が欲しくないなら、私にくれれば良かったのに。
子供が欲しい私には子供が出来なくて、いらないと子供を拒絶する親に子供が出来るなんてーーーなんて神様は残酷なんだろう。
「ああ、貴女様は、もしかしてルーフェス公爵夫人のルエル様ですか?いやぁ、お噂はかねがね、マルクス様やエレノア様から聞き及んでおりますよ」
あの人達が私をどんな風に言ってるかなんて、聞かなくても分かるわ。
「子供が出来ないハズレ嫁ーーーいや、素晴らしい。私の嫁も、貴女のように子供が出来ない体ならよかったのに」
「ーーー」
好きでそうなったワケじゃない。子供は……何より好きだった。愛する人との子供が、欲しかったーーー貴方みたいな男に、そんな風に褒められても全く嬉しくない。
心が傷付く音がしたけど、こんな最低な男に、私の傷付いた顔を見せるのは何より嫌だったから、私はそれに気付かないフリをした。
「ーーーファンファンクラン子爵。そんな戯言を言ってる暇があるのか?」
「は?って、うわぁぁあああ!!」
メトの冷たい言葉に振り向くと、ファンファンクラン様は悲鳴を上げ、襲い来る魔物の牙を間一髪、持っていた剣の鞘で止めた。
そう。忘れてはならないのは、今ここ、マルクス伯爵邸は、魔物に囲まれている巣窟。とても危険な場所。
「お、おい!早く助けろ!クラウド!」
「馬鹿をおっしゃらないで下さい。僕が父上より弱いのをお忘れですか?命をかけてまで助ける義理はありませんし、助けるはずが無いでしょう」
「くっ!このっ!役立たずが!!」
ファンファンクラン領で1番の腕利きと言うのは確かなようで、ファンファンクラン様は襲い来る魔物1匹を剣でたたっ斬った。
でも、1匹程度倒したところで、魔物に囲まれている状況は何も変わらない。
「はぁっはぁっ……何故……何故助けて下さらないのですか?!ルーフェス様!?」
ファンファンクラン様は、棒立ちでただ苦戦する自分を見ているメトに向かって、汗を拭いながら訴えた。
「何故?こちらが聞きたいね。何故助ける必要がある?俺は招かざる客だろう?俺はいないものとして扱えば良い」
「ーーは?えーーま、まさかーーわ、私をーー見殺しにする気、ですか?!」
ファンファンクラン様はメトの姿を見て、何故ここにいるんだ?!と悪態をついた。でも、内心は、命は助かったと思ったハズだ。
メトの力があれば、自分は助かる。
ファンファンクラン様の疑問に、メトは何も答えず、ただ、笑みを強めた。
その笑みは、見る人から見れば、肯定にとれた。
「さっき、俺の妻を侮辱したな?」
「ちーー違いますよ!私は本当に、羨ましくてですね!ルーフェス様も、ルエル様にお子が出来ないから、ご結婚されたんですよね?!」
「それとこれとは話が別だ。俺は妻を愛しているからね」
「!」
これまでも演技で仲睦まじい夫婦を演じてきたけどーーメトを好きって自覚したあとだと破壊力が違う……!ど、どうしよう……心臓がドクドク言ってる!
「ヒュッ!ク、クラウド!お前、ルーフェス様と一緒に行動していると言う事は、仲が良いのだろう?!ならば、父親を助けるよう、お前もルーフェス様に頼みなさい!」
「……領民の命は粗末にしたクセに、自分の命は惜しむのですね」
「何の話だ?いいから、早くーー」
「父上、貴方の身勝手で、どれくらいの民が犠牲になったか知っていますか?」
ファンファンクラン領に魔物が例年より多く現れ、被害が増えていった頃。
父上は領主の地位を良いことに、ファンファンクラン子爵家に仕える者達を、自らの欲望のためだけに、無理矢理魔物との戦いに放り出したーー!
その中には、私の成長を見守ってくれていた、私の顔見知りも沢山いた。
ルーフェス公爵家への救助要請が遅れた所為で、何の罪も無い沢山の幼い子供達が死んだ。
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