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83話 マルクス伯爵家の会話
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数日前ーーースクル街、マルクス伯爵邸ーーー
マルクス伯爵邸ーーー応接室ーーー。
いかにも高価に見える真っ赤な絨毯に、高級なソファに机、価値も分かっていないだろうに壁に飾られた、見栄だけのために飾られた数々の絵。
「いやぁ!マルクス様!貴方は素晴らしい人です!こんなにも話が合う方と出会ったのは初めてですよ!」
ファンファンクラン子爵は、手を揉みながらマルクス伯爵に分かりやすくゴマをすった。
「あっはっはっ!何!ワシもルーフェス様がデカい顔をしてるのが前から気に食わなかったんだ!たかが若造が偉そーに!」
ワイングラス片手に、頬を赤らめ、上機嫌で話すマルクス伯爵。今日の朝方まで飲んでいたハズだが、今も、机には大量の酒瓶が空になって置かれていた。
「仰る通りですマルクス様!所詮ルーフェス様は、親から継いだ公爵家の地位に胡座をかいているだけの若造に過ぎません!皇帝陛下に信頼されているというのも、嘘っぱちに決まっていますよ!」
注意 ルーフェス公爵家は、皇帝陛下からも信頼され、重要な国境防壁や帝都の守護を任されている家門である。
自分自身がルーフェス公爵によって、爵位を息子に譲るよう仕向けられたにも関わらず、ファンファンクラン子爵は、メトを軽んじる発言を続けた。
「そうだ!はは!ファンファンクラン子爵は、たかが子爵位だが中々に話が分かるな。カイン、お前も、この方のような話の分かる大人になりなさい。くれぐれも、無愛想で冷酷なルーフェス様のような大人にはなるな」
「勿論です父様」
「おお!マルクス伯爵令息のカイン様ですね!カイン様もお父上と似て、聡明でいらっしゃる!うちの息子とは大違いです!」
「そんな……僕なんて、偉大な父様に比べればまだまだです」
「謙遜を!いやぁ!こんな自慢の息子で!マルクス伯爵家は将来安泰ですね!」
ファンファンクラン子爵がおべっかを使えば使うほど、マルクス伯爵の気分は向上し、笑顔で、高級な酒を次から次へと持ってこさせ、ファンファンクラン子爵を饗した。
カインも、褒められるのに悪い気はしていない。特に最近は、誰からも冷たく扱われているからこそ、気分が良くなり、笑みを深めた。
「ああ、そうだ!ファンファンクラン子爵に息子の妻も紹介しよう!エレノア!こちらに来なさい」
「はい。お義父様」
マルクス伯爵に促され、エレノアは可憐な余所行きの笑顔を作り、丁寧に頭を下げた。
「初めまして、エレノア=マルクスと言います。よろしくお願い致しますね」
「おお…!これまた美しい!こんなに美しく可憐な方、他で見た事がありません!!」
「やだ……褒め過ぎですわ、ファンファンクラン様」
エレノアは、男性に褒められるのが慣れていないような、初心な反応で、照れたように頬を赤く染めて見せた。
「いやぁー!こんな可憐な方がカイン様の妻だなんて!カイン様は良いお嫁さんを捕まえましたね!」
エレノアのことも、ファンファンクラン子爵は褒めちぎったが、エレノアは、マルクス伯爵やカインのように鵜呑みにしなかった。
(ファンファンクラン子爵……子爵なんて、伯爵位の私の実家より、身分が低いじゃない)
正確には、地方貴族のファンファンクラン子爵程度に褒められた所で、可愛いと言われ慣れているエレノアには、喜びも何もなかった。
(おじさんだし、こんなんじゃ、息子のクラウド様の方が遥かにマシだわ)
朝起きた時にはもう姿を見なかったけど、昨日、一目見たクラウド様は、眼鏡を掛けた知的な男性で、色気があった。子爵位だから本命にはなり得ないけど、火遊び相手なら丁度良い。最近夜遊びしてないから色々溜まってるし、せっかくだから相手をして上げようと思ったのに……。
部屋に行ったら、中に入る前に門前払いされた。未来の伯爵夫人に手を出すのに尻込みしたんでしょうけど、とんだ意気地無しだわ。
こんなに可愛い私と良いこと出来るチャンスだったのに。
「……」
エレノアはティーカップに口を付けながら、ジッとファンファンクラン子爵を見つめた。
確か、お義父様はこの方に魔物退治を依頼したとか言っていましたっけ……もう!そんなものにお金を使うなら、私達の結婚式のためにお金を使って欲しいのに!私は、ルエルお姉様より豪華で凄い結婚式を挙げるんだから!
マルクス領に魔物が侵出しているが、エレノア含むマルクス伯爵家は、致命的なほど、危機感を持っておらず、短絡的だった。魔物の脅威が、何故か、自分達には降り掛かってこないと思い込んでいる。
(どうせ魔物が出たって言っても、犠牲になるのは領民でしょ?そんなの、放っておけばいいのに)
領民達のことは一切、考えもしない。
「ファンファンクラン子爵は、ルーフェス様よりも戦いの才能があると聞いたぞ!いやぁ、素晴らしい!ここで成果を上げれば、皇帝陛下もルーフェス様では無く、ファンファンクラン子爵を頼るようになるだろう!」
「!」
「恐れ多いですが、きっと、そうなると思います。マルクス様」
酔いも手伝い、大きな妄言を吐く2人。
彼等だけの思い込みと勘違いが産んだ妄言。だが、その妄言を、エレノアは信じた。
「……」
ルーフェス様より強い?皇帝陛下からの信頼を勝ち得る?
エレノアには魅力的な言葉が、ズラリと並んだ。
子爵位でおっさんでパッとしないけど……まぁ、こいつでも良いか……。
エレノアは含みのある笑顔を浮かべながら、残っていた紅茶を飲み干した。
これから起こる惨劇に気が付かないまま、マルクス伯爵邸では陽気で能天気な会話が続いたーーー。
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