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66話 謝罪の訪れ

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 3ヶ月後ーーールーフェス公爵邸ーーー


 慰謝料の請求書を送り付けてから3ヶ月。
 エレノアからの慰謝料の支払いは、迅速だった。エレノアはまだ出産を終えたばかりで動けなかっただろうし、多分、お父様が手を回したんだと思う。

 カインの方も、請求書を送り付けてから1ヶ月以内には、慰謝料を支払った。
 思ったより早かった。が、感想だった。何せ、前回ベール様ーーーゼスティリア侯爵家が抗議した時も、お父様は迅速に対応されたけど、元・義実家は酷いもので、再三、抗議してやっと謝罪の言葉が手紙で一言届いたくらいだ。

「クリプト伯爵がマルクス伯爵とその愚息に対して注意勧告を行ったらしい。ルーフェス公爵おれをこれ以上怒らせるな。とね」

「それで今回はこんなに動きが早いんですね」

 エレノアが嫁いでから何だかんだ、クリプト伯爵家はマルクス伯爵家に援助を行っているはず。可愛い可愛いエレノアの嫁ぎ先だもの。私と違って、お母様が放っておくわけが無い。
 事業が上手くいっていない今、怒らせるワケにはいかないものね。

「メト。以前まで私を汚いものを見るような目で見ていた貴族の方から、丁寧に謝罪と、プレゼントを頂きました。本当に反省されているようなので、許そうと思います。それと、こちらのイヤリングなのですが、ピンクの宝石がいいと思いますか?それとも、赤?紫?青?もうすぐ結婚式なので、それまでに確定しないとーーー」

 もうあと1週間後が結婚式ですからね、そろそろ大詰めです。
 最近はもっぱらどの宝石を使うか、私に対する謝罪に訪れた方への対応or手紙の返信ーーー通常の仕事もありますし、忙しい!

「やっぱり赤でしょうか?それとも可愛らしくピンクでいくべきでしょうか?」
「……あっという間に普段通りに戻ったな」
「どうされましたか?」
「いや、別に」

 何か言いたげですが、本人が言いたくないならスルーしましょう。忙しいですしね。

「と、言いますか。メトの方がお忙しいでしょう?無理して付き合わなくていいんですよ?」

「問題無い」

 私達が今いるのは、ルーフェス公爵邸の応接室。
 もうすぐ来客が到着する時間なので、私もそろそろ、出していた装飾品をケースにしまう。

 今日、ここには、お父様が謝罪に訪れる。

 以前にもお父様は、ゼスティリア侯爵家の抗議を受けたさい、メトと私に直接、謝罪に訪れた。なので今回もまた、メトに目をつけられないように、謝罪に来るのだろう。普通の神経なら、これが普通。
 そもそもが、メトに喧嘩を売らないのが常識なんだけど、それでも失礼なことをしてしまったら、即、謝罪しなければならない相手、それがメトーーーなのに、元・義実家は本当に何もしない。
 そりゃあ貧乏になるよ。没落するよ。早く爵位を皇帝陛下にお返しした方が領民のためだと思う。なんなら、私がその領地を貰いましょうか?なんてね。

 慰謝料の請求書を送り付けてすぐに、お父様は謝罪に訪れようとしたけど、今回、こんなに謝罪が遅くなったのは、こちらの都合によるもの。

 あえて、結婚式間近に呼び出した。



「ーールーフェス様、ルエル様。クリプト伯爵がお見えになりました」

 ……よそ行きのラットを見るのは不思議な感覚ですね。きちんと出来る姿を録画して、ヴェルデとサンスに見せてあげたいです。
 普段のおチャラけた態度とは違い、かしこまった態度でお父様を応接室に案内するラット。

「!お母様……」

 1回目に訪れた時と同じ、お父様だけかと思ったら、後ろからお母様も現れたのに驚いた。
 不機嫌そうな顔で、お父様に見えないようにこちらを睨み付けるお母様。そんなに私がお嫌いですか?私も……お母様の実の子供なんですけどね。

「この度は出来の悪い娘、エレノアの度重なる非礼、本当に申し訳ありませんでした」

 深く深く頭を下げるお父様とお母様。その前方で、ソファに座り、腕を組み、冷たく2人を睨み付けるメト。

「本当に謝罪する気があるのか?クリプト伯爵夫人は入ってくるなり、俺の妻を睨み付けていたが?」

「い、いえ!そんな事はーー」

 慌てたように否定するお母様。
 そりゃあメトにも見えますよ。メト、私の隣にいるんですよ?バレますって。

「本当は不出来な娘も謝罪に来させるべきなのですが、エレノアは体調が優れないと言っておりましてーー落ち着いたら謝罪に来させますので、お許し頂ければーーー」

「エレノアをルーフェス公爵邸に招くつもりはありません」

 どうせ反省なんてしていないだろうし、ややこしい事になるのは目に見えてる。それに、エレノアにはルーフェス公爵邸に1歩も足を踏み入れて欲しく無い。

 チラリとお母様を覗くと、誰とも目を合わせないように、俯いていた。
 お母様はお父様には従順。逆らわない。
 きっとこのまま静かに過ごせば、この時間が終わると思ってるんでしょうけど、甘いわ。私は、わざわざ飛び込んで来たお母様を無傷で帰すほど、優しくないの。

「ーーエレノアは、自分の何が悪いかも理解していないような、救いようの無い馬鹿で愚かな妹です」

「ーーっ!」

 わざとお母様の癇に障るような発言をすると、お母様は思惑通りに俯いていた顔を上げ、私を睨み付けた。
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