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62話 緊張してる

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 私の結婚式の目的は、2つある。

 1つ目は、私を裏切った者達への復讐ーーー先程のベール様との会話でもあったように、こちらは順調に準備が進んでいて、今、私に出来ることは無い。

 2つ目は、ルーフェス公爵家の宝石の大々的な宣伝ーーー先程のベール様との会話にもあったように、新聞に掲載されるくらい、宝石の事業は順調に進んでる。進んでいるけど、まだ足りない!
 私の目的は、私達の結婚式を利用して、ルーフェス公爵家の宝石を大々的に宣伝し、利益をあげること!誰からの婚姻も断り、一生結婚しないんじゃないか。と言われていたルーフェス公爵様と、何かとスキャンダルのあった私(不本意)の結婚式!注目度は抜群!
 ここで素晴らしい宝石を使った装飾品を身につければ、皆様の購買意欲は爆上がりするハズ!
 その為にも、それはそれは素晴らしい宝石達を用意しました!
 天使の宝石の指輪は勿論、ティアラやネックレス、イヤリングにブレスレット。男性用の装飾品もご用意しました!なにせメトは顔面偏差値お高いですからね。こんなに良い広告塔は他にいません。


「ルエル。ウィークがまたゲイン鉱山で掘り出し物の宝石を掘り当てたよ」

 仕事終わり、結婚式の準備の進捗状況を確認するために訪れたメトが、綺麗なピンクに輝く宝石を私に手渡した。

「またですか!?」

「ああ。その他にも各地からぞくぞくと届いている」

 ーーールーフェス公爵であるメトの結婚式。
 ルーフェス公爵の名に恥じない相応しい宝石を用意する必要があると、各宝石の採掘場所から、次々と送られる宝石達……聞くところによると、親愛するルーフェス公爵様に、自分達こそが一番素晴らしい宝石を献上してみせる!と躍起になり、皆さん、寝る間も惜しんで採掘に取り組んでいるらしい。
 宣伝のためにも、質の良い宝石は望んでいましたけど……大丈夫ですか?いつもの倍以上の採掘量なんですけど。

「普段からこれだけ採掘出来ていれば、文句無いんだけどね」
「……皆さんを過労死させる気ですか?」
「冗談だよ」

 結婚式の準備は、仕事が忙しすぎるメトに代わって、基本、私がしている。
 勿論、私も忙しいし、結婚式の準備をしつつ、今までの仕事+宝石の事業を任された当初は、久しぶりに寝不足になったけど、何とか乗り越えた。
 メトはそんな私よりも、遥かに忙しい。基本、帰りは深夜だし、休んで遊びに行ってる姿なんて見たこと無い。

「出席者の交通と宿泊の手配は全て終わらせた。あと、いまだにマルクス夫妻の言うことを真に受けて式を妨害しようとしてきた馬鹿共には、懇切丁寧に余計な真似をしないよう釘を刺しておいた」

 懇切丁寧に釘を刺した……具体的に何をしたのか気になるところですが、私は空気を読んで華麗にスルーしますよ。

 今日もまだ仕事途中なのに、こうやって忙しい合間をぬって様子を見に来てくれるし、面倒な厄介事も引き受けてくれるし、打ち合わせにも来てくれる。
 きっとカインとの結婚式なら、こうはいかない。全ての準備を私に丸投げして、美味しい所だけ持って行く。
 本当に……私なんかには勿体ないくらい、メトはとても素敵な旦那様だと思う。


「他に何か気になることはある?」
「……いえ。大丈夫です」
「何?気になることがあるなら言え」

 仕事を抜け出して来たから時間があまり無いのか、時計を気にしながら尋ねるメト。

「いえ。特に何も無ーー」
「早く言ってくれない?」

 否定しているのに、追求が止まらない。どうして?私、何かあるって分かりやすい?
 メトは忙しいのに、それでも、合間を見て協力してくれる。そんなメトに、これ以上、私の個人的な悩みを伝えたくない。

「あの、言ってもどうにもならないんです。大したことでもありませんし……」
「早く言え」

 全く引いてくれないーーー!!これ、聞かないと帰らないやつかしら……私が言わないから、メトも苛苛してるし……言いたく無かったけど、もう、伝えるしか無い。

「きーー」
「き?」

「緊張、しています…」

 自分でも驚くくらい、小さくて消え入りそうな声が出た。言ったあとに、やっぱりこんな情けないこと、言わなきゃ良かった!なんて思って、聞こえていませんように!って願ったけど、メトの耳にはしっかり届いていたみたい。
 驚いたように目を丸くして、こっちを見てる。

「……何を緊張する必要がある」
「あ!ありますよ!結婚式ですよ?!結婚式!大勢の人の前に立つんですよ!?主役ですよ?!緊張するに決まってるじゃないですか!」

 ルーフェス公爵様であるメトのお嫁さんですよ?!注目の的だし、招待客の人数も半端無かったし、救いは、皇帝陛下が仕事の都合で欠席なだけーー!

「君、普段、仕事で大勢の人間を動かしているよね?」
「それとこれとは別なんです!」

「何が違うの?皇帝陛下が参列するならまだしも、あとはただ人数が多いだけだ。ルエルなら何の問題も無く式を進められるだろう」

「そんな保証無いじゃないですか!指輪を落としたらどうしよう?とか、緊張で変な歩き方しちゃったらどうしよう?とか、変な話し方しちゃったらどうしよう?とか、もう、頭がいっぱいなんですーー!」

 
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