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72話 結婚式②

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「あれが……ルエルお姉様?!嘘…!」

 実家や義実家を出て、一般的な生活を送れるようになったルエルは、昔とは違い、肌も綺麗で、髪も艶がある。そして何より、普段は自身を着飾ることより、仕事のし易い動きやすい服装、清潔感のあるシンプルな化粧を好むルエルが、結婚式のため(自身を広告塔として使うため)に自分を精一杯、着飾った。
 その結果、結婚式の主役に相応しい花嫁になった。

「何で……ルエルお姉様なんて、私の引き立て役でしかないのにーー!」

 エレノアは、いつもの野暮ったい姉とは違う、美しい姿に、歯を噛み締めた。

「……ルエルが、あんなに綺麗になれるなんて……」

 カインもまた、いつもと違うルエルの姿に、目を奪われた。



 バージンロードの先、祭壇の前に立つメトの姿は、いつもより格好良く見えるから、困る。いや、広告塔としても、エレノアに見せつける素敵な花婿としても完璧で困らないんですけど、私個人の感情として、ドキドキします。
 こんなに素敵な人が、契約結婚とはいえ、私の花婿様なんだもの。

 お父様の手を離れ、メトの手を取る。

「娘を……よろしくお願いします」
「ああ」

 形式的に父親から花婿へと交わされる言葉。

 メトは私のベールを取り、顔を合わせると、優しく微笑んだ。

「綺麗だね」
「--っ。あり、がとうございます」

 頬に触れられ、褒めらえる言葉に、心臓が高鳴る。
 さっきまで平常心だったのに、メトの顔を見た途端、急にドキドキし始めた。今更になって結婚式を実感する。さっきまで仕事や復讐で頭がいっぱいだったのにーーー!!!


 もう誰も好きにならない。好きになれない。好きになりたくない。


 本当は分かってる。
 私はもう、メトを好きになりかけてるーーーでも、認めない。認めたくない。裏切られるのは嫌。もう、傷付くのは嫌。このまま契約結婚でいれば、傷付かない。だから私は、最後まで分からないままでいいの。

「ーーーでは、誓いの口付けを」

 誓いの言葉を交わし、指輪を交換し、私達は大勢の人達に祝福される中、誓いの口付けを交わしたーーー



 祝福に包まれる結婚式が終わる頃、普通の結婚式では行われない、余興という名の公開処刑が始まった。

「…僕、カイン=マルクスと妻、エレノアはーールエル…様と婚姻関係にあった時から、不貞を行っていて……あろうことか、この事実を隠し、ルエル…様に、男遊びの汚名をきせ、離婚の原因があたかもルエル様にあるように、周囲に、噂をばら撒きました……」

 大勢の名高い貴族達の前で、自分達の恥を読み上げるカインと、その隣で、屈辱に顔を歪ませて立つエレノア。

 カインが読み上げている紙は、お父様が用意したものでしょう。『この通りに読み上げろ』『他の言葉を口に出すな』ーー正しい判断ですね、お父様。
 きっとカインとエレノアに任せていれば、本人達の都合の良いように、『私とカイン様は純粋に愛し合ったから』やら『ルエルに子供が出来なかったから仕方がなかった』だの、火に油を注ぐような発言をこんな公の場でしかねませんものね。まぁ、私としてはどちらでも良かったんですけどね。

「本当に……申し訳ありませんでした、ルエル…様」
「……………ごめんなさい」

 最後、二人は揃って深く頭を下げた。
 誰も拍手をしない、冷めた目を向けられるだけの催し。
 恥に耐え、震える言葉で自らの罪と謝罪を口にするカインも、屈辱に歪んだ顔で謝罪の言葉を口にするエレノアも、いい気味。
 この件で負ったマルクス伯爵家とクリプト伯爵家のダメージは大きい。特に、マルクス伯爵家。
 お父様はルーフェス公爵家への謝罪に、娘に罰を与えるなど、上手に火消しをしてるけど、マルクス伯爵家は違う。
 元・お義母様とお義父様は結婚式にご招待しなかったけど、この結婚式の余興に最後まで反発して、私達は何も悪くない!悪いのはハズレ嫁のルエルだ!との態度を貫いてる。
 ここまで馬鹿だとは思わなかったわ。
 結局は、クリプト伯爵であるお父様の言葉に従い、息子を結婚式に出席させたけど、それはそれは歯がゆい思いをされているでしょうね。




「お二人とも、結婚式の参列、ありがとうございます」

 披露宴の前にお父様に連れられ、私達のもとに顔を見せに来たエレノアとカインに向かって、私はわざとらしく、笑みを深めてお礼の言葉を口にした。
 妹夫婦に結婚式の参列のお礼を伝える。普通の光景だけど、私達にとっては普通じゃない。

「……」
「カイン、エレノア」

 何も答えない二人に、お父様が背後から圧をかける。

「……っ!おめでとう…ルエル……様」

 お父様に再三、私に様をつけるよう言われたのか、たどたどしくも頑張って使っているじゃありませんか、カイン。

「…おめでとうございますわ、ルエルお姉様」
「あら、ありがとうエレノア。貴女より幸せになってごめんね」
「!何よ!ルエルお姉様の分際で、生意気ーー!」

「エレノア!」

 お父様に怒鳴られると、エレノアはグッと悔しそうに言葉を飲み込んだ。

 嫌味にいちいち反応するなんて、本当に学習能力がないのね。
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