20 / 54
連載
79話 ファンファンクラン子爵
しおりを挟むルーフェス公爵家は帝国で最も優れた武力を持ち、帝国内の多くの場所は、ルーフェス公爵家によって守られているーーーだから、私が無理矢理嫁がされるハズだったターコイズ男爵も、私との結婚をすぐに諦めた。地方の方が魔物の被害が多く、ルーフェス公爵家の力が必要不可欠だからだ。
「アルファイン侯爵家ーーラットの家に救助に行かせたが、そこでも無礼で横暴な態度が目立ったようで、俺から直接皇帝陛下に進言しーーー少しお灸を据えた」
お灸ーーー皇帝陛下に直接進言出来るなんて、流石ルーフェス公爵様……何をしたのか気になりますが、今は詳しく聞くのは止めておきましょう。
「元から俺を敵視していたらしいが、それで余計に恨みを買った。まぁ、それは別にどうでもいいけどーー」
どうでもいいんだ。
「ファンファンクラン子爵がこちらの介入を拒んだ所為で魔物退治が遅れ、魔物がファンファンクラン領外にまで出てきた」
「ええ?!」
「おかげで被害が拡大し、こちらは大忙しだ」
それはそれはーーー本当に無能な領主ですね。どこにでもいるんですね、無能な領主。
「なので、君に貸していたラットをこちらに返して欲しい」
「勿論です」
ラットはアルファイン侯爵令息として剣技に優れていますものね。こちらの仕事は落ち着いてきましたし、そちらの方が人命が懸かっているんですから大切です。彼もそっちの方が遺憾無く力を発揮出来るでしょうしね。
「あとーーーその影響で、クリプト領とマルクス領にも魔物が流れている」
「!」
「クリプト伯爵はすぐに救助要請を出し、上手く対応しているが、マルクス伯爵はーーー」
「聞くまでも無く分かります。まっっっったく対応していないのでしょうね」
無能な元・お義父様。領主として領民を思いやる気持ちを持ち合わせておらず、たった一代でマルクス伯爵家を没落貴族にまで落ちぶれさせた無能。その息子であるカインも同様。私がカインと結婚していた時は、私が元・お義父様の仕事のフォローをしたり、カインに代わって領民達のお願いを叶えたりして持ち直していたけどーーー。
「マルクス伯爵は息子に恥をかかせた俺に頼りたくないらしく、領民達の不安な声を無視して、救助要請を出さずにいる」
ーーーあいつ、マジでしばき倒したい。
自分のプライドと意地の為に領民達の命を軽んじるなんて、最っっ低。
「そしてここからが最も面倒なことだが、そのマルクス伯爵とファンファンクラン子爵が手を組んだ」
「……頭が痛くなりそうです」
嫌な組み合わせ。
メトの話によると、ルーフェス公爵家に頼りたくないマルクル伯爵が、メトに一泡吹かせてやろうとしているファンファンクラン子爵と意気投合し、魔物退治を依頼したらしい。
馬鹿なの?元・お義父様。そのファンファンクラン子爵の所為で、魔物が侵入してきて大変なことになってるんですけど?なのに何故、その元凶と手を組むんですか?
きっと、何も考えてないんでしょうね……。
無能な領主2人、このまま放置して、そっちで勝手にして欲しいところだけどーーー
「……メト。図々しいお願いではありますが……」
私は椅子から立ちあがると、深々とメトに向かい頭を下げた。
「マルクス伯爵がいかに無礼でも、マルクス領民に罪はありません。どうか……助けが必要になったさいは、ルーフェス公爵様のお力をお貸し下さい」
ハッキリ言って、マルクス領に良い思い出は無い。
領民達はカイン達の言い分を信じ、私を悪く言っていたし、何より、私をハズレ嫁と蔑んだ元・義実家が統治する領地ーーー。
だけど、ほんの三年だけど、その土地で過ごし、遠巻きながら、面倒を見た領民達が住まう場所。彼等はカイン達に騙されていただけーーーそして、当時の私も、それを良しとしていた。彼等に罪は無い。出来ることなら、可能な限り、救ってあげたい。
……私がカインと結婚し、彼等に手を貸さなければ、こうなる前に、マルクス伯爵は爵位を剥奪され、他の、もっとマトモな方が領主になっていたかもしれないんだからーー!
「……領民達からも随分、失礼な態度を取られていたと聞いたけど、君はお人好しだね」
「カイン達に騙されていただけですから」
「まぁいい。今は君への誤解も解け、君にしてきた態度を後悔してると義姉から聞いてる。君達に免じて、助けてあげるよ」
「ありがとうございます」
とは言っても、向こうから救助の要請が無い限り、こちらから動く事が出来ないのがもどかしい……。
「まぁ、そろそろ本気で目障りだと思っていたから丁度良い。俺が直々に相手をしてあげるよ。早速明日、マルクス領に向かう」
「はい、ありがとうございまーーて、勝手に行くんですか?救助要請は出されていないんですよね?それなのに、勝手に他の領地に手を出せるんですか?」
いくらルーフェス公爵家とは言え、まだそこまで被害が出ているワケでもないのに、他の領地の問題にズカズカ踏み込むなんて、そんな横暴なことが出来るの?
「別に出来なくは無いけど」
出来るんだ……。
3,332
お気に入りに追加
8,205
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
側妃のお仕事は終了です。
火野村志紀
恋愛
侯爵令嬢アニュエラは、王太子サディアスの正妃となった……はずだった。
だが、サディアスはミリアという令嬢を正妃にすると言い出し、アニュエラは側妃の地位を押し付けられた。
それでも構わないと思っていたのだ。サディアスが「側妃は所詮お飾りだ」と言い出すまでは。

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。