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53話 誤解は解けました?
しおりを挟むカインはね、口先だけは、とても理想的な発言をするの。
『俺に任せろ』『俺が全て叶えてみせる』『俺が守る』『俺は君を愛してる』
その言葉に深い意味なんて無い。責任も持たない。
ただ、その場の流れで、自分に都合の良い言葉を選んで発言してるだけ。
「無料の診療所も炊き出しも、『マルクス領民からこんなお願いをされちゃったよ。後はよろしくね、ルエル』で、あの人はお終いですよ」
「そんっっ……だってーールエル様は、本当は仕事してなくて、カイン様達の手柄を横取りしてただけだってーー!」
「いい加減目ぇ覚ませよ。どー考えたって、あいつの虚言だろ」
私の言葉に狼狽えるヴェルデさんとサンスさんに、ウィークさんは問答無用に、真実の言葉を突き刺した。
「すーー申し訳ありませんでした!ルエル様!」
深く頭を下げ、土下座で謝罪する2人に、私は慌てて、頭を上げるようにお願いした。
「私も、あの当時は否定していませんでしたから、誤解していても無理はありません。大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!ルエル様っ!」
それに、私は貴方達を責められない。私だって、カインの言葉に騙された1人だもの。
『ルエル、僕はルエルを愛してるよ』
ーーー嘘つき。本当は、私を愛してなんかいなかったくせに。
「あんな奴に騙される方が悪い」
問答無用に突き刺すメトの言葉は、ヴェルデさんとサンスさんに向けたものだったが、私にもしっかりと突き刺さった。
ーーー結構ダメージ受けますね。
本当にごめんなさい。あんな奴に簡単に騙されてごめんなさい。
「はい!すんませーー申し訳ございませんでした、ルーフェス様!」
キラキラした目でメトに熱い視線を送る2人。
「…何?」
「俺達!感動しました!俺達なんかを助けに来てくれたルーフェス様の姿!マジイケてたっす!」
「とても素敵でした。です」
彼等の敬語を笑顔で訂正していくワークスさん。
「あの魔物をバッタバッタと倒していく凛々しいお姿!文句言いながらも助けてくれるツンデレ具合!」
「一見冷たそうな心の裏に見せる慈悲の心です」
ーーーツンデレって何?あれ?そんな言葉の意味でしたっけ?
「全てが最高ッス!」
「俺等をここで雇って下さい!ルーフェス様のお役に立ちたいッス!!」
「ッスでは無く、です。です」
だいぶ懐かれましたね。
あんな嘘つきの塊みたいな主じゃなく、本物の立派な主を目の当たりにしたんだもの。そうなるよね。
「断る」
うん。何となく、メトは断るんじゃないかと思いました。
「何でですか?!」
「戦闘も敬語もろくに使えない役立たずを雇うほど、俺は優しくない」
容赦ないな……。
「鍛錬しやす!敬語勉強しやす!」
「俺達、何でもしやす!!」
「します。です」
お2人も全くめげませんね!そしてワークスさんもずっと敬語の修正続けてますね!
「…ふぅーん。何でもする。ね」
悪い顔……何か企んでますね……一体何を思い付いたんだか……。
「なら、ルエルの元で働くと良い」
「ーーーは?」
急に蚊帳の外だったのが、内側に引き戻された。え?私の所で雇うの?何で?!
「いやいや、ヴェルデさんとサンスさんは、メトの所で働きたいんですよ?それなのに、私の所で働くなんておかしくないですか?!」
「ルエルはルーフェス公爵夫人だ。君の元で働くのは、俺の元で働くのと同じだよ」
違わない?いや、1つの枠組みで言ったらそうだけど!でも2人はメトに惚れちゃったんでしょ?私、関係ないんじゃない?
「どっちにしろ、君達の戦闘レベルは低過ぎるから、俺の元では働けない。働きたいなら、ルエルの元で敬語の勉強をしつつ、合間に戦闘の訓練を受けると良い」
え?それって私大変なやつじゃない?私の受け持ってる仕事、ほぼ対人関係よ?営業だよ?顧客対応するよ?会議するよ?敬語必須だよ?私が指導するの?
「わっかりやした!ではルエル様!これからよろしくお願いします!」
「……分かりました。に、しましょうか」
満面の笑みで了承するヴェルデさんとサンスさんに、面倒臭いから嫌だ。とは断れず、私は引き攣る口元を隠して、彼等を受け入れた。
「ーーメト」
怪我人であるヴェルデさんとサンテさんを手分けして外に運び出している最中、私はメトの腕を掴んで、袖を捲った。
「……やっぱり」
メトの腕には、赤紫の打撲痕があった。
「……たいしたことない怪我だけど?」
「怪我は怪我です!隠さないでちゃんと言って下さい!」
皆に心配かけたくなかったんでしょうけど、隠される方が心配になります!でも、確かに、これならワークスさんの回復魔法で、すぐ治りそう。
「……良く分かったね」
「そりゃあ、貴方の妻ですし」
まだ短い期間ですが、一緒に暮らしてて、傍にいますし、よく観察していますもん。
「……ふーん」
私は皆に心配かけさせたくないメトの気持ちを汲み、こっそりとワークスさんを呼び寄せた。
***
色々あったが、ゲイン鉱山での宝石の採掘が終わり、私は1人、宿屋に戻った。
メト、ワークスさんはまだ仕事があるからと出掛け、ヴェルデさんとサンスさんは、あのままゲイン鉱山にある診療所に運ばれた。
「綺麗な宝石…」
私の手には、ウィークさんが採掘した神秘の宝石。
これが加工され、指輪やネックレス、ブローチ等の装飾品に生まれ変わる。私はこのルーフェス公爵家の宝石を、責任を持って販売しなくてはいけない。
「今でもルーフェス公爵家の宝石は人気だけどーー」
何せライバルがいない。
宝石関連の事業はほぼ全てが、ルーフェス公爵家が独占してる。このまま何もしなくても、売上は変わらず順調に進むはずーーーだけど私は、メトに過去最高の利益をあげると大口を叩いてしまった。
「皆様に、ルーフェス公爵家の宝石の良さを全面的に売り出して、購買意欲を高めなくちゃ……」
皆さんが命を懸けて採掘してくれた宝石を、粗末に扱う事は出来ない。
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