18 / 54
連載
77話 シャインって子、邪魔ね
しおりを挟む「親孝行だと?」
「はい。私、お父様とお母様に、いっぱい、孫と触れ合う時間をあげようと思って……だって、ルエルお姉様には、子供が出来ないでしょう?だから、私が産んだ子が、お父様とお母様にとって、唯一の孫だから……」
可愛いお父様の孫を産んだ、自慢の可愛い娘が泣いて、可愛いことを言うんだから、すぐに手の平を返すに決まってる!『ずっと家にいていい』そんな言葉がお父様の口から聞けると、エレノアは信じて疑っていなかった。
子供も産めない女として欠陥品の姉と違って、可愛い孫を産んだ私こそが、愛される存在!もっと、大切にされて当たり前なの!
だが、父親から返ってきたのは、予想外の言葉だった。
「孫を使っての親孝行なら必要無いーーーすぐに出て行け」
「--え?」
「マルクス伯爵家には今日お前が戻ると話をつけてある。さっさとこの家を去れ」
「え?あ、お父様…!」
「この期に及んでルエルを見下す発言をするとは……愚かにも程がある。立て替えたお前の慰謝料は、最後の手切金としてくれてやる。次は無いと思え」
クリプト伯爵はそう言うと、一度も振り返らずに、その場から去った。
***
マルクス伯爵邸ーーー。
「エレノア!お帰り!」
「……ただ今戻りました、カイン様ぁ」
マルクス伯爵邸に着くと、私の旦那様が笑顔で迎え入れてくれた。
久しぶりの旦那様の香りーーー昨日まで腕の中にいた男とは、また違う香り。
「疲れただろう?部屋の用意はしてあるから、ゆっくり休んでくれ。僕達の子供は、今、母様と父様が見てくれてるよ!2人とも、僕達の可愛い子供にメロメロさ!」
「ありがとうございますカイン様」
エレノアはあれから、玄関から中に入ることすら許されず、追い出された。
「ムカつくムカつく!何よ……!可愛い孫と過ごしたいと思ったから、実家で過ごしてあげてたのにーー」
カインの言葉に甘え、パッと入浴を済ませると、エレノアは独り言を呟きながら、夫婦のベッドに倒れ込んだ。
「せっかく最近出会った男と良い感じだったのに、全部おじゃんじゃん!あーあー」
これが、本音。婚家に帰れば、自由に夜、出歩くことが難しくなる。外に行けなければーーー夫とは違う男と、遊べなくなる。
私は可愛い。可愛いから、男は放っておかないの。
私の実家であるクリプト伯爵家は、そこそこ名のある名家であり、資産があって、義実家のマルクス伯爵家も、1目置いてる。
ルエルお姉様の時と違って、お母様に大切にされてる私は、嫁ぎ先であるマルクス伯爵家に、結納金以上の多額の持参金を渡した。
だから義実家は、私の里帰り出産も快く許した。
里帰り出産後も、隙あらばちょくちょく実家に帰ろうと思っていたのにーー!
なのに、今日のお父様の態度から見て、そう易々と実家に帰るのを許してくれそうに無い。
「何なのよ……全部、ルエルお姉様のせいよ!」
昔のマルクス伯爵家ーーカイン様は、パッとしない男だった。貧乏で没落寸前。こんな人のもとにお嫁に行きたがるお姉様の気が知れないと、鼻で笑ってた。なのに、ルエルお姉様と結婚してから、マルクス伯爵家は持ち直し、実家と同じくらい、お金持ちになった。
カイン様は性格も良くて優しい。お義父様も領主として優秀で、お義母様もお茶会をよく開いてらして、素晴らしい気遣いの出来る素敵な人だと聞いた。
「ズルい」
それなら、私が欲しい。私はルエルお姉様から奪ったカイン様と幸せな結婚をして、実家にも甘やかされて、適度に男遊びして、優雅で楽しく幸せで、誰もが羨む生活を送るつもりだった。なにより、ルエルお姉様如きが幸せになっているのが、許せない。
だから奪った。奪った時のルエルお姉様の顔は、今思い出しても滑稽で、ルエルお姉様によく似合っていた。ルエルお姉様には、不幸が似合うもの。ルエルお姉様はそのまま、不幸な未来しか待っていないハズだった。
「まさか、ルーフェス様がルエルお姉様を見初めるなんてーーっ!」
マルクス伯爵令息であるカイン様なんかよりずっと格上の人。公爵様で、皇帝陛下にも頼りにされてて、強くて、顔も良くて、仕事も出来て、お金持ちでーーー長所を上げ出したらキリが無い。
「何で、ルエルお姉様なんかっっ!」
絶対に私の方が可愛いのに!お父様も!ルエルお姉様の肩を持つなんて!
『俺はルエルと一緒になれるなら、子供が出来なくても構わない。ルエルが側にいてくれれば、それで良い』
メトがエレノアに言った台詞は、エレノアには信じられないものばかりだった。
「私がハズレ嫁なワケ無い!絶対に有り得ないーー!ルエルお姉様より、私の方が劣ってるワケないんだから!」
ルエルお姉様に子供は出来ない。
今はルーフェス様が子供を望んでいないとしても、いずれ自分の子供が欲しくなった時、ルエルお姉様は確実に捨てられるの!だって男の人は、自分の優秀な子孫を残したいはずだもの!自分の跡を継がせたいハズだもの!!
「……ルーフェス様は、確か、自分の甥を、跡継ぎにしたいのよねーー」
社交界で聞いた事がある噂。
「甥がいるから、自分の子供を望まないのね」
エレノアはニヤリと、不気味に微笑んだーーー。
3,739
お気に入りに追加
8,205
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
側妃のお仕事は終了です。
火野村志紀
恋愛
侯爵令嬢アニュエラは、王太子サディアスの正妃となった……はずだった。
だが、サディアスはミリアという令嬢を正妃にすると言い出し、アニュエラは側妃の地位を押し付けられた。
それでも構わないと思っていたのだ。サディアスが「側妃は所詮お飾りだ」と言い出すまでは。

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。