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75話 結婚式⑤

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 新しい男の登場をチャンスだとでも思ったのか、エレノアはまた、か弱い悲劇のヒロインのように涙を溜め、私達をヒロインを虐める悪党のように例え、言葉を紡いだ。
 確かに、魔法で氷の牢に閉じ込められ、涙を流す姿は、まるで囚われのお姫様みたい。私達の関係性を知らず、初見でこの状況だけを見たなら、100%私達が悪者ね。

「お。何だ。ついに始末でもすんのか?」
「始末!?」

 ただ、ラットはそんな妹を気にも止めず、あっけらかんと物騒な事を言い出した。

 めっちゃ怖いこと言いますね。え?まさか普段、逆らう人達を始末してるとか、そーゆー話ですか?私も内心驚いてますけど、張本人のエレノアは今後の自分の行く末に怯えまくってるじゃありませんか。

「ラット。誤解されるような物言いをするな。ちょっとお灸を添えて、言うことを聞かせてるだけだ」

 ちょっと、お灸……?お灸とは?一体何をするんだろう……。気になったけど、私は空気が読めるので、スルーします。

「ラ、ラット様!お願いです!確か、アルファイン侯爵令息様ですよね?私を助けて下さい!」
「そう。そのルーフェス公爵家に仕えるアルファイン侯爵令息なワケ。なのに助けるワケなくね?」

 取り付く間も無く冷たくあしらうラット。

「マルクス夫人は俺達の結婚を祝う気が無いらしい。即刻、帰らせろ」

「へーい」

 メトの命に従い、ラットは控えていた従者達に、エレノアをこのまま外に放り出すよう指示した。
 氷の牢ごと乱雑に持ち上げられ、運ばれるエレノア。

「きゃあ!何するのよ?!私は、あのクリプト伯爵家の娘で、今はマルクス伯爵家の妻なのよ?!従者風情が私を粗末に扱っていいと思ってるの?!」

 エレノアの猫かぶりは、自身より格上か対等、少なくも爵位持ちでない限り発動されない。従者相手に泣き真似をする気もなく、怒り任せに叫ぶ。まぁ、例え泣き真似をしたとしても、今日この場に招待した方々は、皆、ルーフェス公爵家、もしくは私と懇意にしている方々ばかりだし、ついさっき、結婚式の余興で自らの罪を認めた貴女の味方をする人なんて、ここにはいないでしょう。

「ルエル」
「は、はい!」

 駄目だ!好きって急に認識しちゃったから、変に意識して、声が裏返った!平常心ーー平常心!!

「……俺は今からクリプト伯爵と少し話をつけてくるから、先に式に戻っていてくれる?」
「はい」

 にこやかに笑顔を浮かべて、頷いてみせる。うん。大丈夫!今度は声、裏返らなかった。でもこのままここにいたら、また変な態度になりそう。すぐ離れよう。好きって意識したばっかりでどうすればいいのかも分からないし、ここは引く。逃げる。ごめんなさい。
 私はメトの言いつけに素直に従い、逃げるようにこの場から離れた。




「何だ。またあの馬鹿女なんかやらかしたのか?」

 ルエルがいなくなった後、ラットはメトに、こうなった経緯を尋ねた。

「凝りもせずにまたルエルにちょっかいをかけた」
「うーわー……学習能力ねー奴」

 エレノアの奇行に呆れ果てたように呟くラット。

「で?どうする?流石にうざくね?もう両方の家にきっついお灸でも据えてやれば?」
「いや、今回は少し義父に苦言を呈すくらいに留める」
「へー、メトがやり返さねぇなんてめずらしーな」

 ルーフェス公爵家の信条は、やられたらやり返す。
 それこそ、ルーフェス公爵家の家主であるメトが一番、その信条を行使する人間だった。そんなメトが、やり返さない。ラットは驚いて目を丸めた。

「ああ。今回、義妹はとしての役割りを十分果たしたからな」
「かませ犬?」


 予期していたワケではないが、あの愚かな義妹がちょっかいをかけたお蔭で、ルエルが俺を意識し始めたように見える。
 結婚式で素直になっていたところを邪魔された時には腹が立ったが、今回は、俺にとっては役に立った。

 ルエルを傷付けたのは許せないが、今回は特別に見逃してやる。


「……かませ犬の意味は全く分かんねーけど、俺、たまにお前がこえーよ」

 ラットは、幼馴染であり自分の主でもあるメトの悪い微笑みを、一歩下がって見つめた。




 それ以降は何の問題も起きず、滞りなく式は進んだ。
 お父様はメトから苦言を受けた後、すぐにお母様、カインを引き連れて式場を出た。

 唯一の常識人であるお父様の苦労は計り知れないけど、同情はしない。好き勝手する母と妹を今まで放置してきたツケが回ってきただけだもの。
 ……私がどれだけ酷い扱いをされても、お父様は助けてくれなかった。
 そんなお父様を思いやる義理は無い。

「結婚式は満足のいく結果だった?」
「はい。完璧でした」

 式が終わり、帰りの馬車の中。メトの質問に、私は迷いなくYESと答えた。
 エレノアとカインの無様な姿もこの目でしっかり見られたし、皆様の宝石への反応も上々。更には後日、しっかりと撮影した私達の写真が新聞にも載る予定なので、宣伝対策は完璧!同時に、私はルーフェス公爵に愛される幸せな花嫁として周知されるから、メトの虫除けも完璧だし、あの人達にまた私の幸せな姿も見せつけられるし、一石二鳥。
 悔しがって新聞をめちゃくちゃに破り捨てるエレノアや元・お義母様やお義父様の姿が目に浮かぶわ。

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