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63話 エレノアよりも?

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 もう後戻りは出来ないので、思い切って、思いの丈をメトにぶつける。
 だから伝えたくなかったんです!言ったってどうしようもないもの!私の心の持ちようなんですから!

「……失敗すればいいだろ。それくらい、別にどうとでもなる」

「ならないんです!完璧にしたいんです!」

 まるで我儘娘みたいに駄々をこねる私。
 分かっています!こんなこと言っても、メトが困るだけなのは!こんな解決出来ない悩みをメトにぶつけるのは間違ってるんです!でも、平然と結婚式の準備を進める貴方が羨ましいんです!
 私はこんなに緊張してるのに!

「……鬱陶しいな」

 うっ。そうですよね。私、鬱陶しいですよね。

「契約結婚として花嫁を務めあげる。自分の幸せな姿を、自分を裏切った奴等に見せ付けるーーーそう言って結婚式をすると同意したのは君だ。復讐を途中で止めるの?」
「まさか……絶対に止めません」

 私は、私に酷い裏切りをしたあの2人を、私から全てを奪ってきたあの人達を、絶対に許さない。あの人達に対するこのドス黒い感情があるから、どれだけ辛くても立ち止まらずに進んでいけた。
 ーーーこの感情があれば、結婚式も緊張なんてせず、ただ淡々と進められる。
 私にとってこの結婚式は、形だけのもの。
 あの人達に私の幸せな姿を見せ付けたいためだけの、復讐のためだけの結婚式。

「つい先月、『結婚式でルーフェス公爵家の宝石の大々的な宣伝がしたいです!』」と俺に提案してきた奴の発言とは思えないね」
「あの時はまだ……仕事で頭がいっぱいでして…」

 思い付いてすぐ、ゲイン鉱山の帰りの馬車の中で提案しました。

「仕事では責任ある立場で堂々と振舞っているクセに、何の違いがある?この結婚式は、君にとって、ただの復讐と仕事の場だろう」

 そうですよ。幸せいっぱいの、偽物の花嫁を演じる。ただそれだけ。

 そう、思っていたのにーーー


「それが……その、仕事とか復讐とは別に、その…」
「ハッキリ言え」

「……結婚式は初めてなので……その、楽しみで……緊張、しています」

「ーーーは?」

 結婚式の準備を進めるうちに、仕事や復讐とは別の感情が生まれた。

「契約結婚という事は勿論、理解してるんですけど……その、仕事とか復讐の一環だけとしては捉えられなくなってしまって……あ!勿論、メトの妻として、立派に振舞おう!って気持ちはありますし、私の家族や元・義家族に復讐したい!って気持ちは変わってませんよ?!でも、その、なんと言うか……」

 契約結婚で、偽物の結婚式だって分かってるのに、準備を進めるうちに、本当に結婚式を挙げるんだって実感した。
 皆が、おめでとうと声をかけてくれて、祝福してくれるのが嬉しかった。
 カインとの時は違う。彼とは結婚式なんて挙げなかったし、結婚自体も、誰にも祝ってもらえなかった。
 でも今回は、沢山の人が祝ってくれる。

 自然と、結婚式の準備に熱が入った。

 皆が祝福してくれる結婚式を、成功させたい!なんて、今までとは違う、自分の綺麗な感情。
 仕事で大勢の前に立つのは何とも思わないのに、仕事や復讐だけじゃなくなったら、途端に緊張し始めた。

 仕事も復讐もずっと頭にあって、そこに生まれた、新しい感情。

 結婚式を成功させたいーーー他の誰でもない、メトとの、結婚式を。

「メトとの結婚式が……楽しみで……ずっと、ドキドキしてるんです」

 一生懸命準備した結婚式が待ち遠しくて、でも緊張する。私にも分からない、こんなチグハグな感情を、貴方に言っても仕方ないでしょう?


「ーーー何故急に可愛くなる」
「かっ可愛い?!どうして?!」

 またハッキリと冷たい言葉を投げ掛けられると思っていたのに、予想だにしない言葉が聞こえて、何故か、ドギマギする。
 可愛いーーなんて、言われたこと無い。
 可愛いは、全てエレノアに向けられる言葉だった。カインだって、私じゃなくて、いつもエレノアを可愛いと言った。
 分かってる。私よりも、絶対にエレノアの方が可愛い。産まれた時から決まってたの。分かってる。でも、どうして?何故だか、聞いてみたくなった。

「……それは、エレノア。よりも?」

「勿論。ルエルの方が遥かに可愛い」

「ーーー」

 目眩がするくらい、嬉しい。
 貴方にそう言って貰えたことが、どうしてこんなに嬉しいの?

「ルエル、俺は、君が好きだよ」

 近付いてきた唇を、私は避けずに、そのまま受け入れたーーー。




「おーーい!メト!そろそろ出発の時間だぞーー!仕事だぞーー!!遅れるぞーー!どこにいんだぁー?」


 扉の向こう、メトを探し回っているラットの声が聞こえて、ハッ!と、現実に戻された。

「っ!メト!」
「……あいつ、あとでボコボコにしてやる」

 唇を離したメトは、不機嫌な顔で物騒な台詞を吐きながら、私から体を離した。

「…あ…」

 温もりがなくなったのが寂しくて、自然と漏れた声。
 あれ?ラットがメトを探してるんだし、メトは仕事なんだから、離れるのは当然だって分かってるのにー!
 すぐに漏れた声に気付いて、私はバッと口を押さえたが、遅かった。

「……へぇ。結婚式なんて面倒だと思ってたけど、ルエルが素直になるならするもんだね」

「違います!」

「何が違うのかはまた今度ゆっくり聞かせてもらうとするよ。じゃあね」

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