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48話 神秘の宝石

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「必ず天使の宝石を見つけ出してみせるさ。そして、最初に見つけた宝石は、指輪にしてエレノアに贈ろう」

 それは出来れば止めて欲しい。私とエレノア、指輪お揃いになるじゃない。

「素晴らしい考えッス、カイン様!今回の奥様であるエレノア様は、カイン様に相応しいですし、大切にしやしょう!」

 前回の奥様である私は、カインに相応しくなかったって言いたいの?奇遇ね、私もそう思うわ。私は、カインみたいな馬鹿な男に相応しくない。貴方達の言う通り、エレノアこそがカインみたいな駄目な男とお似合いよ。


 冷めきったこちらとは違い、一通り盛り上がり終えたカイン達は、私達が宝石の採掘をしている場所を素通りして、奥へ進んだ。

「ーーーさっきのルーフェス様の部下への態度、聞いたか?帰れ。だとよ。キツいなぁー」

「ああ、ルーフェス様は血も涙もない冷酷非道な男だって話だぜ。いくら地位も金もあっても、あんな男に嫁ぐなんて、見る目の無い女もいたもんだ」

 私の横を通り過ぎるさいに、わざわざ私に聞こえるよう、嫌味ったらしい台詞を残して。

 見る目が無い?馬鹿言わないで欲しいわ。メトがどれ程、最強で天才だと思ってるの?地位もあって財力もあって仕事が出来て、強くて、オマケに容姿端麗ーーーそれに、私は、本当はメトが優しいのを、知ってるーーーカインなんて何一つとっても足元にも及ばないくらい、良い男よ。
 カインがどれだけ良い主だと勘違いしているのか知らないけど、見当違いもいいとこだわ。


「お話には聞いていましたが、本当に頭の悪い方ですね、マルクス伯爵令息は」

 満面の笑顔でカインの感想を述べるワークスさん。
 なんかもう……本当にごめんなさい。あんな奴と結婚していた自分が恥ずかしいです。

「放っておけ。どうせすぐに泣き付いてくる」

 でしょうね。ゲイン鉱山に来るまでの道中ですら、何人もの部下達に怪我を負わせて辿り着いたのに、鉱山の奥部になんて行けるわけが無い。
 メトなら本当は、カイン達を無理矢理追い出せるんでしょうけど……そこまでしてあげる義理も無いし、どうせカインは、勝手な解釈で、ルーフェス公爵が宝石を独り占めするために自分達を追い返した。なんて騒ぎ出すのが目に見えてる。
 もう好きにさせましょう。
 それにーーー下手に追い返して、ルーフェス公爵家の目の届かない場所で宝石の採掘を行えば、もっと酷い目に合うのは明白。

 カインはどうでもいいが、マルクス領民の方々がカインの愚行に付き合って犠牲になるのは……出来れば、避けてあげたい。


 鬱陶しい邪魔者が去り、気を取り直して宝石の採掘を見学していると、急にバキッ!と、何かが壊れる音がした。

「うわぁ!」

「!」

 次に聞こえたのは悲鳴。
 採掘場から聞こえたウィークの悲鳴に視線を向けると、そこには、1匹の魔物と、腕から血を出すウィークの姿があった。

「ウィークさん…!」

「動くな」

 駆け寄ろうとする私の腕を、メトが止める。

「どうして?!ウィークさん、怪我をしてるのよ?助けてあげなくちゃ!」

「心意気は立派だが、役立たずが救助に入ったところで余計な被害を生むだけだよ」

「ならメトが助けに行って!早く!」

 と、言い争いをしている最中にも、体勢を立て直したウィークさんがハンマーを使い、苦戦しながらも、魔物を倒した。

「はぁっはぁっ。あ!ルーフェス様!奥様!採れました!宝石です!」

 魔物を倒した足で、血塗れの腕で、私達の元に宝石片手に駆け寄るウィーク。私達の元に来ると、そのまま宝石を差し出した。
 綺麗な紫の色……。

「運が良いです奥様!これは《神秘の宝石》って言われていて、中々、入口付近の採掘場では採れないんですよ!」

 興奮しているウィークの様子からも、希少価値が高い物だと伺える。
 私も、ルーフェス公爵夫人として、宝石の勉強をしたから、この宝石の価値を知っている。普段ならもっと奥部に行かないと採れないような、貴重な宝石ーー

「そんな事より、怪我は大丈夫なんですか?!」

 ーーだけど、それより何より、怪我の手当が先!
 私は差し出された宝石を受け取らずに、怪我をした方の腕に触れ、傷の具合を確認した。
 血がまだ止まらずに、出血しているのが分かる。
 えっと、こういう時は……止血?止血?どうすればいいの?!
 残念ながら、医療系に携わった経験は1度も無い。どうすれば良いのか分からずオロオロしていると、そんな私の様子をポカンと口を開けて見ていたウィークが、ぷっ。と吹き出した。

「あはは。奥様、大丈夫ですよ!こんな怪我くらい、すぐ治ります!ここで働いてたら、生傷はしょっちゅうですよ」

「こんな怪我って……こんなに血が出てるのに……」

 血が、ウィークの腕を持つ私の手にも流れてきて、私の手も、服も、彼の血で染まってる。

「奥様のお召し物がオイラの血で汚れてしまいましたね」
「そんなのどうでも良いです!それよりも、怪我がーー」

 服なんて、洗えばいい!血って取れにくいんだっけ?洗濯するメイドには、今度頭を下げます!

「……はは。ただの平民であるオイラをそんなに心配してくれるなんて、本当に良い人ですね、奥様!ルーフェス様の結婚相手が、奥様のような素敵な方で良かったです!」

「ーーー」

 私、別に何もしていない……んだけど。だけど、そう言ってもらえるなら、嬉しい。


『ルエル様、カイン様達から仕事の成果を取り上げて、自分がやったって事にしてるらしいぞ。汚い女だな!』
『本当は毎日遊んでるんでしょう?嫌ねー。なんであんな娘が、カイン様のお嫁さんになったんでしょう』
『カイン様に相応しくないわ』

 カインと結婚している時、マルクス領民の私の評価は、とても酷いものだった。

 でも、私は何も反論しなかった。
 それで、カインの評価が上がるなら、本当はとても悲しかったけど、聞こえないフリをしたの。


「奥様?」
「……ありがとうございます……ウィークさん」

 どうして私がお礼を言うのか、意味が分からないウィークさんは、首を横に傾げた。

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