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40話 結末の分かりきった最後

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「あの……私からもよろしいでしょうか」

 更に元・お義母様を追撃するように、今度はエレノア付近に座っていた令嬢が手を上げた。

「先程、ルエル様が仕事をしていないと仰っていましたが、ルエル様はこちらの嫁であった時も働いていたと、私の父から聞いた事があります」

 あら。私がマルクス伯爵家にいた時の取引先のご令嬢ですね。今は少し足取りが遠のいてしまいましたがーーこれを機に、また私と良い関係が築けたら嬉しいです。

「私も聞いた事がありますわ。なんなら、今も主人はルエル様と仕事で良い関係を築いております」
「私も、ルエル様が働いているのをこの目で見た事がありますわ」

 次から次へと、私を擁護する発言が飛び交うのを、元・お義母様は顔を真っ青にして立ち竦んだ。
 そうでしょうね。だって、今まさに、元・お義母様がついた嘘がバレたんだもの。仕事もせず夫人の務めもせず、遊び回っていた元・嫁のルエルーーーそんな事実、どこにも無いものね。

「マルクス伯爵夫人、本当に今まで、サロンやお茶会の準備は貴女がされていたんですか?ルエル様は、遊び回っていて家の事は全くされないと言っていましたよね?」
「あ……それ、は……」

 最後にトドメをさすように、ベール様が元・お義母様に問い詰めると、元・お義母様は何も言葉が出て来ないようだった。

「本当にガッカリですわ、マルクス伯爵夫人」

 ベール様に突き放され、膝から崩れ落ちる元・お義母様。
 はい。これでお終い。
 最初から結末の分かりきった無様な姿を晒してくれて、どうもありがとう。私、とても幸せよ。元・お義母様が奪っていった、私の頑張りの証ーーーちゃんと返してもらいますね。


「嘘……お義母様の、あの評判の良いお茶会は、全部、ルエルお姉様がしていたものだったの…?!」

 エレノアはエレノアで、私がマルクス伯爵家のお茶会を開いていたのを知らなかったみたいね。
 自慢のお義母様の元に嫁げたと思っていた?残念。実際は自分では何も出来ない、伯爵夫人としての教養皆無の残念な人よ。
 これからはエレノアが支えてあげてね?マルクス伯爵令息のーーーカインの妻として。
 私はこんな元・お義母様、これっぽっちも必要じゃないから。


「ーーっ!で、でも、それとルエルお姉様の噂の話とは別よ!お義母様の言っていたことは間違っていたのかもしれないけど、ルエルお姉様が私を虐めていたのも、友達を私から奪ったのも事実だもの!」

 この期に及んで……折角今日は良い気分だから、貴女は見逃してあげようと思ったのに。

「ほら!早く私に謝ってよルエルお姉様!」

 馬鹿な妹。こんなのと血が繋がっているなんて思いたくないわ。

「その奪われた友人とは、私のことですか?」

 隣にいるベール様が尋ねると、エレノアはまた、目に涙を浮かべながら、悲劇のヒロインを演じてみせた。

「勿論です!昔もお話しましたよね?私の方が、最初にベール様と仲良くなりたいって姉に伝えたんです!なのに、ルエルお姉様は私からベール様を奪ってーーー」

「私の方から、ルエル様に友人になって欲しくて声をおかけしましたわ」

「ーーーえ?」

「そもそもなんですか?ルエル様に最初に伝えたからって、お姉様が誰と仲良くなろうと、妹であるエレノア様に関係ありますの?」

「だーーって、お姉様だから……姉は、可愛い妹が欲しがるものは、全部譲らないといけなくてーー」

 ベール様の剣幕に押され、言葉を詰まらせながら話すエレノア。
 その理不尽な要求を、私は何度聞かされただろう。
 泣いても泣いても、私は妹に全てを奪われて来た。

「私の友人は、今も昔もルエル様ですわ。貴女と友人になった覚えは1度だってありません」

「っ!そん…なーー!」

(ベール様……ありがとうございます)

 こんな私を友人だとハッキリと言ってくれたのが嬉しくて、胸がギュッと熱くなる。
 エレノアに奪われない友人ーーーそれは、私がずっと欲しかったもの。貴女に奪われた友人も、きちんと返してもらうわね。


「エレノア」

 お茶会に出席した分の、元・お義母様とエレノアの不幸な顔は見れた。満足。もうこれ以上ここにいる意味は無い。
 椅子から立ち上がり、お茶会の場から去る前に、私はエレノアに声を掛けた。

「私にお願いしないと友人を作れないなんて、情けない妹ね。頑張って自分で友人の1人でも作れるようになりなさい」

「っ!はぁ?ルエルお姉様に言われたく無いわ!ルエルお姉様と違って、私には友達が沢山いるんだから!」

 そうかしら?今、貴女の周りにいる友人の顔を見てみたら?軽蔑の眼差しを向けて、貴女から距離を取っているのが分からない?
 折角猫を被って出来た友人も、今日でいなくなるのね。可哀想なエレノア。同情なんてしないけど。いい気味ね。

「では、皆様さようなら。もう二度とマルクス伯爵家のお茶会には参加しませんので、悪しからず」


 これで貴女達の評判はもっと下がったし、貴女達の流した私の悪い噂の信憑性が薄れたでしょう。さぁ、これからもっと、貴女達は不幸になるのよ。楽しみね。

 私が精一杯ご案内しますから、どうぞ地獄の果てまで落ちて下さいね。


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